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二章 隣国との交渉 3

ようやっと城から出れました(笑)

 未だ納得のいかない様子のウィルを先頭に、一行は謁見室の前へとやってきた。お待ちください、とモーゼスの一言で立ち止まる。

 モーゼスはリゼッタへと視線を向けた。リゼッタは頷くとウィルの方に深々と頭を下げた。


「それでは、下でおまちしています」

「ああ」


 謁見室といっても誰でも入れるわけではなく、相応の身分が必要であり、爵位などを持たないものは事前に許可を取らないといけなかった。いくらウィル付きの侍女だろうと、一介の侍女に過ぎないリゼッタは中に入る権利がなかったのである。それはウィルに付き従う兵達も同じであった。彼らは今頃ウィル達の出発を今か今かと、待ち構えている筈である。

 ウィルはリゼッタを見送るとモーゼスに頷いた。モーゼスの合図で扉の両脇に控えていた兵士が扉を開けた。


 中に足を踏み入れた三人を待ち受けていたのは多くの貴族達と国王であるレイバンだった。レイバンはだだっ広い部屋の最奥部にある玉座の上に腰掛けていた。ウィルの姿をとらえるとにやりと口の端を上げた。


「来たか」


 ウィルとジャスカールはレイバンから十メートルほどの場所まで足を進め、片膝をついて頭を垂れた。静まりかえった室内に足音と軽鎧の擦れる音が響いた。モーゼスは二人を追い抜きレイバンの座る玉座の傍まで歩いていくと、近くにいた文官から一枚の紙を受け取りそこに書き込まれた文字を読み上げていった。


「ウィル•エル•トリウム。国王レイバン•レミア•トリウムと軍神アムスラの名の下に、其方を魔王討伐に際しての軍の指揮者とし、過去の勇名にあやかりここに勇者として任命する!」


 朗々とした声でモーゼスは訓示を読み上げていく。その声は老齢を感じさせないほどに逞しく、一体どこから声を出しているのか、張り上げた訳でも無いのに低い声を部屋一面に響かせた。


「勇者の任、謹んで拝命致します」


 ウィルの声は緊張からか少し震えていたが、彼もまた良く通る声の持ち主だ。モーゼスとは対照的な若さを感じさせる声を辺りに響かせた。

 一層深く頭を下げて、次の言葉を待つ。予定調和の決められた儀式ではあったが、貴族達は勇者任命という有事に立ち会い思わずどよめいた。ひそひそと交わされる言葉がさざ波のように広がっていく。だがそれも僅かな時間のことで、モーゼスの咳払いで辺りは再び緊張した空気に包まれた。


「面をあげよ」

「はっ」


 成り行きを見守っていたレイバンの口から重々しい声が発せられた。その声に従うようにウィル達は頭を上げた。己を見つめるレイバンと目があったウィルはその視線を真正面から受け止める。

 ふっと、レイバンは表情を緩めると穏やかに微笑んだ。


「良い面構えになったな」


 レイバンは玉座から立ち上がると跪く二人から視線を逸らし貴族達を見渡す。その誰もが緊張の面持ちでレイバンを注視していた。

 一瞬モーゼスに視線を向けたレイバンは再びウィル達へと視線を戻すと仰々しく飾られた袖の裾を振り上げ、右腕を真正面へと突き出した。


「ここに勇者は誕生した!これより我が国は彼らを支援し、魔王討伐に尽力することを誓う。この誓いは魔王を討ち滅ぼすその日まで決して違えることはない!」

「ははあ!!」


 レイバンの宣誓に対してその場にいた一同が一斉に跪く。それらはまさに圧巻というにふさわしく、その場にいたウィルとジャスカールの心を大いに奮い立たせた。


「往けい!勇者よ!其方と其方の率いる勇敢なるもの達に、軍神の加護のあらんことを!!」

『あらんことをっ』


 一斉に張り上げられた声に部屋が揺れたかのような錯覚にウィルは陥った。湧き立つ心に自然と身体が反応する。


「ははっ」


 一度大きく頭を下げた二人は反動をつけて勢いよくたちあがった。その勢いのままに踵を返し、出口へと大股で歩いていく。胸を張り歩く姿は、威風堂々という言葉が相応しく見送る者達に希望と安心の気持ちを思い起こさせた。


 


 二人は謁見室出てと城門の方へと進んでいく。門の手前、やや広く修練場として普段は使われている場所に、リゼッタやこれから共に戦う兵士達がいた。その数およそ百人、軍団の規模としてはかなり小さいが、兵站や移動速度のことを考えるとこの人数が限界であった。それに、あまりに規模を大きくさせすぎると、周辺の国に軍事行動と勘違いされかねない。旅立つと決まった時に念のため早馬を飛ばしはしたが、状況が状況である。疑われるような行動は避けるべきだと、レイバンとモーゼスは考えたのだ。


 城門の外では出発を待つ街の住人がひしめき合っている。ウィルは繋がれていた馬へと飛び乗ると、腕を上げて合図をだした。ジャスカールも馬に乗り、傍に控えている。リゼッタは糧食の積まれた馬車の荷台に乗り込んだ。


 合図を見てとった門番が城門を開くための滑車がついた握りをゆっくりと回していく。鉄の枠同士が擦り合わさって悲鳴をあげながら、重々しい動作で城門が開いていった。

 その先の光景にウィルは思わず目を見張らせた。ウィル達の通る道を除いて、動く隙間のない程の数の人々がウィル達を見送ろうと待ち構えていた。


 彼らは一様に期待に瞳を輝かせていた。身体の芯まで揺さぶるような歓声が響き渡った。

 ウィルは湧き上がる歓声に手を振って応えながら、絶対にやり遂げよう、と強く心に誓ったのであった。

 太陽は中天にあり、彼らのいく先を照らすかのように燦々と光り輝いていた。

 こうして大勢の人々に見送られながら、一同は城の外へと、足を踏み出したのである。



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