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第四話 家庭訪問

「と、言う訳だ。分かったか、お前達?」

「……はい?」

 会長の問い掛けに俺の間抜けな声しか出なかった。

 彼女はいつもの様に専用のイスに座り、隣りには副会長が立って居る。

 姫ちゃんは何だか楽しそうだし、皆川先輩は俺と同じ様に訳が分からない表情。

「会長、今なんて?」

「聞こえなかったのか後藤? はぁ、まったく耳が遠いな。いいか、もう一度だけ言うぞ? これからお前達一人一人の家をわたくしが家庭訪問する」

 つまり、会長が俺達の家を回るって事かよ。

 なんでこんな事を? この疑問を会長にぶつける事に。

「つまりだ、会長としてお前の事を知っておくのも、わたくしの仕事だ。それに、わたくしもお前達の家族に興味がある」

 おいおい、つまりは興味本意じゃないかよ! 暇人め。

「と言うわけで政史以外は今度の休みにするからな」

「ちょっと待った! 副会長以外ってどういう事ですか!」

 その質問に副会長自ら答えてくれた。

「私は一人暮らしをしています。無論、家には誰もいない、だから私の家庭訪問など無意味です」

 副会長の家族は仕事で海外にいるそうでいつも一人暮らしとのこと。けっこう苦労しているんだな。そんな事を考えていると、姫ちゃんが話出す。

「あの、ボクも会長さんと一緒に家庭訪問に行きたいです」

「ん? なぜだ柳刃?」

「ボク達はみんなで生徒会です。だからボクもみんなの事をもっと知りたいんです!」

 姫ちゃんがそう言うと会長は「ふむ」、と言って何やら考え込んでいた。しばらくしてその考えを口にする。

「確かに柳刃の言うとおりかも知れんな。よし“みんな”で一人の家に家庭訪問だ!

 今、みんなでって言ったよな? 一人の家に全員で押しかけるって事かよ。前よりひどくなってるよ。 

 そんなこんなで生徒会全員で家庭訪問が始まる。まったく、どうなるんだか。



 後藤家の場合。


 憂鬱だ。今日奴等が来る。家に来るぞ。

 家に俺一人だけならまだいいが、今日に限って家族全員家にいるんだよ。

 そんな事を自分の部屋で頭を抱えて考えていた、オマケ付で。

「ふに~、かなめちゃん、お姉ちゃんとどっかに遊びに行こうよ~、デートしようよ!」

「暑苦しい!」

 わざわざ声に出して言ってやった。姉貴のまりあが俺の右腕にがっちりとしがみついて、離れやしない。

 何回も追っ払ってもやってくる。今の状況は十回目だった。俺は疲れ果てて追っ払う気力がなくなったんだ。

「姉貴、暑苦しくないか?」

「ふに~? 何で? お姉ちゃんは今が幸せ~、かなめちゃんの側に居られるだけで幸せ~」

 一体何故こんな姉貴になってしまったのか一番気になる謎だ。

 ため息ばかりでる中、玄関の方からチャイムの音が響く。とうとう来やがったか。

 速攻で玄関に走って行く。姉貴が「かなめちゃん待って~」と、言いながら追いかけてきやがるのがうっとうしい。

 玄関に付くと父さんが出迎えていた。

「おや? かなめの友達かい? いらっしゃい、よく来たね」

 父さんが出迎えていると会長が挨拶を口にする。

「この度は大勢で押し掛けてしまって申し訳ありません。わたくしは“かなめくん”と仲良くさせてもらっている、宝条院と申します。かなめくんはいらっしゃいますか?」

 驚愕、会長が喋ったとは思えない様な口調。大人の前で会長は猫をかぶっていた。

「居ますよ、お、もう来ていたのか、礼儀正しいお友達だな」

 父さんは嬉しそうだ。父さんは最近の子供はろくに挨拶もできないなと嘆いていた。

 いつも優しい父さんだが、礼儀作法には口うるさい。

 取りあえずみんなを俺の部屋に詰め込むか、俺を入れて5人か……ギリギリみんな座れるだろう。

「み、みんな俺の部屋に……」

 生徒会の面々は、「お邪魔します」と言って入って来る。

 姉貴は「ふに~? いっぱい人が来たね、何事ぉ?」なんて訊いて来たが、無視して全員を部屋に入れた。入った途端に会長が豹変。

「ふぅ、やっぱりこの喋り方は疲れるな……後藤、お茶とお菓子! わたくしは冷たい麦茶を」

「私は紅茶をお願い致します」

「ボク、緑茶!」

「後藤くん、私は何でもいいから」

 それぞれが言いたい放題だ。はいはい分かりましたよ、持って来ればいいんでしょうが。

 キッチンに行ったその頃、会長達がこんな話をしているとは知らなかった。

「お前達、部屋を捜索して見よう。なにかいかがわしいものがあるかも知れん」

 ニヤニヤし、頬を赤くしながら会長が周りを見ながら言っている。皆川先輩が「勝手に見ちゃ駄目ですよ」と言ってくれたが完全に無視され、物色を始めた。

 姫ちゃんがとても楽しそうにしている。

「はぁ、気が重いな」

 キッチンから飲み物とお菓子を適当に見繕って運んで行く途中だ、廊下を歩いていると姉貴が俺を見つめていた、不満そうに。

「なんだよその顔は」

「だって~、かなめちゃんと二人っきりになりたかったのに~」

「弟離れしろ!」

 ため息をしながら部屋に向かう。その時だった、部屋から突然悲鳴が聞こえて来た。

「きゃああ!」

「な、なんだ!」

 今の叫び声は姫ちゃんだ、一体俺の部屋で何が起きていやがるんだ。

 素早く自分の部屋に入る。すると生徒会の女子達がこちら側に背を向け集まっていて、何かを見ている様だ。

「あ、兄さん、あたしの分の飲み物もある?」

 その声は妹のめいだった。なんで俺の部屋にこいつがいるんだ?

「なにやってるんだ、めい?」

「兄さんの友達ってどんな人達か見て見たくてね、入ったら会長さん? が、兄さんのなにか“恥ずかしい物”は無いかって言ったから、あれ見せてるよ!」

 あれ? あれってなんだよ? 取りあえずみんなは何を見ているのか覗くと女子達の視線の先に一つのアルバムがある。

「きゃあああ! かなめさんが可愛いです!」

「ぷ、くぅ……後藤くん、これ傑作ね!」

「そうか、後藤にこんな趣味が……」

 そのアルバムにある写真は全部俺ばかり撮ってある。

 普通なら別にたいした事じゃない。だが、そこに写ってるのは、俺が寝ている時、母さんが俺の服をはぎ取って女物の服を着させ、挙句に顔にメイクまでした写真だった。

「うわああああああああああああああ! なんでこんなのを見せるんだ、めいー!」

「いいじゃない、“姉さん”とっても可愛いよ、男の子じゃないよこれ」

 ニヤニヤしながらめいは俺を見ていやがる。こいつめ。

 かしましい光景に軽く絶望を覚えていると突然姫ちゃんが振り向き俺の顔を見始める。

 なんだか気まずい。

「な、なに? 姫ちゃん」

「かなめさんは本当に男の子なんですか?」

 嫌味で言っている様には見えない。真剣なまなざしだ、本気で質問しているらしい。まだ嫌味だったらいいんだけど、本気で質問されるとなんだか嫌だな。

 ペタペタと俺の顔を触り始める、自分で確認し始めたか。

「あーーーー! お姉ちゃんのかなめちゃんに馴々しく触ったぁ!」

 姉貴が姫ちゃんを睨み、顔がドンドンとゆでだこの様になり、身体をプルプルさせて怒りをあらわにして激怒。

「離れて! お姉ちゃんのかなめちゃんから離れて! かなめちゃんはまりあの物なの!」

「誰がいつから姉貴の物になった!」

「わわ、ごめんなさい。でも、ボクはどうしても確かめたかったんです! かなめさんは女の子なのかって!」

「かなめちゃんはれっきとした、おっとこの子!」

 姉貴の叫び声が木霊する中、めいは、あたし関係ないからとの顔で出て行こうとしていやがる。

 めいの服の襟を掴んで逃がさない様に捕らえた。逃がすか!

「待てコラ、あの写真は処分したはずじゃなかったっけ?」

「あははは、兄さん、パソコンにバックアップしてるのよ? いっぱい複写出来るの!」

 ちくしょう、そういう事かよ! こうなったら実力行使だ。めいの部屋にあるパソコンに入っている写真を消去だ!

「消去してくれる!」

「ここは通さないよ兄さん。姉さん! 兄さんが姉さんを大好きだって! 愛してるって!」

 そう叫ぶと、姫ちゃんをずっと睨んでいた姉貴は、ぐるり目を光らせながら俺の方を向き、飛び付いて来た!

「嬉しい! かなめちゃん、アイラブユー!」

 飛び付いた勢いで床に倒れ、姉貴が馬乗りに。

 なにやら危ない光景に……めいめ、姉貴を操る様になったか。

「兄さん、あたしには勝てないよ!」

「ふざけんなよ、これくらいで……」

「かなめちゃんキスしよ! ちゃんと口と口だよ~! ん~」

 姉貴の顔がドンドンと俺の顔に近付いて来る。

 ヤバイ! このままでは危ない関係になってしまう! 生徒会の奴等がじーっと見ているし。

 誤解される前に俺はこの状況を乗り越えるべく、あんまり言いたくはないが、あるセリフを言う事に。

「こんな姉貴、大っ嫌いだ!」

 言った途端、顔の動きがぴたりと止まった。

 そして、ポロポロと涙を流し始め爆発。

「ふに~! お姉ちゃんが嫌われた~! ふに~! ふに~!」

 わんわんと泣き出す姉貴は子供の様だった。こう言わないと絶対に止まらない。こんな事がなければ姉貴は優しい姉なんだよな。だからあまり泣かせたくない。

「ふに~……ごめんなさい、嫌いにならないで~」

「俺も言い過ぎたよ、悪かった。でも、姉貴もやり過ぎだよ」

「うん、やり過ぎました。反省する~」

 取りあえず姉貴の暴走を阻止、後は俺を遮るものは何もない。

「さぁ、俺を止めるものは何もないぞ、覚悟しろよ、めい!」

「ふん、あたしの武器は姉さんだけじゃないんだから!」

 俺は右手をグーにして、めいにジリジリと近付いて行く。このグーはゲンコツをするためだ。

 昔からめいが悪さをするなら鉄拳制裁をやって来た。

「めい、お仕置だ!」

「ふふ、見せてあげるよ、あたしの切り札を」

 そう言うと廊下まで走り、大きく息を吸い込み、こう叫んだ。

「お母さーーん! 兄さんがあたしをいじめるのーー!」

 しまった! 母さんは末っ子のめいを一番可愛がっている。二番目は姉貴、最後が俺……不公平なんだよな。母さんはめいをいじめるといつも俺を叱ってくる。

 そんな考えの中、母さんが俺の部屋の前に現れ激怒している。

「かな! めいちゃんをよくもいじめたわね、許さん! 成敗してくれる!」

 そう言った数秒後、母さんのかかと落としが、俺の脳天に叩き落としていた。

 実の息子にかかと落としする親がいるのかよ! 案の定、めいは母さんの後ろでニヤニヤしていやがる。

 そして俺は床に倒れ気絶。



 皆川家の場合。


 目を覚ました。

「俺、どうしたんだ? なんで副会長に背負われていたんだ?」

 この質問に副会長が返答。

「会長が次の家に移動をすると言ったんですが、かなめくんが気絶していたので男である私が背負うはめになったんですよ……やれやれ」

「そうだったんですか、ありがとうございます」

 はぁ、大騒ぎで疲れたな。背中から降りて自分で歩き出す。

 さて次は皆川先輩の家だ。先輩を見て見ると案の定浮かない顔をしている。無理も無い。

「次は皆川の家だ、一体どんな物が出て来るかな」

 会長は頬を赤く染め、また悪巧みを考えている様だ。

 こんな人数で押し掛けて迷惑するのは、家の人だと分かってるのか?

「あはは、皆川先輩の家、ボク楽しみです!」

 姫ちゃんがそんな中、はしゃいで、それを先輩は呆れながら見ていた。何だかんだで生徒会一同は皆川先輩の家に到着。二階建てで、青い屋根が特徴の家だ。俺達は家の中へと入って行く。

「あらあら、いらっしゃい。まことさんのお友達かしら?」

 出迎えてくれたのは若い女性だった。髪は短く、相当な美人だ。お姉さんかな? 先輩に訊いてみるか。

「先輩、この人はお姉さんですか?」

「へ? 何言ってるの、私のママだよ」

「「「えーーーー!」」」

 生徒会全員が悲鳴を上げる。どう見ても先輩ママは二十代後半くらいで、とても高校生の娘を持つ母親とは思えなかったからだ。

「そんなにびっくりしないでよ。と、取りあえず上がったら?」

 皆川先輩の提案に動揺しながらみんな上がって行く。

 リビンクに案内された俺達はソファーに座り、全員で先輩のママを一斉に見る。

「み、皆川、本当に母親なのか?」

 会長は恐る恐る訊く。あの会長が動揺するとは。

「ママは正真正銘、私の母親です!」

「あらあら、私がどうしたのかしら?」

 先輩のママが麦茶を持って来ながらそう訊いて来る。何でも無いと先輩が言って誤魔化す。先輩の家は父親が仕事で長期出張中で、母親と弟の三人で暮らしているらしい。

 しばらくすると、リビンクに小さな男の子が入って来た。ホッペを真っ赤にしていて、男から見ても可愛いと思ってしまうほど愛嬌がある顔だ。

「お~、いっぱいひとがいる~! まこと、こいつらだれ~?」

「えっとね、私の……お友達だよ。あ、弟の(しん)です。小学校三年生だよ」

「わぁ~、可愛いです! 先輩にこんな弟さんがいたんですね!」

 姫ちゃんがそう言うと、先輩が嬉しそうに微笑む。

 会長をチラリと見ると、頬を赤らめている。どうやら会長も可愛いと思っている見たいだ。

「心と仲良くしてあげてください。あ、でも……いじめたら殺すから」

 にこやかに仲良くしてと言っていたが、いじめたら殺すと言った瞬間、何やらどす黒いオーラが背中から見えた。

 その瞬間理解した、先輩の弟をいじめたら、即死だと……。

 しばらくしてから俺達は先輩の部屋に向かう事に。部屋は二階に上がって直ぐに見えるドア。部屋に入ると、片付いていて綺麗だ。

 大きなクマのぬいぐるみとかあって、女の子らしい部屋だと思う。そんな部屋を見ていた会長が案の定こう言い放つ。

「さぁて、部屋の中を物色するか。おいお前達探せ!」

「え! ちょっと待って! ああ、そんな所を開けないで下さい会長!」

 姫ちゃんはタンスを。副会長はCDやDVDが収納してある本棚。会長は先輩の勉強机をあさくっていた。

 タンスを物色していた姫ちゃんが何かを発見したらしく、叫び声を上げる。

「わぁ! 皆川先輩はこんな下着を穿くんですか! 大胆です!」

「きゃあ! 柳刃さん! だ、だだだ駄目! それは駄目!」

 一体どんな下着なのだろうか? 見て見たいが、俺にはそんな度胸などなく目を瞑る。

 本棚を物色していた副会長は何やらDVDのタイトルに興味を引かれている様だ。

「おお、このDVDは……こちらも、皆川くんはなかなかのホラー映画通みたいですね」

 ホラー映画のDVDがいっぱいある様で、すごく怖い物ばかりらしい。

「ん、なんだこれは」

 みんなが騒いでいる中、会長が何かを見つけた様だ。手に持っていたのは写真、そこに何かが写っているみたいだが。

「あ! 会長それは駄目です! その写真は……」

「な、なんと……皆川にこんな趣味があったとは」

 何が写っているのか気になった俺は写真をそっと覗く。

 するとそこに写っていたのは、真っ白なナース服を着た先輩が写っているコスプレ写真だった。

「ち、違うの、これは……彼の趣味だから……着て見せてって言ったから着ただけで……その……」

 顔を真っ赤にして先輩は写真を否定している。それを見るなり会長の目が輝き始め、ニヤリと笑いこう言った。

「ふふふ、この写真を複写して、学校中にばらまくか!」

「や、やめて下さい!」

 写真を取り替えそうと会長に飛び掛かったが、会長はヒラリと回避。部屋は二人の追いかけっこで騒がしくなり、ドタドタと部屋を走り回る二人。

 そんな時だ、部屋のドアが勢い良く開く。開いた向こうに居たのは先輩のママだ。

「あらあら、まことさん、お部屋で暴れてはいけませんよ?」

 そう言うと先輩の頭を鷲掴みし、ズルズルと引きずりながら廊下に。

「ヒィ! 待ってママ、私は悪くないよ!」

「モンドウムヨウ」

 扉が閉じ、廊下の様子が分からない。

 先輩は恐怖の声を出して叫ぶ。

「待って、グーはやめて、やめ……あーーーーーーーーーーーー!」

 先輩の悲鳴が木霊した。




 柳刃家の場合。


 皆川先輩のママがドアの向こうで何をしていたのかは分からないが、折檻が終わって出て来た先輩はガタガタと震えながら泣いて入って来た。

 相当怖い様だ。

 先輩の家を後にした俺達は姫ちゃんの家に行く事になっていた。

「なんだか恥ずかしいです。ボクのお家は古いから笑わないで下さいね?」

 一体どんな家なんだろうか? そんな疑問を抱きながらしばらく歩き、ようやく姫ちゃんの家が見えて来た。

 そこにあったのは時代劇に出てきそうな木で出来た大きな扉、白い塀が異様に長い。扉は開いていて、中には立派な屋敷が。なんとも立派な家だ。

「す、すげえ! 何坪あるんだよここ……」

「ボクのお家は代々剣術道場をしています。稽古場が大きいからこれだけ広いんです。お家事態は普通のお家と同じですよ?」

 剣術道場か。分かった、小さい頃からきっと剣術を習っていたからあんなに強いんだ。

 少しだけだが姫ちゃんの事を知れて嬉しい。

 ゾロゾロと屋敷に入って行く生徒会のみんな、中には立派な庭があり、何処かの高級料亭を思わせる風景だ。小い白い石が辺りに敷き詰められ、その真ん中に大きな桜の木があって、なんとも神秘的な光景。

「ほぅ、見事な庭だ。わたくしが以前行った料亭よりも立派だ」

 会長も絶賛するほどの美しさを持つ庭、なんだか俺達って場違いみたいな感じを受ける。

 ようやく玄関まで来た。戸を横にスライドさせ全員が中に入って行くと奥から誰かがやって来る。その人は女性だ。

「ただいまお母様、今日はボクがお世話になっている生徒会の皆さんを連れて来ました!」

「まぁ~! (せい)ちゃんがお世話になっています~。わたしは母の柳刃絹江(やなぎばきぬえ)と申します~」

 間延びした声が特徴的だった。黒くて腰の辺りまである長い髪、白い着物を着ていて、まるで大和撫子だ。

 顔も姫ちゃんとそっくりで美人。

「さぁ、上がって下さい! ボクのお部屋は奥です」

 姫ちゃんは嬉しそうに俺達を案内する。分かってるのかな? 会長に部屋を荒らされるって事を。

 奥まで進むとある障子の前に止まった。どうやらこの部屋みたいだ。

「ここがボクのお部屋です」

 そう言うと障子を開け放つ。中は畳みの部屋で、木でできた古いタンス、勉強机と三面鏡が置かれ、勉強机に小説の本がたくさん並んでいた。

 読書が好きなんだな。

「ここが柳刃の部屋か? なんと言うか殺風景だな」

 そう言えばそうだな。なんて言うのだろうか、女の子が使う様な部屋には全く見えなかった。

「あはは、ボクは……ごちゃごちゃしたものはあまり置かないんです」

 にこやかにそう言う姫ちゃんだったが、なんだろう? 違和感を感じる。

 無理して笑っている様な感じ。

 この殺風景な部屋と何か関わりがあるんじゃないのか?

「皆さんお茶をどうぞ~」

 姫ちゃんのお母さんがお茶とお菓子をおぼんに乗せて運んで来てくれた。お菓子はセンベイと苺大福だ。

「わぁ! ボクの大好物の苺大福さんです!」

 そうか、和菓子が好きなんだな。また一つ姫ちゃんの事が分かって嬉しい。

 だが、そのお菓子を運んで来る絹江さんの歩き方が危なっかしい。今にも足がもつれそうな感じ。

「あう~、せ、誠ちゃん助けて~! 足がもつれ……あ~れ~!」

 絹江さんが叫んだと同時にお茶とお菓子が空中に浮かぶ。

 その浮遊するものは何故か真っ直ぐ俺に迫って来る。

「あ! 危ないです!」

 姫ちゃんがジャンプして苺大福をキャッチし、「苺大福さん無事でよかったです!」なんて言っている。助ける順番で苺大福に負けたのか? センベイと熱いお茶が俺を飲み込んだ。

「熱っちぃいいいいいいいいいいい!」

「まぁ! 大変~! 廊下の奥に水道がありますから~」

 自分で処理をしろと? 絹江さんはわざとしたわけじゃないけど、もうちょっと手を貸してくれも。

 あ、会長が爆笑していやがる。ちくしょう。

 しょうが無いので一人で火傷を冷やす事にし、先に進む。廊下の奥に洗面所があったので、水である程度冷やしていたら痛みが和らいだのでみんなの元に戻る事に。

「はぁ~! 本当に広い家だな、庭もすごいし、家の作りもなかなかの年代物だな」

 関心しながら廊下を歩いている時だ、ある部屋の障子が開いている事に気付く。

 中は剣道の賞状でうめ尽くされた部屋。

「凄いな、賞状だらけだ」

 賞状の名前は男の名前だ。名前が、柳刃断蔵(やなぎばだんぞう)。誰かな? 古そうだから姫ちゃんのお父さんかな?

 不意に俺に向けられている視線に気が付く。そこを見てみると姫ちゃんが廊下の真ん中に立っていた。

「姫ちゃんどうしたの?」

「……えっと……その……か、かなめさんが場所分かったかなって思って」

「ああ大丈夫直ぐに分かったよ」

「そう、ですか、なら……ならよかったです」

 なんだ? 姫ちゃんの様子がおかしい。体がガタガタと震えている。顔色も青ざめていて、目線を庭に向け、けして部屋を見ない様にしている。

 一体なにが姫ちゃんをこんな風にしているんだ?

「は、早く戻りましょう」

 姫ちゃんは走る様に去って行く。姫ちゃんが歩く横を絹江さんがすれ違う。

 姫ちゃんの背中を悲しそうに絹江さんが見つめていた。

「誠ちゃん……」

「あ、あの絹江さん、姫ちゃ……えっと、娘さんは一体どうしたんですか?」

 絹江さんはチラリとあの部屋を見つめる。

 その表情は悲しそうにしていて、今にも泣いてしまいそうな顔。

「この部屋は亡くなった主人の部屋です。誠ちゃんは……主人の事が嫌いなんです」

 亡くなった主人、つまり姫ちゃんのお父さんなのか。

 でも、嫌いって一体どういう事なんだ? 姫ちゃんのあの動揺、普通じゃなかったぞ? 詳しく聞きたかったが、二人の悲しそうな顔を見ていたら、その事を訊いたら傷をえぐる様でそれ以上何も訊けなかった。

 一体何があったんだろう。

 無邪気な笑顔の裏で彼女は苦しんでいたのか。

 その後、部屋に戻るとそこにはいつもの笑顔で笑っている姫ちゃんがいた。無理して笑っているのかな?

「柳刃、その苺大福を渡せ!」

「嫌です! いくら会長さんの頼みでも、これだけは譲れないです!」

「なんだと! 柳刃、そこになおれ!」

「きゃいん! ボ、ボクの胸をもまないで下さい!」

 いつもの日常、その中では誰でもかかえているものがある。

 何かを背負っていると、感じる俺がいた。




 辺りはすっかり夕日に染まり、赤い空が広がっている。

 俺達は姫ちゃんの家を後にしていた。次は会長の家に行くはずだったのだが、会長が来るなと言っている場面だ。

「会長だけずるいですよ! 俺らの家はあさくりまわって、卑怯ですよ!」

「家には連れて行けない理由がある。訳は言えないが、ダメだ!」

 会長は明らかに動揺の色を出している。

 なんだ? 会長は何か隠しているな、その隠しているものが家にあるんだろうきっと。

「と、とにかく来てはダメだ、わたくしの、会長命令だ!」

「怪しいわ、会長」

 皆川先輩の言うとおりだ、怪しすぎる。額に汗をかいている会長。みんなで何でだと問い詰めて行く、副会長が会長の盾となって前に出る。

 その時だった、一台の車が俺達の前に止まる。その車は高そうなリムジンで、一人の男が降りて来た。

「聖羅じゃないか、こんなところで何をしているんだい?」

「ひ! お、お父様!」

 お父様だって? 降りて来た人は上下の黒いスーツ、髭を生やした中年の男性。この人が国会議員の会長の父親か。そう言えばなんとなく顔に見覚えがあるな、選挙のポスターとかテレビとかで見たかも。

 会長を見ると汗をダラダラと流して動揺しまくっている。なんだ?

「わ、わたくしは生徒会のお友達との交流を深めておりました。あ、あの、お父様はお仕事終わりになったのですか?」

 口調が違う。家ではあんな口調なんだ。

 会長の父親はゆっくりと近付いて行く、会長は一歩後ろに後退する。

「そうか、そうか、やはり儂の娘だ、どれ、褒めてあげよう!」

「い、いけません!」

 副会長が突然叫んだ! 副会長は何が起きるのか分かってるみたいだ。

 父親は会長の腹の辺りを両手で掴むと、ヒョイっと持ち上げた。力強い!

「わ、わわわ、お父様おやめ下さい! ひ、人前で!」

 父親はそのまま会長を自分に引き寄せ、頬と頬を合わせ、スリスリ。

「きゃんわいい~! 聖羅は本当に可愛いよ~!」

 会長は顔を真っ赤にして可愛がられていた。ああ分かったぞ、家に連れてきたくない理由。この父親がいたんじゃあ俺も嫌だな。

 数分スリスリして、父親は満足したらしく、早く帰っておいでと言い残し帰って行った。

 会長は地面にうずくまり動かない。

「会長……無事ですか?」

 副会長の問い掛けにも答えない。

 会長はまた明日と言い残し、逃げる様に帰って行く。

 後日、会長は生徒会みんなの顔を見るなり、いきなり殴りかかって来た。

 捨て台詞が、あの事を忘れろ! だ。顔を真っ赤にしながらそう言う。

 なんだかそんな会長が可愛らしかった。

 

 

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