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二章 隣国との交渉 5

「危ないところを助けてくれてありがとう。私はメリダ!あななたちは?」


 少女の声は幼い外見に似合わずしっかりとした印象を三人に与えた。ジャスカールが一歩前に出て名乗りを上げた。


「私はジャスカール、この兵隊の隊長をしている。そしてこの方は我がた……」

「ウィルだ」

「リゼッタと申します」


 ジャスカールは自分に続いてウィル達を紹介しようとしたが、彼が言い終わる前にウィル達は各々口を開いていた。面食らった様子のジャスカールだったが、ウィルの目配せにはっとして口をつぐんだのだった。


 ウィル達は特殊な旅の最中である。そのため、相手の素性もわからないうちは徒らに身分をバラすのは得策でないとウィルは考えたのである。


「ふーん」


 メリダと名乗った少女はは値踏みをするようにウィル達を眺めていたがリゼッタの咳払いで何事もなかったかのように微笑んだ。

 ウィルとジャスカールを見比べて、近くにいたウィルの腕にしがみつく。今度はウィルが面食らう番だった。


「ねえ、貴方達このまま進むのよね!途中まででいいから私を連れていってくれないかしら」


 生まれてこれまで女性と親密になることのなかったウィルはメリダのいきなりの行動に戸惑い、

 どうしていいか分からずにその場で固まってしまう。意図せず身体が熱を帯びていくを彼は感じた。

 その様子をみて助け舟を出したのが、ジャスカールである。彼はメリダの正面に移動し、


「私たちに目的があるのだ。それには危険が付いて回る故、貴女の同行を許すことは出来ない」


 と彼女に言い聞かせた。大柄なジャスカールと小柄ではかなりの身長差になってしまったため、ジャスカールは子供に話しかける時のように腰を屈めなければならなかった。


「そうです。それに、素性のわからないものを連れて行くことはできません」


 そこへすかさずリゼッタが追随した。これにはウィルも驚いた。彼女のことをよく知るウィルは、リゼッタがこういった場面で出しゃばるとは思わなかったのである。相変わらず表情は何を考えているか読めないが、彼女からいつもと違い何やら鋭くとがった空気がにじみ出ているのを感じた

 。


 リゼッタは肩を怒らせながら未だにくっついている二人に近寄り、有無を言わさず二人を引き離そうとした。


「その御方はさる高貴な身分にある方です。血のついた服で触れていい方ではありません、離れなさい」

「え、そうなの、あなた貴族なんだ!」


 リゼッタが間に割り込むとくるりと身体を回転させて今度は反対側の腕にしがみつく。リゼッタのことなどまるで相手にしていない様子で、甘えたような仕草と上目遣いでウィルの顔を覗きこんだ。

 整った顔立ちの少女と至近距離で目があったウィルは、頬が赤くなるのを感じた。思わず視線をそらし、居心地が悪そうにちらちらと視線を彷徨わせていた。

 そんなウィルとは正反対にリゼッタが放つ空気はどんどん冷たいものになっていく。

 メリダはそんな二人の反応を楽しんでいるのか、掴んだ腕にさらに己の身体に密着させた。


 そんな三人のやりとりをみかねたジャスカールが咳払いをするとウィルは我に返り、慌ててメリダを腕から引き離した。


「と、とにかく、君を連れていくことはできない」

「あら、ホントにいいの?」


 メリダは意地悪く微笑んだ。

 余裕たっぷりな少女は縛られた髪をかきあげる。ふんわりと甘い匂いがあたりに舞った。どういうことだ、とウィル達は顔を見合わせた。


「わたしは北にある森で魔女をしているの。軽い怪我ならすぐに治せるし、大きな怪我だってほら」


 彼女はそういって両手を広げて兵士を見るように促した。彼女の後ろには何人かの兵士が蹲っていたはずだが、今は誰一人として座りこんでいるものはいない。中にはかなりの傷を負ったものもいた筈だが、とウィル達は目を凝らすが、痛みに顔を顰めるものはいてもその殆どがなんでもないと後処理に動き回っていた。


 転がった死体を燃やすべく馬車や横たわるドグー達を一ヶ所に集めている。彼らを一瞥しただけでは、誰が怪我をしているかわからない程だった。


 信じられないといった表情で三人はメリダに視線をもどした。彼女の持つ技術はウィル達にはまるで奇跡か魔法のように映ったのだった。


「どう?これでもわたしを連れていくのは無理?」


 片目を愛らしく瞑りながらメリダは悪戯っぽく微笑んだ。

 ウィルとジャスカールは一も二もなく頷き、リゼッタは不満そうにそっぽを向きながらも、反対の言葉を上げることはしなかった。

 こうしてメリダはウィル達と行動を共にすることになったのである。

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