最首駆男2
頭が重い。
目覚めて最初に思ったことは、それだった。
オレンジ色の生暖かい
西日が昼間を過ぎていることを感じさせる。
1月になり、日が西への移動するのがはやくなった気がする。
本当は恐らく朝10時にはうとうとしだしていたのが、
昨日起こった惨事を思い出すのがいやで、目を閉じ続けた。
そして次に目覚めたらもう昼過ぎだった。
駆男は、ズキズキする頭をかばうようにそっと目を開け、
スマートフォンの画面を見た。
「もう2時か。」
言葉にもならないような声でつぶやいてから、また目を閉じた。
そして昨日のことを思い出した。
「3000ドルあるんだっけ?」
なくなっていることをわかっているのに、一人で寝ぼけたふりをする。
まだ、増えた3000ドルを消しさったくらいならよかった。
それから、我を失ったように追い金に追い金を重ねて、気づけばクレジット枠60万、貯金120万を失っていた。
3000ドルを当てた時にはすでに取り返しがつかなくなっていたのだ。
駆男は貯金をしない。
「明日死んだら意味ないじゃん」
貯金をしないことを正当化するように駆男は以前の同僚達によく語った。
駆男の友達達は皆、結婚し家庭をもち、大手広告代理店や、建設会社など一流会社で働いている。
「お前は自由でいいよな。俺なんか給料握られてなんもできないよ」
そう言われる度、駆男は結局見下されているような気がした。
もともとは駆男も一流会社で働いている友達も、同じ大学だった。
つまり、一流大学だった。同じ大学だったのに、なぜここまで差がついたのか駆男にはわからなかった。
と言っても本当はわかっていた。
覚悟の違いだ。
「人の下で働くなんてごめんだ。俺は俺のやりたいようにいきる」
そう言って就活もせず楽な道を選んだ。
挙げ句、卒業後、起業するも失敗。
人の下のさらに下の会社で働くはめになった。
夢があればがんばれる。そういって自分をなんとか励まし、
友達にも笑ってみせた。
そして、今回なにもやることがみつからないのに、
会社をやめた。もちろんやりたいことをやるためといってやめた。
29歳。人生の節目。なにか見つけねばと思ってやめたのだが、
なにも見つからず、ギャンブルで喪失。
プライドが高く、見栄っ張りでそして弱い。
それが最首駆男という男だった。