近藤操
「もしもし母さん?
あったよ!俺の番号あったよ。」
操は電話越しに叫んだ。回りにも聞こえたのか、通りすがりの人がこちらへ一瞥をしてくる。
大学生らしき女のコの二人組が、笑いながらコソコソとなにか話している。
操は少し気恥ずかしくなり、声のトーンを落とすと、
電話口にもう一度言った。
「合格したよ!とりあえず今から帰るから、
父さんとご飯食べに行こう。」
母の返事も待たないうちに、操は駅のホームへと小走りで向かった。
近藤家は代々、国家に使える公務員、難関中の難関、警察庁の一種、
エリート警察官だ。
父も祖父も、そのまた父も警察庁に仕えた、警察庁一筋一家である。
今回国家公務員一種の試験に合格するため、
操はすべてを投げうってきた。
彼女ともわかれ、友達と遊ぶ時間も排除した。
一年半、予備校に通い、来る日も来る日も勉強にあけくれた。
東京大学出身の父や祖父とは違い、操はあまり勉強ができるほうではなかった。
大学受験に失敗し、私立の大学に通った。
その大学で、国一に受かる生徒は一年に一人いるかというレベルだった。
努力は必ず報われる。継続は力なり。
祖父から授かった、この言葉だけが操の努力の活力だった。
常日頃は冷静で、もの静か、そして固い意思の籠った真っ直ぐな瞳をした、操は女性人気も高く、あこがれの的であったが、
今回ばかりは、そんな人の評価など気にせずにスキップでもしてしまいそうなくらい舞い上がっていた。
まだ面接試験が残ってはいるものの、試験に受かってしまえば、こっちのものだ。父も祖父も警察庁の、この自分が面接で落とされるわけがない。
操は確信していた。
これからの眩しいほどの未来を想像しながら、歩く自信に満ち溢れたその歩く姿は、通りすがる人を立ち止まらせる程だった。