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第五話 オバケパニック


 眠い、午後の授業って奴はどうしてこうも眠くなるのだろうか?

 ただいま六時間目の授業の真っ直中だ。科目は得意の数学、だがやはり眠い。教科書に写る数字が睡魔を呼ぶ魔法の呪文に感じられる。

 ああ忌々しい忌々しい。


「ん? かなめ、お前眠そうだな」


 眠そうにしていると、隣りの席にいた太一が心配してくれて有難いがこいつは眠くなさそうだな、羨ましいかぎりだ。


「ああ、昼飯食い過ぎたせいだな。何か眠気を覚ます様な事起きないかな、こう、バーンとさ! ……ふぁ~」


「もうすぐ授業も終わるから、辛抱だな」


 しばらくしてチャイムが聞こえて来た。やった、今日も終わりだ。

 そんな事を思っている時、チャイムが鳴り終わるのと同時に教室のドアがバーンと、轟音で開く。

 そこに居たのは皆さんご存じの生徒会会長、宝条院聖羅だった。会長は真っ直ぐ俺に向かって来やがった。他の生徒が一斉に会長を注目している。

 会長も喋らなかったら、学園のアイドルになっても不思議では無いくらい美人なんだが、性格がなぁ……。

 会長は目の前で止まった。俺の心臓は激しく血液を全身に流し、動揺した。

 何だ? 一体何をする気だ?


「後藤、新たな依頼だ。来い!」


 有無を無視し俺の腕を掴み、無理矢理連れて行こうと強引に引っ張った。

 ちょっと待った! 待て、待って!

 ズルズルと引きずりながら俺を拉致られていく。


「か、会長! 依頼って一体? ってその前に、放して下さいよ!」


「詳しい事は後だ。まったく、わたくしが自ら呼びに来てやったのだ、有り難く思え!」


 でも、いつもはこんな事しないのに何で今回に限って呼びに来てくれたんだ?

 この質問を会長にぶつけるとたまたまこっちに用事があったからだと言う。


「用事とは、今回の依頼内容に関係ある場所を視察してきたんだ」


「一体何処に行って来たんですか?」


「旧校舎だ!」


「なんでそんなところに?」


「それは直接依頼者に訊け。依頼者は生徒会室にもう来ている」


 どんな依頼内容なのだろうか?


 訳も分からないまま俺達は生徒会室前まで足を運んでいた。部屋に入ると、いつものメンバー以外に女子生徒が一人ソファーに腰掛けている、多分この人が依頼者なのだろう。


「よし、メンバーも揃ったところで依頼を改めて聞こうじゃないか」


 と語った後、皆川先輩が話てと依頼者の女子に語り掛けた。

 どうやら皆川先輩の知り合いみたいだ。


「えっと、わたしの名前は野口愛花(のぐちあいか)と言います。実は……」


 彼女の話では、旧校舎に興味本意で入った時誰もいないはずなのに妙な声を聞いたらしい。その声にびっくりして携帯電話を落としてしまったのだと。

 自分ではあの声が怖くて取りに行けない。そこで俺達に携帯を取って来て欲しいと言う依頼だ。

 妙な声?

 まさか、お、オバケか何かか?


「そう言う訳でお前達今夜学校に泊まれ! わたくしが特別に許可する」


「ちょっと待って下さいよ! 今から取りに行けば良いじゃないですか!」


「まったく、後藤は何も分かっていないな。妙な声がどんなものか気にならないのか? そんな訳の分からないものがいる。わたくし達がそれを解明するんだ!」


 まぁ、確かに気にはなるけど、本当にオバケだったらどうするんだよ。

 俺、そういったの苦手なんだよ。わざわざ夜に行く事もないだろうに。絶対、会長が肝試しをしたいだけなんだろうなきっと。

 明日は学校休みだから良いけど、何か嫌な予感がする。

 皆川先輩が友達に後は任せて帰る様に言っていた。


「まこと頼むわね、わたしの携帯!」


「分かってるって、任かせて!」


 野口さんは帰って行く。

 夜まで、まだまだ時間があるな。

 あ、夜ご飯はどうするんだ? 会長にどうするのかを尋ねた。


「大丈夫だ、この学校に調理室があるから材料を買って来て作ればいい。皆川、お前は料理が得意だったな? 作れ!」


 またむちゃくちゃな事言ってるよ。皆川先輩は分かりましたと言いながらしぶしぶ買い物に出掛けて行く。

 姫ちゃんと行ってくると連れて行った。






 時が進み、皆川先輩が調理室で作ったご飯をみんなで食べる事になった。

 卵焼きやハンバーグなどのおかずが生徒会室に運ばれる。


「う、旨い!」


 なんだこれ、目茶苦茶旨いぞ。特にこの卵焼きが最高だ。家の父さんよりも旨いかも知れない。


「……やりますね皆川くん」


「副会長、美味しいなら美味しいって言って下さいよ!」


 副会長も絶賛みたいだ。不味いなら何も言わずに食べているところだ。

 会長も黙々と食べている。そんな光景を見ていると姫ちゃんが料理の乗った皿を持って俺の前にやって来る。


「かなめさん、これボクが作った卵焼きです!」


「本当! 美味しそうだね、食べていいの?」


「はい!」


 ラッキーだ、姫ちゃんの手作りを食べられるなんて。

 皿には見事な形の卵焼きがあった、完璧な造形の卵焼きにこれは旨いだろうと思った。

 それを一つ口に。


「う! あ、甘……」


 なんだこれは、甘い、甘すぎる。甘い卵焼きはあるけどその数倍甘い。まるで砂糖を丸かじりしてるみたいだ。


「どうですか? 美味しいですか?」


 うわぁ、なんて笑顔をするんだ、無邪気っていうか、子供の様に笑う。

 不味いなんて言える訳ない。


「お、美味しいよ……」


「本当ですか? 嬉しいです!」


 笑顔を見れたのは嬉しいが、口の中が甘ったるくなっている俺にとどめの一言。


「まだまだたくさんありますからね!」


 その言葉と共に皿に山盛りになった卵焼きが現れた。絶望感が体を震わせるが気が付かれないように一瞥すると早く食べてと表情が急かしていた。

 ぐっ、ちくしょう、いただきます!






 数時間後、辺りはすっかり夜になっていた。暗闇の中、生徒会一行は旧校舎の前に。

 ああ、口の中が砂糖だ。舌を動かす度に甘味が襲って来る。当分、甘い物はいらないな。

 旧校舎は新校舎の裏山の中にひっそりと立っており木で出来た校舎の窓は割れ、木は腐り、植物のつるが校舎を覆っていた。

 まさにオバケが出そうな建物だ。


「う……本当に何か居そうだ」


「あう、真っ暗です。ボク怖いです」


 そうだよな、普通はこんなリアクションが当たり前のはず。

 だが、この中の一人が違うリアクションだったのだ。


「あはは!、楽しみ~!」


 こう言ったのは皆川先輩だった。満面の笑顔を咲かせながら目をキラキラさせて、まるでおもちゃを見る子供みたいだ。


「先輩、どうしてそんなに楽しそう何ですか?」


「え? ああ、私はね、ホラー映画が大好きなんだけど、こういった場所に行くのも大好きなのよ! ああ~、幽霊出ないかな~」


 強がりで言っているのかと思ったが、本当に楽しそうにしているな。

 すごいな、こんな状況で笑っているなんて。


「良しお前達、これから潜入を開始するぞ! 剣姫、先攻して中を調べて来い!」


「ええ! ボ、ボク一人でですか?」


「当たり前だ、お前はエージェントなんだぞ? 分かっているのか? こういった事はエージェントが最初にやるものだぞ?」


 いつからそんな風に決まったんだか、単に下見させたいだけなんだろ?

 そんな事を思い浮かべていると、姫ちゃんは「分かりました、会長さんの命令ですもんね。行って来ます」と、勢い良く走って行く。

 また会長に誑かされたか。

 しばらくの時が暇をもたらしていた。姫ちゃんが旧校舎に潜入して5分くらい経っただろうか

なんの進展も無いまま退屈が襲う。


「まったく何をやってるんだ、遅すぎるではないか!」


「確かに遅いよね。まさか柳刃さんに何かあったのかな?」


 皆川先輩の言う通りかもしれない。何かあったとしか思えないもんな。

 そんな時だった、姫ちゃんの悲鳴が辺りを包む。


『きゃああああああああ!』


「あれは柳刃くんの声の様ですね!」


「姫ちゃんに何かあったんだ! 行きましょう!」


 俺達はようやく中に潜入する事に。

 中に入るとなんだか空気が重い様に感じられ、辺りを気味の悪い黒色で染められていた。

 真っ暗だ。


「声が聞こえたのは二階だったな、行くぞお前達!」


 会長を先頭に二階への駆け上がって行く。上がる度に階段はキィキィと音が鳴る。それだけでも気味が悪い。

 二階に上がると辺りは静まり返っていた。

 廊下が腐っているみたいで、あちらこちらに穴が空いていて危ない。


「これは危ないな。お前達注意して進めよ」


 会長の言葉に足元を確認しながら進む。すると突然、バキリと激しい音が鳴る。その音は俺の後ろから聞こえて来た。

 振り返り見てみると廊下に大きな穴が開いている。

 後ろには皆川先輩と副会長がいた訳だが、二人が消えて、穴が出来ているぞ。

 まさか。


「……落ちた?」


「なんだと! あれほどわたくしが気を付けろと言ったではないか!」


 急いで走って行こうとしたが会長はゆっくり行けと叫ぶ、そうだったこの廊下は全部腐ってるもんな、激しく動かない方が良い。


「皆川! 政史! 大丈夫か!?」


「大丈夫です! 怪我してません!」


 皆川先輩の声が聞こえて来る。よかった、無事みたいだ。

 皆川先輩の後に副会長が声が聞こえる。


「これから下の階を捜索します。会長達はどうかお気をつけて!」


「そうか、二人とも気をつけるんだぞ!」


 二手に分かれてしまったな。


 ん? 待てよ、つまり会長と二人っきりで行かないといけなくなったのか?

 嫌な予感だけが走る。何でこんな事に。


「何をしているんだ後藤、置いて行くぞ?」 


「あ、待って下さい会長!」


 会長はスタスタと廊下を歩いて行く。どうやら腐っていたのはさっきの場所だけだったみたいで、此所は普通に歩ける。

 まさか、姫ちゃんも落ちたんじゃないのか? それだったら大変だ、早く探さないと。

 会長はなんの躊躇もなく威風堂々と進む。

 オバケとか怖くないのか?


「あの、会長はオバケとかは信じる方ですか?」


「オバケだと? そんなものがいる分けないだろう。お前はそんなものを信じているのか?」


 信じてない様だな、俺はいないとは思ってるけど、心霊関係のテレビを見るだけでもちょっと怖いんだよな。


 その時、妙な声が聞こえて来た。


 なんだこの声は、薄気味悪い笑い声が辺りに響く。

 え? マジでオバケなのか? 血の気が引くってこの事だな、妙な寒気が全身を包んで行く。


「か、会長、この声って一体?」


「ふん、こんなものは気のせいだ、気のせい。後藤、怖い怖いと思うからそう聞こえ……きゃあああ!」


 突然会長が床に顔面から転び、間抜けな格好になった。

 会長の足元に穴が開いていたらしく、そこに足を引っ掛けてしまったらしい。

 と言うか今、きゃああって叫んだよな? 会長も女性らしい声を出すんだな。


「く、不覚だ、ここも取り壊した方が良いかもしれん」


 サッと立上がり、何事もなかったかの如くまた歩き出した。だが、また薄気味悪い笑い声が辺りを支配する。

 その途端、また会長は顔面から転んだ。


 あれ、もしかして怖がってるのか?


「ぐ、不覚、大不覚だ!」


 立ち上がろうとした時だった、廊下に開いた穴から飛び出ている刺が会長のスカートに引っ掛かり、立ち上がった会長の足元にスカートが置き去りにしていた。


「ああ!」


 間抜けな声を俺は出してしまった。


「どうしたんだ後藤?」

 

 と会長は俺を見詰めている。

 気付いてない様だ、スカートが刺に引っ掛かって脱げて下着が丸見えになっていることを。

 しかも、その下着は意外にも可愛らしいパンダのキャラクターがプリントされている下着だった。

 ようやく異変に気がついた会長はゆっくりと下を向き、現状を確認。

 するとみるみると顔が真っ赤になり噴火。


「きゃあああああああああああああ!」


 素早くスカートを刺から取り、装着。しばらくピクリとも動かない。

 嵐の前の静けさ、今それが目の前にある。


「……たのか?」


「え? あ、あの、今なんて?」


「わ、わたくしのパンツを見たのか!? 見たのかと訊いているんだ後藤!」


 ひぃいいい! 鬼だ! 目の前に鬼がわいて出て来た。

 ズンズンと大地を震わせながら近付いて来る。そして次に見たのは会長の拳。


 拳が視界全体を覆って行く。


 気が付くと空中に飛ばされていた。浮遊感が全身に巡る。そして重力に引っ張られて落下、地に激突した途端に廊下が崩壊し穴が開く。

 また浮遊感。咄嗟に手を伸ばし、何とか廊下の隙間に掴まる事が出来たが握力がいつまで続くやら。


「ひぃいい! た、助けて下さい会長!」 


「……後藤、今見た事は忘れろ、良いな?」


「わ、分かりました! 全力で忘れます! だ、だから、助けて下さい!」


 会長が手を差し延べてくれた。その手に掴まり、力強く会長は引っ張り上げる。

 すると勢い良く穴から脱出。

 しかし、勢いが強過ぎて激しい音と共に会長の上に着地してしまう。


「痛ててて……」


「く、この馬鹿者め! 早くわたくしから降り……あっ! んん!」


 色っぽい会長の声、なんだ? なんでそんな声を?

 ハッと気付くと手に何やら柔らかい感触が。なんだこれ? 手を動かしてみる事に。


「あ! いやっ……」


 これって、冷静に手を見てみると会長の胸を俺の手が鷲掴みにしているじゃないか!


「ぎゃあ! 違うんです! 事故、事故です!」


「い、一度ならず二度もわたくしを辱めるとは、お前……あん! くっ、いつまで握っている気だぁ!」


 この後また殴られて穴にぶら下がる事に。理不尽だ!


 

 





 ◇

 

 まさか穴から落ちるなんて。

 私、皆川真は気まずい雰囲気の中、旧校舎の一階を探索しているところだった。

 私の右隣りには副会長の高崎政史が無表情で黙々と歩いている。


「あの副会長、オバケとか信じてますか? 私は信じてますけど」


「ふぅ、皆川くん、つまらない事を訊かないでください。非科学な物は信じない事にしています。よって結論は信じてません」


 つまらない事を訊くなって、しっかり信じてないって答えてるじゃない! 絡み辛い。

 いつも自分からあまり話さないから副会長の事を知らないな。


「副会長って、会長が好きなんですか?」


「な、何を言ってるんですか君は! わたしと会長はその様な関係では……」


 あれ? 顔が赤くなってるぞ?

 これはもしかしたら、自分に素直になれてないだけなのかも。


「おほん! とにかく行きますよ、早く携帯を探さないと行けませんから」


 あ、なかった事にしようとしてるな。

 まいっか、早く携帯探して家に帰りたい。

 まだ見ていないホラー映画のDVDがあるんだから。


 ある程度歩いた時だった。どこからか女の人の声が聞こえて来る。これって、オバケ!? 嘘、本当に? どこにいるの? わくわくするな!

 あれ? 無口な副会長が更に無口になってるよ、何で?


 私はこういったホラーな事があると周りが見えなくなる。


 副会長が怖がっている事に気付かなかった。


「何処から聞こえるのかな? あっちかな?」


「み、皆川くん、まさかこの声の方に行く気ですか?」


「当たり前ですよ! だってオバケに会えるんですよ? わくわくするじゃないですか!」


 引きつる副会長の顔、信じられないものを見ている様な顔をしていた。

 そんな事を気にせずに私は進んで行く。



 








 ◇

 

 最初に飛び込んで来たのは見知らずの天井。そしてそこに開いている大きな穴。つまり、あそこから落ちた。

 ようやく現状を理解する事が出来た。

 会長に言われて先行して調査をしていたんだ。そしたら足下が崩れて落ちてしまった。

 不覚だ、これではエージェントの名折れだ。


「ボクは落ちたんだ」


 起き上がろうとお腹に力を入れ、身を起こす。するとこの場所は音楽室みたい。手を少し動かして見ると何かにぶつかる。

 堅いもの、それがなんなのか確認してみる。


「あ! これ、携帯電話です! 見つかりました!」


 依頼者の携帯をあっさりと見つけてしまった。良かった、早くここから出ないと行けない。

 起き上がり、音楽室から出て行こうとした時、それが聞こえる。

 女の人の声、何かをつぶやいている。


 無い、何処にも無い。そう言っていた。


「うぅ、お、オバケさんですか? こ、怖いです!」


 聞こえたのは隣りの教室、ボクは必死に恐怖を押し殺し、覗いて見る事に。


「うう、怖いですけど、なんなのか気になります……」


 歩く度に廊下がキイキイ鳴る。またそれが怖さをボクの中から引っ張り出して震えさせた。

 ようやく隣りの教室のドアまで来れた。中からゴソゴソと何かが蠢く音が。

 何かがいる。


「はうぅ……だ、誰か居るんですか!」


 勇気をふり絞り叫ぶ。すると、中の音がピタリと止まった。

 つまり、ボクの声に反応したと言う事だ。

 どうしよう、中を開けて確認するか、それとも何もなかった事にして此所を離れるか。

 その時だ、教室の窓に人影が一瞬映り、そして消えた。


「はうぅうう! 消えました! オバケさんです!」


 怖くなったのでその場にうずくまって震えていた。

 怖くてそれしか出来ない。震えながらボクは動けなかった。怖くて足が動かない。このままボクはどうなるのだろう? と不安だけがボクを蝕んで行く。

 恐怖に震えている時だ、教室の中から足音が聞こえ、段々とこっちに近付いて来る。

 まさか、ボクを食べる気じゃ。


「あうっ! ボ、ボクは食べても美味しくないですよ!」


 そう言い終わった途端に教室のドアがゆっくりと開いていった。

 もうダメだ! 食べられちゃう!


「何やっているんだお前?」


「ふぇ?」


 そこに立っていたのは女の人だった。格好がボク達と同じ制服。ただ、普通の人に見えない。

 銀色の短い髪、鋭い目、ちょっと先がとがった耳、どう見ても日本人じゃない。外国の人だろうか。一体この人は誰?


「あぅ? オ、オバケさんですか?」


「オレがオバケ? 違うぞ、良く見ろ!」


 そう言われて足下に視線を向かわせた。確かに足がある。

 なんだオバケさんじゃなかったんだ。良かった。

 でも、こんな時間にこの人はこんなところで何をしていたんだろう?


「あの、こんなところで何をしてたんですか?」


「ん? 実は、前ここに面白半分で入った時に大切なものを落としてしまったんだ。それを探している」


 こんなに暗くなるまで探しているもの?

 どれだけ大切なものか、この行動を見て理解した。きっと本当に大切なものなんだ、だからボクは手伝ってあげようと思う。


「それは大変です、探すの手伝います!」


「何? 本当か? 本当なら有り難いが」


「ボクに任せて下さい! これでもエージェントなんです!」


「エージェント?」


 はう! また喋ってしまった。会長さんに絶対にばれるなと言われていたのに。どうしよう。 


「な、何でもありません! そ、それよりも何を落としたんですか?」


「落としたのはドクロのネックレスだ。あれは……母の形見なんだ」


 形見、じゃあ、この人のお母様はもういないんだ。なんだか心が痛くなる。

 もし、自分のお母様がいなくなったら嫌だから。


 こうして探し始める事になった。見つかるかな?


「どうだあったか?」


「ん~、見つかりません」


 四つん這いになりながら地面を捜索。教室はとても古くて、床には時々穴が開いている。その中に紛れて無いか見ているのだがぜんぜん駄目だ。

 見つからない。銀髪の彼女も一生懸命に探しているのに。


「この部屋で間違いないんですね?」


「ああ、間違いない。ここしかありえない!」


 そこまで言っているのだからこの部屋であるはず。よし、気合いを入れて頑張るぞ。


 時が過ぎ、夜も深みを増す頃、ある穴の中に何かが光った。

 ボクはそれに手を伸ばし、掴んで取り出す。


「あ! ありました!」


「何! 本当か!」


 ボクの手には銀に輝くドクロのネックレスが絡んでいた。それを見るなり彼女が走って寄ってくる。


「もう落としたらダメですよ?」


 彼女の手の平に包ませた。

 一つになる様にネックレスを両手で握り締める彼女。

 良かったと呟きながら大切に胸の前で握り締めていた。良かった、家族の思いでは大切にしないとね。

 そんな光景を見つめていたら突然、ボクは亡くなったお父様の事を思い出す。


 ――何で思い出すんだろう。


「おい、どうしたんだ、顔色が悪いぞ?」


 心配そうにボクを覗き込む彼女。自分の世界に行ってしまっていたようだ。

 何でもないと答える。


「そうか? 大丈夫ならいいが……さて、そろそろ帰らなければ」


 そう言うと彼女は教室の窓の方へと歩みだす。

 窓を開け放ち、足を掛けて身を乗り出した。


「世話になったな。お前の名は?」


「ボクは柳刃と申します」


「柳刃だな、覚えておく!」


 そうだ、彼女の名前を知らないな。訊いてみようとしたその時、信じられない事が起きる。


 彼女の背中からコウモリの翼みたいな物が出て来た。

 一瞬、訳が分からなくなる。


「いつかまた会おう柳刃」


 そう言葉を置いて翼を羽ばたかせて空へ消えて行く。


 え? あれってもしかして、本物のオバケさん?


「きゃああああああああああ!」


 ボクはその場に倒れ気を失った。

 

 


  




 ◆

 

 あれから一時間近く経っただろうか。会長と二人っきりはある意味、オバケより怖い。

 会長のパンツを見てしまうし、胸も揉んでしまった。あれから口を利いてくれない。黙って廊下の先頭を黙々と歩くだけ。

 と、会長がいきなりピタリと止まり、こっちを向く。

 な、なんだ、まだ何か言い足りないのか?


「……後藤、ちょっとついて来い」


「え? 一体何処にですか?」


「良いからついて来いと言っている!」


 方向を変えて反対側を進んで行く。何なんだ? しばらく歩くと、会長の目的の場所に到着。


「……女子トイレ?」


 そう、ここは女子トイレだ。会長はスカートの前を両手で掴み、もじもじと動いている。

 ああ、なるほど。トイレを我慢しているんだな。会長の顔は真っ赤に染まりながら口を開く。


「い、良いか、待っているんだぞ! 別に怖い訳では無い。お前が離れて危険な目にあったら、わたくしが責任を負われるからだ! 良いな、何処にも行くなよ! 絶対だぞ!」


 そう言ってトイレの中へと入って行った。本当はオバケが怖いん様だ。

 会長にも可愛らしいとこがあるんだな。

 ふぅ、一人でこんなところにいると何か出てきそうで怖いな。

 さっきの女性の笑い声は一体なんだったんだ?

 そんな事を考えていると、廊下の向こうから足音が。

 ガタガタと震えていると、その行為が無駄だと分かった。


「あ! 皆川先輩に副会長!」


 向こうから現れたのは皆川先輩と、高崎副会長だった。

 良かった、無事だったか。マジでびびったじゃないか。


「あ、後藤くん! 無事だった?」


「大丈夫でしたよ」


 大丈夫と言えるのかな? 会長とあんな事やこんな事があったんだが。


 安堵の中、突撃あの女性の薄気味悪い笑い声が辺りを支配した。


「きゃあああああ!」


 トイレの中から会長が叫び声と一緒に飛び出しそのまま足がつまずき、廊下に頭からダイブ。


「会長! 大丈夫ですか!」


 副会長が心配そうにそう言って近寄る。すると会長は素早く起き上がり、仁王立ちを形作る。


「お、おお前達、無事だったか。心配したぞ、まったく、オバケなんかを怖がるからこうなるんだ!」


 ここにいる全員は『いや、会長が怖がってますよね?』と、一致した考えを頭に生成する。


「あれ? 柳刃さんは見つからなかったの?」


 皆川先輩の言葉でハッとさせられる。そうだ、姫ちゃんはどうしたんだ、早く探しに行かなければ。

 決心を固る。

 と不意に会長が皆川先輩を呼び付けていた。


「皆川、耳を貸せ!」


「へ? はい、分かりました」


 先輩に耳打ちをしているが、何を話しているのだろうか?

 先輩は神妙な顔をして聞いているが。


「……あの、良く聞こえないんですけど?」


「だ、だから、わたくしがトイレに忘れて来たパンツを取って来いと……あ!」


 パンツを取って来いだって? トイレに忘れた? つまり、会長はトイレをしていて、不気味な笑い声に怖がってパンツをトイレに忘れて来たんだ。

 じゃあ、今……ノーパン?

 会長が顔を真っ赤にさせて湯気を吹いている。今日の会長は意外な事ばかりを起こす。


「……忘れろ、今の事を忘れろぉ!」


 ギロリと猛獣の様な鋭い視線を放つ。怖い、今までで一番怖い。仕方ない風に先輩は言う通り取りに行った。

 一人で行けないくらい怖かったんだな。


 ようやく姫ちゃんを探すた為に歩き出す。

 痛い、さっきの騒ぎで会長に殴らてしまう。しかも俺だけ。理不尽だ、いじけるぞ。

 憂鬱な気分の中、それは突然だった。耳がそれを掴む。

 また、あの薄気味悪い笑い声が木霊してくる。


『うふふ、あはは、あはは、あははは!』


 近い。ずぐ近くから声が聞こえて来るぞ。耳を澄まし聴くと、聞こえてきた場所は職員室だ。


「職員室から聞こえて来るな」


「そ、そうか……後藤、行って来い!」


 命令する会長の声にまったく覇気が無い。副会長の後ろに隠れながら辺りを気にしてキョロキョロ。

 いつもの勇ましい会長では無かった。


「俺が? ……わ、分かりましたよ」


 そんな訳で、職員室の前までやった来た。そして、また薄気味悪い笑い声が発生、マジで怖くなって来たんですけど。

 生徒会のみんなを見る。


「早く開けようよ、オバケ早く見たい!」


「早くしろ、帰りたいんだよ!」


「後藤くんガッツです!」


 なんて訴えていやがった。

 人の気も知らないで。て、あれ? 皆さん、最初の目的忘れて無い? 携帯探すんじゃなかったっけ?

 静かにドアを開けようと手を掛けたが、古いせいかギギギと不快な音を発生させてしまう。

 俺達の存在をあの声に教えてしまうはめになったのだ。

 ドアを開け切った瞬間、何やら物音が。

 嫌、誰かが居る感じがする。


「……だ、誰か居るんですか~?」


 声に怖い感情が滲み出ており、震えた情けない声になってしまった。

 中に入ると、辺りは木の香おりが漂っている。後カビ臭さ。


「後藤、前に進め!」


「後藤くん頑張れ! 何か出てこないかなぁ~」


「早く終わらせて下さい」


 また勝手な事を次々と言ってる。

 ちくしょうめ、どうしていつも俺ばかりこうなんだ。

 はぁ、嘆いても仕方ないので前に進む。

 するとまたあの声が木霊。


『うふふ、あはは、あはは、あははは!』


「だ、誰かいるのかぁ!」


 恐怖を押さえ付け、声をふり絞り叫ぶ。その直後、黒い影が部屋の奥ににゅっと現れた。

 出た、オバケ!


「ごめんなさーーい!」


 突然の声が辺りを包む。奥に現れた影がごめんなさいと叫んだのだ。

 声から中年の男子だろう。その人物が奥から歩いて来る。そこに居たのは、ボロボロの薄汚れた服を着たオジサンだった。

 あれ、この人ってもしかして、ホームレスの人?


「だ、誰ですか? ここで何してるんですか?」


「ああ~ごめんなさい、ここは雨風をしのげるから住み着いてたんだ」


 な、なんだ、オバケじゃなかったんだ。良かった。


 嫌、ちょっと待て。なら女の人の薄気味悪い笑い声は一体なんだったんだ?

 この事をオジサンに言ってみた。


「ああ、それはこれだよ」


 懐から何かを出す。それは携帯電話、おもむろに操作して俺の質問に答えた。


「あれは着信音だよ」


『うふふ、あはは、あはは、あははは!』


 沈黙、そして俺達は打ち合わせも無く、一斉に同じ事を叫ぶ。


「「「紛らわしいんだよ!」」」


 特に会長が怒り狂っていた。そりゃ、この声であんな姿を俺達に見られたんだもんな。会長はオジサンに蹴りを入れながら追い出す。結構酷い。


「まったく! ここのセキュリティが甘過ぎる! これは校長共に言ってやらねば!」


 目茶苦茶怒ってるよ。

 そんな事よりも姫ちゃんを探さないと。

 探して来ると言い残し、探索に出かけようとした。すると、廊下の向こうから何と姫ちゃんがふらふらしながら歩いて来るではないか。

 その手には依頼の携帯を握り締めて。


「姫ちゃん! 無事だった?」


「あ、かなめさん……」


 なんだ? 元気がない、一体どうしたんだ? 姫ちゃんはその答えを話出した。

 内容は、コウモリの様な翼を持つ銀髪の女の子の話。


「きゃああああああああああ!」


 突然会長が走り去る。それを追いかける副会長、取りあえず皆川先輩も後を追って行く。

 今の話で会長にトドメをさしたのか。

 でも、この話が本当なら、オバケはいる?


 不意に窓の外を見た。そこに姫ちゃんが言った通りのオバケが飛んでいた。


 マジで?


「うぎゃああああ!」


「はぅ! ボ、ボクを一人にしないで下さいーー!」


 不思議な事はやっぱりある様だ。

 その夜、皆川先輩以外、みんなは朝まで眠れなかった。 

 


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