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第五章:魔法世界 後編

 カタツムリが半ば呆れ模様で隼を説得しているとき、個室の扉がノックされた。二人は黙った。

「失礼するよ」

いかにも青年っぽい、クールな声の男性のようだ。声の者は扉を開け、中に入った。


 厳しそうな顔、黒いショートヘア、赤白の模様が描かれたローブ。年は20前後の若者で、とにかく覚えやすい風貌の男だった。青年はベッドのそばに寄り、カタツムリと隼を交互に見遣り、隼に目を留めた。隼は男を見上げる。

「君が先生の言っていた、科学世界ノマルズ出身の子かい?」

「?」

隼はぽかんとした。いきなり不可解な言葉が飛んできたような気がした。

「ああ、そうらしいぜ」

隼をチラっと見たカタツムリは、彼のかわりに返答する。

「ふーん」

青年は隼をじろじろ見つめ、小さく二回頷いた。


 「わかった。じゃまずこれに着替えてくれ」

と、青年は言い、ふところから綺麗にたたまれた服を取り出した。

「魔法世界ではローブが絶対条件なんだ。これからはしばらく、食事のときも寝るときもローブのままでいてもらう。もちろん他のローブに着替えてもらってもいいが、常にローブ姿でいてもらうよ」

「はぁ……」

隼は微妙な返事をする。何だか主旨のなさそうな要望だったが、彼は言われるままに服を着替えた。


 青いローブに着替え終わったのを確認した青年は、促すように言う。

「よし、さっそく行こうか」

「え?」

「君はこれから魔法世界の住人だ。そのためには、杖を買い、ペットを買い、階級石ライセンスストーンを受け取り。やることは山ほどある。だからまず……」

「あの……なんで、そんなことしなくちゃならないの?」

隼は口を挟んだ。さっきから疑問で仕方なかったのだ。魔法世界の住人だの、ローブの着替えろだのって、よくわからないことだらけだが、勝手に決めてもらっては困る。隼は真剣な目で彼を見つめた。

「そこのでんでんむしから聞かなかったか?」

「何を?」

「君は魔法使いになるんだ」



 


 隼と青年は、カタツムリを残して個室を後にし、廊下を抜けて外に出た。その間、宙に浮いた蝋燭やひとりでに開く扉などが見受けられたが、隼はなるべく目をそらすようにしていた。


 二人が外に出たときの天気は晴れで、温かい日差しが彼らを照らした。


 街は見たことのない風景で、完全な欧米文化の町並みが広がっており、全身真っ白な家やレンガ造りの建物、先端が放物線を描くように曲がった街灯などがある。そして欧米文化でも、いや、地球全土どこを探しても絶対に有り得ないのが、歩いている人の全員がローブであること、そのローブを着た者たちが箒に跨って空を飛び交っているということだ。ちなみにローブの色は全員、青色だ。


 「ノマルズはこういう光景を見るのは初めてだろう?」

ノマルズというのは、きっと自分のことを言っているのだろう。

「ああ。信じられないほどびっくりだ」

「まあ信じられなくても無理もない。俺たち魔法使いはノマルズから見れば、全てが非論理的なものだからな。慣れないうちはいろんなことで驚かされるだろうよ。さあ、行こうか」


 隼は彼の後に続いて歩き、商店街の中に入った。通行人は全員ローブ姿で、隼と同年代くらいの子供もいたし、箒に乗って宙に飛び立つ者もいた。さきほどのカタツムリと同様、人語を理解して人間と普通に会話する動物も多々見受けられた。また、日本でも見られる露店めぐりというものもこの世界でもちゃんと存在している。彼は凄い、凄い、と心の中で何度も叫んでいるとき、突然前を歩いていた青年が立ち止まり、振り向いた。

「そうだ、名前教えてくれよ。まだ聞いてなかっただろ?」

「ああ、ああ」

急に言われたもので返事が曖昧になってしまった。

「俺はエンディ・クロネスって言うんだ。よろしくな」

エンディは握手を求めて手を差し伸べた。

(名前的に絶対日本人じゃないな)

「俺は黒羽 隼、よろしく」

少し違和感がありながらも、隼はエンディの手をしっかりと握った。その手には人の温かさというものがちゃんとあった。


 隼は思い切って聞いてみることにした。

「あのさ、エンディ。ずっと気になってたんだけど、なんで日本語喋れるの?」

「ん?日本語?……ああ、言語のことか。俺たちは別にその日本語ってやつを喋ってるんじゃないんだ」

「どういうこと?」

「なんていえばいいかな。どんな言語にも共通してる言葉ってとこか」

しかし全世界共通語とはまた違うらしい。

「つまり……俺たちの言葉が、その日本語に聞こえてるんだよ」

「……難しいな。まあ日本語を喋れる外国人ってことでいいや」

「どっちかっていうと異世界だけどな」


 二人はまた商店街の中を歩き出し、七色に変化する不思議な看板のところまで来て立ち止まった。七色に変化する看板に書かれている文字は「WAND SHOP」。杖の店、だ。どうやら本当に、漫画やアニメで登場する魔法使いの杖がここにあるらしい。隼は少しドキドキしながら、エンディとともに杖の店へと足を踏み入れた。


 

 まだまだ不思議で信じられないことだらけだが、隼はこの日、一つだけわかったことがある。それは、この世界は夢でもなんでもなく、本当に存在する「魔法世界」であるということ。もしそうでなければ、握手を交わしたときに感じられた人間のぬくもりを説明することができないからだ。現実世界だからこそ感じられるものがあるということである。



ノマルズはまんまノーマルをちょっといじっただけです(笑)

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