塚本愛奈
「バスの時間までは、あと30分くらいあるかな」
あいなは携帯の時刻表を確認してから、タバコに火をつけた。
起きたのは、1時間前くらいで、まだ頭がぼうっとしている。
あいなは、今年23になるが、今は居酒屋で働いている。
昨日は夜勤だったのでまだ少し疲れがのこっていた。
今日は久々に夜ご飯を、駆男と食べることになっていた。
駆男は最近離職して、元気がないから二人共大好きなお寿司でも
食べようかな。そんなことを考えながら、
あいなは一人でニヤニヤした。
ニヤニヤしてしまうのは、昔からで何度も母にやめなさいと
言われていたのだが、治らなかった。
昔から大きく笑うのが、苦手で、笑うときはいつもニヤニヤしてしまう。
だから、あいなは自分の笑顔がコンプレックスだったのだが、
駆男はそんな、あいなの笑顔がかわいいと言ってくれた。
あいなは、そんな駆男のなんでも受け止めてくれるところが好きだった。
背の小さいところ、自分の気持ちを言葉に出すのが苦手なこと、
泣き虫な所、気が強いところ、本当は弱いところ、
駆男はそんなあいなのすべてを受け止めてくれた。
駆男に出会うまではこんなに幸せな気持ちになったことは一度もなかった。
あいなの母親は、あいながまだ2歳の頃、離婚した為、
あいなは、母一人に育てられた。
しかし、あいなの母親は、男がいないと生きていけないタイプで、
次から次へと男を変えた。いつも、あいなをほったらかしで新しい男を家につれてきた。
あいなはそんな母親の生き方が嫌いで、その影響からか、
男に頼るとか、好きになるとか、そんなこと考えたこともなかった。
だから、20歳になるや否や、家を出て、アパートを借りて、
それから一人で生きてきた。
そんな時現れたのが駆男だった。
馴れ馴れしく近寄ってくる軽そうな男、最初の印象はそれだった。
あいなも、最初は、無視したり、冷たく突き放したりしていたのだが、
駆男はそれを笑って乗り過ごし、あいなへのアプローチを諦めなかった。
おおらかな心、明るさ、向上心が高く、ポジティブな所、
駆男はあいなに足りないすべてを持っていた。
私は必要とされている。
と思った時には、あいなは初めての恋に落ちていた。
それから三年、駆男はかけがえのない人になっていた。
友達は次から次へと男を変えるけれど、あいなはそんなタイプではなかった。
一日でもあえないのが辛い。そんなこと口下手のあいなには、
決して言えないが事実だった。
今日、駆男にあったら、一緒に住みたいと言おう。
あいなは決意を固めていた。といっても、もう10回目くらいの
決心だった。毎回結局言えないまま帰路についていた。
ほんとに言いたいことが言えない。
でも、駆男はいつもそんな、あいなの気持ちを汲み取ってくれるから、
少しでも同棲の話になれば、きっと気づいてくれるはずだ。
今日こそは話そう。
そんなことを、考えながら、あいなは、大宮行きのバスに乗り込んだ。




