1 現状把握
7/9 加筆修正及び誤字修正。話の流れ事態に変化はありません。
さて。冷静に今の俺の状況を確認してみよう。
まず俺の体だが、全身すべてが骨だけだ。
小学校の理科室に人体模型とセットで置いてある骨格標本。
正に、あれと同じだな。
皮膚はおろか、内臓も無い。唇や鼻や目も耳も髪すら無い。
恐る恐る、眼窩の中に指を入れてみたのだが、中は空洞だったので、脳も無いのだろう。
そうすると俺は今どこでこの見たり触ったりしてる情報を処理してるんだろうか?
そもそも脳が無いって事は思考すらできないはずじゃないか?
さっぱり、分からないな……。
他にも、目や耳が無いはずなのに、視覚と聴覚はちゃんと存在しているようだし、物を触った限りでは、触覚もあるようだ。
味覚は当然無いだろう。舌が無いのだから当たり前か。
痛覚も無いようだ。
軽く自分の頭を小突いてみたが、痛みを感じなかった。
だが、不思議な事に、こんな体でも意識を向けると、手足はちゃんと動くものだ。
物を掴んだり、歩いたり、走ったり、飛んだりする事だって可能だ。
骨だけの体なのに、神経とかはどうなってんだろうか。
しかも、動いても体がバラバラになるような事もなく、まるで溶接でもされてるようにがっちりと骨同士ががくっ付いているみたいだ。
他にも確認できたのは、声を出す事は出来ない事。
そもそも呼吸をするための肺もなければ声帯すら無いのだか当然か。
口を開いた時に、顎が揺れてカタカタと音がするだけだ。
あとは嗅覚もない。
なぜ分かったのかというと、理由は俺のいるこの場所だ。
この岩肌に囲まれた部屋の中には、なんと人間の死体が散乱しているのだ。
現代だとそれだけで警察やマスコミが大騒ぎするような現場だよ。
散乱している死体は、剣や皮鎧をつけて白骨化している者、腐りかけてちょっと見た目が大変よろしくない者。中にはまだ比較的新しい者もあった。
こんな死体だらけの場所にいて、正直発狂しそうになった。
気持ち悪くもなったが、胃が無いから嘔吐する事はなかった。
腐臭を感じないのが唯一の救いだな。
本当に何なんだこの状況は。
悪夢過ぎる。
それにファンタジーだわ。
しかも、どっちかというと、雰囲気的に思いっ切りダークファンタジー系だ。
最悪の気分だ。
一体俺の身に何が起こったというのだろうか……。
動き回る骨の化け物か……。
これってゲームとかでお馴染みの、スケルトンってやつなのか?
ならば、やはりこの状況はアレだろうか?
実はこんな非現実的な事ながらも、俺は思い当たる事が一つあった。
それは、小説等でお馴染みの異世界転生という物だ。
俺も会社の通勤時間等を利用して、スマホでネット小説をよく読んでいた。
そして、好きだったジャンルの一つが異世界転生物だ。
そのジャンルの小説の冒頭が、今の俺が立たされている状況と非情に良く似ているのだ。
ある日、突然見知らぬ場所で目覚めて、人間以外の姿に変わっているこの状況等、非常にお約束とも呼べる。
しかし、実際に今の俺の状況は、その異世界転生とでも考えなければ、説明がつかないのではないだろうか?
それに、異世界でもなければ、そもそもこんな骨だけの体が動き回れるわけがないのだ。
こんな不思議生命体は、ゲームや漫画なんかの中だけの存在だからな。
もし本当に転生だとしたら、俺はやはり、元の世界で死んでしまったのか?
それとも、何らかの原因で俺の魂だけがこの世界に来て、骨の体に乗り移ってしまったとかだろうか?
……分かるわけないが。
そもそも、今の俺は果たして生きているのか、それとも死んでるのか。
どっちなんだろうか……。
しかし、仮に転生だとした場合、こういう場合って前もって神様等に出会い、そこで何かしら恩恵を貰う事により勇者とかになるパターンじゃないのか?
チートとか無いのか?
強力な魔法とか武器とかスキルとかさ。
何も選べないわけ?
一切説明受けてないよ俺?
チュートリアル的な物はないの?
転生人生開始と同時に、強制的にキャラ完全ランダムでスタートとかそういう感じですかね?
ははは。なにそれ斬新。
いやいやいやっ!!
笑えないよこれ? どういう事なの神様?
そもそも、何故俺は人間じゃなくってスケルトンになってるんだよ!
転生だったら、せめて種族くらい選ばせてくれてもいいだろ!
転生先がアンデットなんて幾らなんでも、理不尽過ぎると思うんだが!?
神様ー。居るならせめて説明くらいしてくれませんかね?
なんて思っても答えてくれるわけもなく。
受け入れろというのか? この状況を……。
人生前以上にハードモードだよ……。
なんだか無性に泣けてくる。
涙腺ないから涙なんて出ないけどさ。
神は俺になんの恨みがあるのだろうか……。
俺氏。ある意味憧れだった異世界転生できたけど、種族はスケルトン。
剣や魔法のファンタジーでおなじみの序盤雑魚その1。
ああ……。
これどこに訴えればいいんだろうか。
やり直せるならやり直したいんだけど……。
ああ。偉大なるフリードリヒさん。
やっぱあんたは正しかった。
あんたの有名な言葉通りだよ。『神は死んだ』
元々信仰なんて全くしてなかった俺だけど、今俺の中で完全に死んだよ神。
俺は今世でも絶対に無神論者で生きていこう心に誓ったのだった。
余りにも受け入れがたい現実に、思わずそんな事を考え、頭を抱え込んでしまう。
可能なら、この状況を夢だと切り捨てて、このまま眠ってしまいたい。
だが、残念ながらこの体。どうやら眠る事もできないようだ。
瞼も無いから目もとじられない。
まったく、現実は何処までも非常だ。
時間だけが過ぎているが、状況はまるで変わる気配が無い。
いい加減行動を起こそう……。
何時までも此処で嘆いていても仕方ないからな。
とりあえず、先ずは、この死体だらけの不気味な場所から出てみようか。