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蒼き聖剣と紅の魔王  作者: 葵
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旅立ちの日

 ドラゴンに立ち向かう騎士達も、大陸に覇を唱えようとする王達も、全てを破壊しつくそうとした魔王の軍団も、主役は自分達だと思っていた。

 僕もその一人だ。僕の冒険の主役は、僕だ。


 リストは静かな町だった。

 僕は日課になっている剣を朝から振っている。

「ティーロ。そろそろ朝ごはんよ」

 いつものように母が庭に顔を出し、いつものように僕に声をかける。いつもの日常の一コマだけど、今日はそんな日常と別れを告げる日だ。

 冷たい水で体を拭き、朝ごはんを食べながら母に話しかける。

「食べたらギルドに登録に行くよ。」

「16歳になったらって約束だったわね。お世話になった役場の皆さんにちゃんと挨拶してから行くのよ。」

「ん。わかっている。落ち着いたら手紙書くようにするよ。」

 遠く、大陸のベーリンの町がモンスターに占領されたのは10年も前の話だ。噂には聞いていたのだが、3年前ついに僕らの島にもモンスターが侵入してきた。海を隔てている上に、粗末な船で渡ってきたので、大した戦力では無かったが、それでも島は大混乱に陥った。僕は12歳で初等学校を終えてから町役場で働いている。あの日、遠くの脅威が目の前に迫った日の事を今でも覚えている。親しい職員が応戦し、何名かは傷つき、何名かは亡くなった。大陸では何年か前から設置されていたハンターギルドが隣町に出来たのもその後だ。その日以降、モンスターは何度となくこの島へ渡航し、いつの間にか繁殖し、全てを駆逐するのは現実的では無くなってしまった。

 僕の家である、ラッヘルマン家は地元では名士だ。今でこそ平民だが、何世代か前までは騎士爵家だったと聞く。二男である僕は、父母はこのまま僕が役場で働き続ける事を希望してるのを知っていながら、ハンターを志望している事を伝えた。父母は16歳になるまで町役場で働き、稼ぎ、鍛え、その上でなら、という条件付きで、僕の希望を聞いてくれた。

「父さんへは、昨日のうちに挨拶を済ませたからね。じゃ、行って来るよ。」

「気をつけてね。ティーロ。父さんから狩猟用のナイフを持っていきなさいって。」

「ありがとう。父さんの愛用のナイフだね。大切にするよ。」

 ナイフを受け取って、出発する。町役場に挨拶をしに行くと兄がいた。役場では上司でもあり、そのうち町長となるであろうリストの町の幹部でもある。

「きょう出発するんだってな。俺からは選別にこれをやろう。」

 兄が渡してくれたのは、メモ用布で作ったノートとペンだった。

「貴重なものを。ありがとう。・・馬車の時間だから、そろそろ行くね。」

 役場の同僚達には本当にお世話になった。心からお礼を言って旅に出た。皆口々に別れを伝え、旅の無事を祈ってくれた。


 初めの目的地は隣町、スルトだ。スルト行の馬車は週に1度だけ出る。馬車に揺られて1日半の距離だ。今からなら明日の夜には着くだろう。

 馬車には御者の他、先客の商人と、壮年の冒険者がいた。

「ご一緒させて戴きます。ティーロ=ラッヘルマンです。」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。リストとスルトの町で商いをしておりますアルマントと言います。」

「バーン。この馬車の護衛をしている。冒険者だ。」

 御者に料金1万マークを支払い、旅の同行者たちと会話しながら進んだ。

 1日目の旅程は順調に進み、交代で見張りを行い夜営をしていた所、バーンから警告の声が上がった。

「皆、起きてくれ。魔物に囲まれている。」

 僕も御者もアルマントも手に剣を持ちテントから飛び出した。

 ウォーウルフという犬型のモンスターだ。6匹程の群れだったが、既に2匹はバーンの剣によって倒されていた。

「残り、一人一匹ずつやろう。」

 御者が声をかけ、それぞれの担当するウォーウルフに対峙した。

 ちらりと様子を見ると、バーンはもちろん、御者も充分な腕をしている。アルマントも中々の動きで、心配なさそうだ。一番危なっかしいのが自分だったので、自分の獲物に集中する事にした。

 初めての戦闘だったので、無理をしない事。落ち着いて対応する事。牙の攻撃を防ぎ、前足と目を狙う。何度かの攻防の後、ウォーウルフの前足を薙ぎ払う事が出来た。

 とどめを刺して、ふっと息を吐き、顔を起こして周りを見上げると、既に皆戦闘完了していた。

「助けようかとも思ったのだが、危なげ無さそうだったからな。」

「いえ、ありがとうございます。いい経験になりました。皆さん、お強いですね。」

「私も未だに怖いのですが、商いをするためには仕方なくて。」

 聞けば、街道では襲われる事も多いので、最近の旅慣れている人はある程度の戦闘力が必須だそうだ。それで商人のアルマントも戦えるのか、と納得した。

「ティーロさんは冒険者を目指しているのですよね。初戦闘とおっしゃられておりましたが、危なげない戦い方で感心しましたよ。」

「ありがとうございます。ですが、やはり緊張しました。怪我しないで倒せて良かったです。」

「そうだな。増長して大きな気持ちにならない方が良い。慎重に戦えば、技術は良いものを持っていると思うぞ。」

 バーンも厳つい顔を崩して笑っていた。

「魔石と毛皮を収集しましょう」

 アルマントは早速皮を剥ぎにかかる。魔物はそれぞれ体内に魔石を持っている。討伐証明としてこれを持ち帰ればギルドより報奨金が出る。皮は鞣して売る。冒険者の主な収入源はこうした魔石と素材、そして依頼料の3種類になる。毛皮はそのままアルマントが買取り、魔石はそれぞれが倒した獲物の分を持ち帰る事にした。

 夜明けを待って、馬車を進める。

 お昼過ぎにはリストの町についた。

「名残惜しいですがお別れですね。皆さん、道中ありがとうございました。楽しかったです。」

 僕は皆に別れを告げて、リストの町に入っていった。

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