7 ホブゴブリンとの決戦
7/10 誤字修正&加筆修正。
8/6 ホブゴブリンの戦闘後から遺跡を抜けるまでの流を分割修正。
進化した俺は、ホブゴブリンとの戦いで、少しでも勝率を上げようと、残り少なくなってきたゴブリン達を狩続けていた。
今の俺のLvは5だ。
生命探知を小まめに使い、残りの未探索だった通路もすべて回ってゴブリンを狩り続ってきた結果だ。
また、ゴブリン狩り中、エンチャントについて更に分かった事がある。
俺のLvが上がると、当然MPの最大値も少しずつ伸びるていく。
どうやらそれに比例して、少しずつだが、エンチャントの発動時間が伸びてきているのだ。
最初は15秒くらいだった風の刃が今では30秒。
倍近く発動できるようになっている。
それでもかなり短いが……。
相変わらず、発動後は魔力切れにより、体の動きが鈍くなるが、それもある程度動けるレベルに抑える事が出来るようになった。
これは、俺の最大魔力値が上昇しているため、エンチャントに食われるMPに少し余裕ができてきたからだと思う。
魔力の余剰リソースだけで体をある程度動かせるようになったと考えたほうがしっくりくるか。
今後もMPの最大値が伸びていけば、いずれはもっと乱用できるようになるかもしれないが、今はエンチャントを使い終わっても、少しだが動けるだけで俺としては十分だ。
いつかは戦闘中に、エンチャントを自由に使える日も来るだろう。
それがいつになるかは、今の俺には分からないがな。
さて。生命探知を使って時間をかけて通路をあらかた調べつくした。
もうこの遺跡にゴブリンは殆どいないのだろう。
残るは、あのホブゴブリンがいる部屋とその先のみだろうか。
確か、初めて奴と戦った時もLv5だったな。
あの時は、結局勝てずに、逃走しか手段がなかった。
たが今の俺は違う。
進化をして、あの時より強くなっている。
だが油断はしない。
奴は今まで戦った中では、最強の敵なんだからな。
――ついに、奴に敗北して、逃げ帰った通路まで戻ってきた。
この先に、ホブゴブリンがいる。
生命探知を使って確認したので、確定だろう。
やはり、奴はあの場所から動かなようだ。
再び訪れたこの部屋の中に、ホブゴブリンは通路を塞ぐようにして佇んでいた。
既に剣を抜いており、まるで俺がここに来ることを、わかっていたように感じる。
あの時、俺を見下していたその瞳は、今は爛々と輝き、醜悪な顔を歪ませて獲物を見つけた事を歓喜している様子だ。
そうか。
ようやく俺をちゃんとした敵と認識してくれたわけか……。
いくぞ。今度こそ勝たせてもらう。
俺はククリを右手で構え、再び奴と対峙した。
――お互い其々の獲物を構えて、駆け出したのは、奇しくも同じタイミング。
銀の残光を残し、直剣とククリの刃がぶつかり合い火花を散らす。
やはり、重くて早い一撃。
だが前程の絶望感はない。
受け止めて分かった。
俺の今の力ならば、こいつに十分対抗出来ると。
ホブゴブリンの振るう直剣の攻撃を、ククリを使い弾く。
お返しとばかり、斜めからククリを降り下ろすと奴は直剣で機動をズラすようにガードする。
ギリギリの攻防にもかかわらず、奴の瞳は歓喜に溢れている。
前戦った時から思ってたが、このホブゴブリンは、まるで戦闘狂みたいな奴だな。
いや。実際そうなのかもしれない。
奴のガードを崩そうと、更に追撃を放とうとしたのだが、それより早くにカウンターの拳が飛んできたので後ろに跳び一時離脱。
俺が躱すことを読んでいたのか、それに合わせて今度はホブゴブリンが走り出し、追撃をしかけようとしてくる。
慌てて左手で腰からナイフを1本取り出し投擲。
それは右に回転するように、回避されるが一瞬足を止めることは出来たようだ。
一呼吸置き、再びお互いに接近し合い、己の武器を打ち付け合う。
だが今度は、奴の攻撃が激しくなりはじめ、俺がじわじわと押され始める。
スキル補正の乗った奴の直剣の刃は、重く速い。
俺は短剣術を頼りに後ずさりながらひたすら弾き、いなし、回避する。
スキル補正では負けているが、ステータスの値では俺が勝っている。
落ち着け……。
もう、勝てない相手ではないのだから。
しかし、奴の怒涛の攻撃の前に、俺は壁際に追い込まれてしまい、最早後ろに下がれ無い所まで来てしまった。
ホブゴブリンは俺が逃げ場をなくしたのを察知したのか、素早く右手で持っていた直剣を、その両手で握り直す。
これで止めだとばかりに、一瞬で両足を開き、渾身の力を籠め、雄叫びと共に両手で持った直剣を横薙ぎに一閃。
「ガアァァァァァァァッ!!」
まさに鬼気迫る一撃が、すさまじ殺気と共に放たれる。
だが……この構え!
いけるかっ!?
恐ろしい速度で迫るその刃を俺は、素早く体を屈ませることでギリギリ回避する。
頭上を凄まじい勢いで刃が通り過ぎ、がりがりと背後の岩肌を直剣の刃が削り取り、土煙が周囲に舞う。
刃が頭上を通り過ぎるのを確認し、俺は素早く立ち上がると同時に、地面を思いっ切り蹴って、ヘッドスライディングの要領で急ぎ奴の股下を潜り抜けた。
ようやく後ろに回り込めるチャンスが来た。
素早く起き上がると、ククリで奴の背後からり切りかかる。
狙うは心臓への一撃必殺。
ウォーカーの素早さを生かしたこの一撃を躱せるか?
俺の姿を一瞬見失ったホブゴブリンだが、背後にいることを瞬時に気づき、振り向きと同時に剣を横に構えてククリの攻撃を受け止めてみせた。
くっ!? 今の一瞬で俺の位置を判断して受けるかっ!?
やはり、こいつは侮れないな。
だが、俺と奴の立ち位置は完全に逆転した。
俺が攻撃で奴が防御。
そして、なにより奴の背後に逃げ道が無いこの状況。
決める。切り札を切るならは此処しかない!
俺は最後の攻撃に移るため、ありったけの魔力をククリへと注ぐ。
(いくぞ! エンチャントッ!!)
俺のMPを湯水のように吸い上げ、ククリの刃が風を纏い始める。
ククリの柄に填められ魔石が、魔力を吸う度に輝き出し、刀身は更に魔力を持った風を纏う。
今まで拮抗していた直剣に、風を纏った刃が触れると、ギシギシと軋むような音が鳴る。
これは流石に予想外だったのだろう。
ホブゴブリンは、初めて焦りの表情を出した。
俺は一点集中を意識して、ひたすらククリの刃を、奴の直剣に叩き込み続ける。
斬撃の嵐とも言える猛攻を前に、さすがのホブゴブリンも攻撃に移れないようだ。
ひたすら直剣を振るい、俺の攻撃を相殺することで受け続ける。
……あの時とは立場が逆だな。
もし今、俺の顔に皮膚があれば恐らく。
今俺は笑っているのだろうな。
ああ……。
ようやくお前に借りを返せる。
防戦一方になるホブゴブリン。
だがお前に逃げ道は、既に無い。
この風のような刃の連撃をホブゴブリンは自らの剣のみで凌ぎ切るしかない。
実際、俺の攻撃はことごとく奴の直剣に受け止められている。
剣術スキルのLv2の力だろうが恐ろしいものだ。
ステータスの差もあるはずなのに、こいつは俺の攻撃を凌いでいる。
俺自身も、かなりの速度で刃の連撃を放っているはずなのにだ。
しかし、風の魔力を伴った刃は、確実に奴の直剣の刃を少しずつ削り落としていた。
それが分かっているか、ホブゴブリンの表情に、更なる焦りが見える。
やがて。
――パキィッ!
乾いたそんな音を立て、ついに奴の直剣の刃が半ばから砕けた
それと同時に刃に纏った風が消失していく。
効果時間はギリギリかっ!
凄まじい疲労感を感じるが、初めてエンチャントを使った時に比べれば軽い。
ここにきてLvをギリギリまで上げた成果が出た!
お蔭で俺はまだ、手も足も動かせる。
俺はそのままホブゴブリンの首にククリの刃を振るう。
ホブゴブリンはどうにか横に回避しようとするも、俺の攻撃の方が速かったようだ。
避けそこなった右肩に大きな裂傷を負い苦悶の声を上げ、折れた直剣を落とした。
「グ、グォォォッ!」
更に追撃を仕掛けようと踏み込むが、逆にカウンターの膝蹴りを食らい、凄まじい衝撃と共に吹き飛ばされてしまった。
地面に着く直前、咄嗟に受け身をとる事により、そのまま起き上がる。
くそっ。
今のでも仕留められないのか!
だが奴の右腕は潰した。
武器も破壊した。
もう少しだ。
後は、あいつに止めを刺すだけ……!
だが奴の心は、まだ折れていないようだ。
未だ闘志を見せるホブゴブリンは己の肉体のみを武器にするように、ファイティングポーズで俺を睨んでいる。
まったく大した奴だよお前は。
俺だったら間違いなく諦めてるような状況だというのに。
俺もククリを構え直し、再び奴めがけ駆ける。
これに対し奴は、体術スキルによる蹴りと無事な左腕の拳のみで俺を迎撃しようとする。
筋力増強スキルも有る為に、もしこれも真面に食らったら、かなりのダメージになるだろう。
実際さっきの膝蹴りもかなりきつかった。
だが、もう後には引けない。
恐らくお互いに限界は近いのが分かる。
だから俺は、こごでコイツとの決着をつけ、先に進むっ!
決意を新たに、最後の力を振り絞り更に接近。
迫りくる蹴りを左手でいなし、拳を屈んで躱し奴に更に接近。
傷付いた方の腕に、俺は左手の貫手を放つ。
痛みに怯んだその隙に、右手に握りしめたククリを奴の首目掛けて振り被る。
ホブゴブリンもまた、俺に最後の一撃を当てようと、右手の拳を放つ。
だが、傷を負ってるせいか、その動きが僅かに鈍った。
そのほんの僅かな隙が、勝負を分けた。
お互いすれ違うように交差する一瞬。
勝負はついた。
肉を切り裂く感覚を刃越しに感じ、俺はすぐに振り返る。
ホブゴブリンは……まだ立っていた。
右手の拳を振り抜いた格好のまま。
だがその首にはばっさりと切られた傷があり、傷口からは止めどなく、青黒い奴の血が流れている。
間違いなく致命傷だ。
奴は自分の傷を左手で軽く触り、ゆっくり振り向く。
その瞳はただ俺をまっすぐ見つめていた。
だがその瞳には、あの時見た見下したような眼ではなかった。
やがて満足そうに。
その顔を不敵な笑み作ると、奴のその体がついに地に倒れ、それっきり起き上がることはなかった。
【経験値を125獲得しました】
【獲得経験値が一定値に達しました。Lvが7に上りました】
俺とホブゴブリンの死闘は、こうして幕を下ろしたのだった。