第十五話 柳刃誠十郎VS後藤まりあ
とある日、自分の部屋で机に座りながら頭を抱えていた。
「ふに~」
後方のドアの隙間からこちらを見つめている人物が俺をこうさせている訳だ。
「ふに~」
「……姉貴、さっきから何やってるんだ?」
そう、ドアの隙間から睨む様に見詰めているのは我が家の大きな問題児、そして俺の姉貴、後藤まりあだった。
もう三十分くらいだろうか、あのまま俺を睨んでいる。
「ふに~」
「一体なんなんだよ」
「教えてあげようか兄さん?」
「何か知ってるのかめい……って、ちょっと待て、いつの間に俺の部屋に入りやがった?」
「そんなのは気にしないの、些細な事よ些細な。さて、姉さんは何をしているのかそれは兄さんが悪いのよ?」
俺が悪い?
「だって姉さんと言う女がありながら彼女を作ったんだもん、姉さんも怒るわよ」
「はぁ、やっぱりか」
「ふに~」
確かに姉貴なら起こり得る事態だ。姉貴は俺を溺愛している、危ない関係になりそうな程に。
話し合わないといけないよな、それも今すぐに。それが頭を抱える問題を解決する方法だからだ。
実は今日、家に姫ちゃんが遊びに来る事になっている。行きたいですと潤んだ瞳で上目遣いされたんじゃ断れなかった。
もし二人が鉢合わせになってしまったら姉貴が姫ちゃんに喧嘩を吹っ掛けるのは目に見えてる、なんとかしなければ。
「めい、頼みがある」
「何兄さん? 内容によっては報酬が高いよ?」
「実はな、今日姫ちゃんが家に来るんだよ、だから姉貴に会わせない様に協力してほしい」
さて、こいつの事だ小遣いとか、何か買ってくれと言うに決まっている……のだが、今日は違った。
「良いわよ、あたしに任せなさい」
あれ? いつもは何か欲しい物を言うのに、どうなってるんだ?
「柳刃さんには借りがあるからね」
と呟いていたのだが俺には聞こえていなかった。謎のまま、後藤まりあ阻止計画が実行されようとしていた。
「姉さんをあたしの部屋に入れて出て来れなくするから」
「それなら有難い……けど、あの姉貴だぞ? お前一人で大丈夫か?」
「任せて兄さん、あたしを誰だと思うの? ふふ、姉さんならあたしの演技でイチコロよ」
めいは姉貴の元へ、何故かその背中が大きく見える。すごく頼もしい。
めいはドアを開け、姉貴に話しかけ始めた。
「姉さん、話があるの」
「ごめんねめいちゃん、お姉ちゃんは今忙しいの」
さぁ、めいはどう出るんだ?
「う、ううっ……ひっく」
「え? めいちゃん、どうしたの? 泣いているの?」
「だって、姉さんはいつも兄さんばかり可愛がって、あたしを見てくれ無いもん、ひぐっ、姉さん、酷いよ、あたしだって、“お姉ちゃん”と遊びたいもん! うわああああん!」
泣き落とし作戦か。
「ふに~! めいちゃん! ご、ごめんね、お姉ちゃんが悪かったよ、泣きやんで? そ、そうだ、今日はずっとめいちゃんの側にいるから、ね? だから機嫌を直して?」
「ぐすっ、本当?」
めいは上目遣いの涙目で姉貴を見詰めた。
これがヒットしたらしい、姉貴の頬がピンクに染まり、魅了された。
「ふ、ふに~、泣き顔のめいちゃん可愛い~、さ、めいちゃんの部屋に行こうね?」
めいの勝利。さすがだ、あの演技力は素晴らしい。
あいつ、女優になれるんじゃないのか?
二人がここを離れて行く、めいがちらりとこちらを向き八重歯むき出しの笑い顔をしてこの部屋から退場。多分、嫌、絶対今ちょろいって思っていやがったなあいつ。
よし、姉貴はなんとかなった。さて、もうそろそろ姫ちゃんが来ても良いはずだ。
不意に部屋のドアをノックする音が聞こえた。ドアを開くとそこにいたのは、俺の母親。しかもまた下着姿。
「かな、さっきから何を騒いでいるのよ、鳴き声が聞こえた様だけど? まさかめいちゃんをいじめて無いでしょうね?」
「いじめて無いって。それより服を着ろ! 今から客が来るんだからな、そんなみっともない姿を晒すなよな!」
母さんは俺が言うのもあれだが美人だ。子供三人生んでいるのに、三十前半くらいの容姿。だから余計に下着姿を姫ちゃんに見せる訳にはいかない。
「客? 誰が来る……あ~! 分かったわ、かなの彼女でしょ? 今から来るの? よっしゃどんな女に骨抜きされたか見てやるか」
「ちょっと待った、なんで母さんがその事を?」
「ふっふっふ、めいちゃんに聞いたのよん!」
あのお喋りめ。
「とにかく服を……」
着ろと言う前に我が家のチャイムが鳴り響く、来たみたいだ。
母さんを自分の部屋に直行させて服を着る様に促し、玄関にダッシュ。
玄関へ行ってみると父さんが応対していた。
「こ、こんにちはです、柳刃と申します、かなめさんにはいらっしゃいますか?」
「かなめの友達だね? こんにちは。さ、上がって、かなめもすぐに……お、もう来ていたか」
「いらっしゃい、姫ちゃん」
あれ? 今日は休日なのだが、姫ちゃんは制服を着ていた、なんでだ?
「どうして制服?」
「えっと、実は学校に数学の宿題を忘れてしまって、ついでによって来たんです」
「そっか。ま、取りあえず上がって」
「お、お邪魔します」
「ゆっくりしていってね。かなめ、後でお茶とお菓子届けるが何がいい?」
父さんに和菓子を頼むと伝え、姫ちゃんを俺の部屋へと導く。
中へと招入れる、よし姉貴に姫ちゃんの姿を見られてない。
見られ無い様に素早くドアを閉めた。
「かなめさん? どうかしたんですか?」
「へ? あ、えっと、なんでもないさ、あははは!」
笑って誤魔化した。今日は絶対に姉貴を姫ちゃんに近付けないと固く決意する。
さてと、今は姫ちゃんとの時間を楽しむだけだ。
「ここに入るのは二度目ですね、最初は生徒会の皆さんと。二回目は……かなめさんの恋人さんとしてです。あはは、自分で言ってて恥ずかしくなっちゃいました」
紅葉する様に頬が赤く染まる。そして笑顔を振りまく。
やっぱり姫ちゃんは可愛くて、温かい日常を与えてくれる。
本当に彼女が俺の彼女だなんて、いまだに信じられない自分がいた。
「と、とにかく座れよ」
「はい」
机のイスに座らせ、俺はベッドに。
だが、姫ちゃんが何やら不満そうな顔をしている。どうしたんだ?
「あの、ボク、かなめさんの隣りに座りたいです。良いですか?」
「へ? あ、そっか、じゃあどうぞ……」
隣りに腰を下ろした。彼女の良い香りがする。
幸せだ、隣りに姫ちゃんがいてくれて。
だが二人の空間に割り込むようにノック音、現れたのは母さんだ、お茶とお菓子を持って。
ちなみにちゃんと服を着ていた。
「こんにちは、私がこいつの母親よ」
「かなめさんのお母様ですか! は、初めまして、ボクは柳刃と申します! よ、よろしくです!」
ペコリと頭を下げた。その仕草が可愛らしく、母さんもそう感じたみたいだ。
「か、可愛い! お人形みたい。嘘、かなにこんな彼女が出来ただとぉ? なかなかやるわね、見直したわよ、かな」
母さんが姫ちゃんを気に入った様だ。それは良い事だ、仲が良いならそれにこした事は無い。
「母さんもう良いだろ?」
「何よ、彼女に独占欲ぅ? かなも男って訳か」
「う、うるさいな!」
ケラケラ笑いながら出て行こうとしたが、急に止まり姫ちゃんを見ながらこう言った。
「柳刃ちゃんだったわね、今夜ご飯食べて行きなさいよ」
「え? ボクなんかが食べていっても良いんですか?」
「大いに結構よ! 食事は大勢で楽しく、家の家訓よ」
そんな家訓いつ作ったんだよ、聞いた事無いぞ? けっこう適当なんだよな母さんは。
まぁいいか、姫ちゃんは素敵な笑顔で了承しているし。そのまま母さんは笑顔で扉を閉める。
「あのかなめさん、夕食良いんですか? 迷惑じゃ無いですか?」
「迷惑なもんか、逆に嬉しい。父さんの料理は旨いぞ? 楽しみに待っていろよな?」
「はい、楽しみにしちゃいます!」
ん? 姫ちゃんが夕食を一緒に食べる?
すごく良い事じゃないか、なのにどうしてこんなに嫌な予感がするんだ?
「そうだ、めいさんは元気ですか? かなめさんのお姉様も」
「ああ元気だよ、いつものようにめいは生意気だし姉貴は……」
ちょっと待て、夕食を姫ちゃんが食べるって事は姉貴と鉢合わせしちまう。
どうする? 多分父さん達がいる前なら姉貴も少しは大人しいとは思うが、だが未知数だぞ。
「かなめさん? 顔色が悪いですよ?」
「だ、大丈夫だ、なんとか策を考えるから!」
「ほぇ? 策……ですか?」
くそ、考えても考えても策が浮かばない。どうする俺、何とかしないと。
考えにふけっていると姫ちゃんがつまらなそうにしていた。
しまった、せっかく来てくれたのに彼女を不快にさせてしまった。何やってんだ俺。
「かなめさん、何か悩みがあるんですか? もし良かったらボクに話してくれませんか? 話すだけでも楽になるかもです」
「えっと、その……」
なんて言えば良いんだ? こうなったら正直に話すか? 俺に彼女がいるって事に腹を立てている姉貴の事をか?
そんな事言ったら姫ちゃんはどうするのだろうか、嫌な予感がする。
「えっと……」
考えがまとまらないでいると廊下から騒がしい声が、まさか。
「姉さんダメだったら!」
「放してめいちゃん、お姉ちゃんね、嫌な予感がするの、かなめちゃんの部屋から!」
姉貴がここに乗り込んで来ようとしているのか?
「や、やばい、ひ、姫ちゃん隠れろ!」
「隠れるんですか? どうしてです?」
「理由は後で説明する、だから早く!」
だが遅かった。勢いよく扉が開き、姉貴が姿を現す。
視界に入った姫ちゃんを睨み付けている。やばい、これは非常にやばい。
「やっぱり、お姉ちゃんの予感は的中しちゃったのだ! あなたがかなめちゃんを誘惑しためぎつねだね?」
「めぎつねさんですか? ボクは人間です」
とにかく姉貴をどうにかしないと。
「姉貴、ちょ……」
「かなめちゃんは黙ってなさい! めぎつねのせいでちゃんとした判断がつかないんだから! あなた名前は?」
「ボクは柳刃です。柳刃誠十郎です」
「ふに~? 誠十郎? ま、まさか、かなめちゃんは男にたぶらかされ……」
俺は違うと叫んでいた。姫ちゃんは女の子だと説明してやると、安心して「やっぱりかなめちゃんはノーマルだよね?」と言ってやがった。
「と、に、か、く! かなめちゃんを誘惑しないで!」
「ボ、ボク、誘惑なんてして無いです! 純粋にかなめさんが好きなんです!」
こんな状況でなんだけど、姫ちゃんの今のセリフがとても嬉しかった。自然と顔がにやけ始める。
「間抜けな顔」
「うわ! めいか、脅かすなよ」
呆れた様な顔でめいが俺を見ている、間抜けな顔でも良いじゃないか、嬉しい事があったんだから。
「純粋? なら、かなめちゃんが何を好きなのか知ってるの? まりあは知ってるもん、いっぱい知ってるもん! 例えばね、かなめちゃんは焼きそばパンが大好物なんだから!」
「ボクだって知ってます! じゃあ知ってますか? かなめさんは美少年で、学校で意外と人気なんですよ! いっぱい女の子に狙われてるんですから!」
へ? 俺が女子に人気? 初耳だぞ?
「あ、当たり前だよ! かなめちゃんの魅力は……って、いっぱいめぎつねに狙われてるの! ふに~、お姉ちゃんしっかりしないと……じ、じゃあかなめちゃんが巨乳好きだって知ってるの!?」
「ふぇ! かなめさん、巨乳さんが好きなんですか!」
「兄さん、やらしい」
女性三人の視線が突き刺さる、ちょっと待て、確かに、その……大きい人に魅力を感じるけど、どうして姉貴がその事を知っていやがる!
「姉貴! なんで知って……じゃない、何訳の分からない事を!」
「ふに? 証拠だってあるんだよ? かなめちゃんの机の引出し三段目、その奥!」
な! まさかアレを知ってしまったのか!
めいが机の三段目を開け、奥に手を伸ばす。
止めろ、それは駄目だ! 俺のアレがぁ!
「ん? 何これ? 雑誌みたい。えっとタイトルが『爆乳百連発! 今夜はこれで決まり!』……」
「うわああああ! み、見るな! 違うんだ! これは!」
めいは何か汚い様なものを見る目で蔑む。
姉貴は証拠を見せつけてやったと自慢げに腰に手を。
姫ちゃんは顔を真っ赤にさせて自分の胸に視線を。
は、恥ずかしい!
「や、やめてくれ! お、俺をそんな目で見るなぁ!」
両手で顔を隠してうずくまる。誰か穴を掘ってくれ、そこに飛び込むから!
「かなめちゃんはね、まりあみたいなおっきい胸が良いんだから! あなたの胸じゃかなめちゃんに嫌われるもんね!」
「はぅ、そんな……かなめさんに嫌われる」
「き、嫌いにならない! それは姉貴の嘘だ!」
本当に泣きそうになっていた姫ちゃん、姉貴め、俺と姫ちゃんを別れさせようとしやがって。
これ以上黙っていられるか、姉貴にハッキリ言ってやる。そう意気込んで立ち上がった時だ、姉貴が姫ちゃんに攻撃を仕掛けていた。
「かなめちゃんに近付かないで! 必殺、まりあアタック! えい!」
「ほぇ? ひゃう! きゃあ、ダメです、うう、くくっ、あははは!」
まりあアタック、それはただ脇をくすぐるだけなんだが、それを食らって耐えきれず笑いだしていた。
「ほらほら、かなめちゃんにもう二度と近付かないって誓う? そうしたらやめてあげる」
「あははは! い、嫌で……あははは! 嫌ですぅ~! あははは! きゃははは! ま、負けません! うう、お返しです!」
スルリと姫ちゃんの手が姉貴の脇に。
「ふに! や、やめて! あははは! いぅ、あはははは!」
なんだこれは、目の前で姫ちゃんと姉貴がくすぐり合っている光景が広がっている。
なんて言うのか、お前らは小学生か! と突っ込みたくなるがあの二人はあれで真剣なんだ。
数分後、二人は身体をピクピクさせながら床に倒れていた。
「ふ、ふに~、な、なかなかやるじゃない」
「か、かなめさんのお姉様こそ」
「兄さん、なんだかこの光景ってエロいね」
アホかとめいに言ったが、互いの服がはだけてなんとも凄い光景。
「兄さん鼻の下伸びてる、やらしい」
「う、うるさい!」
「根性だけは認めてあげる、でも、かなめちゃんを誘惑した事は許さないもん!」
「ゆ、誘惑なんてしてないです! ボクは本当にかなめさんが好きなんです。かなめさんの決めた事を貫く精神、それは気高くて美しい心を持っている、そんなかなめさんだからボクは好きになれたんです!」
「兄さん、柳刃さんに大絶賛みたい、良かったね?」
そんな事を目の前で言われて恥ずかしくなって来る。でも、それと同時に嬉しさが込み上げて来た。
「むむむ、かなめちゃんの素敵なところをこうも適格に分かってるなんて……ふに~」
「ボク、本当に好きです、だからかなめさんと付き合う事を許して欲しいです」
「うう~、かなめちゃんは……まりあのもの……ふに~」
姫ちゃんの真っ直ぐな瞳。それが本当に悪意無く、好きだと分かったらしく姉貴は困った顔をしていた。
「ふに~、悪い娘じゃ無い事は目を見ていたら分かったけど、まりあのかなめちゃんの彼女だなんて……まりあは、まりあはぁ~」
「姉さん言ってた、兄さんは本当に素敵、だから悪い奴の手には落としたくないって。でも柳刃さんは悪い奴じゃないって分かったし兄さんを本気で好きだって。姉さんも兄さんを好きだから困ってるのよ」
困った姉貴は俺の腕にしがみついて来た。
「ふに~、かなめちゃん~」
「姉貴、俺は姉貴の事は好きだけど、それはあくまで家族としてだ。だから……」
「ふに~」
姉貴が涙目になって、今にも泣きそうになる。だけどこれはいつかは言わなければならないんだ。
そんな時だ、姫ちゃんが一歩進んで姉貴に話しかけ始めた。
「あの、ならボクと勝負しませんか?」
「ふに~? 勝負?」
「どちらが、かなめさんを振り向かせるか、それを勝負しましょう。ボクはかなめさんの恋人さんですけど、そんなのは関係ないです、かなめさんのお姉様がかなめさんをメロメロにしたらお姉様の勝ち。ボクがかなめさんをメロメロにしたらボクの勝ち、どうですか?」
「ふに~、かなめちゃんをメロメロにかぁ~、……いいよ、あなたなんかよりも先にかなめちゃんをメロメロにしちゃうんだから!」
二人が笑い合う。今まで喧嘩してたのに、笑い合えるなんて。
今の会話を聞いていたら恥ずかしくなる様な事をいっぱい言ってたな。
「さてと、なら早速行動しちゃうからね!」
いきなり姉貴が俺に飛び付き押し倒された。そして上着を脱ぎだしながら迫って来る。
「か、な、め、ちゃん、お姉ちゃんと良い事しようね?」
「な、何していやがる!」
「はわわ! かなめさんがピンチです! 今助けます!」
「うわ、なんてやらしい」
姉貴を突き飛ばす姫ちゃん、そのまま俺の上に落ちて来た。咄嗟に手を掲げ、姫ちゃんを支えようとしたが手に柔らかな感触が。
「ひゃん! はう……か、かなめさんのスケベさんです」
姫ちゃんの胸を鷲掴みに。
「ご、ごめん!」
「あなただけずるい! かなめちゃん、お姉ちゃんのも!」
「ふざけるな!」
「兄さん、本当にやらしい」
そんな騒がしい事があったが、なんとか姫ちゃんと姉貴の喧嘩が終わらせた。
「何してるのあんたら?」
部屋のドアが開いていて、母さんが俺達を見ている。呆れ顔で。
「かな、この変態」
「俺のせいじゃない!」
「兄さんのせいだよ」
睨まれている、母さんに。
つまらないものを見る様な顔をするめい。
胸を押さえて照れてる姫ちゃん。
俺に抱き付く姉貴。
俺、どうしたらいいんだ? 逃げていいかな?
なんだか分からない現場が広がっているが、どうにか俺の努力でこの場を治める事に成功。
よく治められたよな。
そのまま夕食を食べる事になったのだが、ここでも姉貴と姫ちゃんのバトルが始まるとは思わなかった。
「わぁ、美味しそうです、この料理全部かなめさんのお父様が作ったんですか? すごいです」
「そうかい? ささ、温かいうちに食べよう」
食卓にたくさんのご馳走が並んでいた。どうやら父さんが姫ちゃんのために腕をふるったらしい。
並んでいる料理は父さんが得意としている中華だ。麻婆豆腐やチンジャオロースなどが並んでいる。いつもながら旨そうだ。
「いただきます、……ん! 美味しいです!」
「口に合ってくれて良かった、どんどん食べなさい」
姫ちゃんがとても美味しそうに食べている。父さんの料理を気に入ってくれて良かったよ。さてと、俺も食べるかな。
「かなめちゃん、お姉ちゃんがおかず取ってあげるね?」
「むむ、ボクも取ってあげます!」
俺の目の前に大量のおかずが。こんなに食えるか。
「かなめちゃん食べさせてあげるね? はい、あ~ん!」
「ボクもです! かなめさん、あ~んして下さい!」
「うわ、ラブラブだね」
母さんが茶茶を言って来るが、それを言い返す事が出来ない。何故なら姉貴と姫ちゃんが俺の口に無理矢理中華を押し込んでいるんだから。
い、いろんな味が混じって何食っているのか分からない。
「ぐ、ぐるじい(く、くるしい)!」
「あはは! 兄さんの顔おかしい! 最高!」
「ぷぷ、本当めいちゃんの言うとおりね、かな、あんた最高!」
めいと母さんが爆笑している、人の気も知らないで。
どうにか飲み込んだが、あ~ん攻撃第二波が待ち構えていた。
「かなめちゃん、お姉ちゃんのあ~んが良かったよね?」
「かなめさん、ボクの方が良かったですよね?」
ちょっと待て、あ~んの採点基準なんてあるのかよ? と言い返そうとしたのだが第二波が口の中に。
「ぐ、ぐるじい、みず、みずぅ!」
「どうだ、まりあの方がかなめちゃんに上手にあ~んしてあげたんだから!」
「ボクの方が良かったはずです! かなめさん、そうですよね?」
今返答出来ません。
「……今の若い子は積極的で大胆なんだな」
父さんが目を丸くして修羅場を眺めていた。
こんな感じで食事が進んで行った。料理が旨いとか、そんな記憶がない。あるのは苦しい、これだけ。
夜もふけて来たので姫ちゃんが帰る用意を始めていた。
「それではお邪魔しました、かなめさんのお父様、ご飯美味しかったです」
「そうかい? また遊びに来なさい」
「はい!」
家まで送ると言って一緒に出て行く。その直後姉貴が追いかけて来た。
「待って、柳刃ちゃん、まりあ負けないから! かなめちゃんはまりあがもらっちゃうんだから!」
「ボクだって負けません、かなめさんはボクがもらいます」
は、恥ずかしい。俺の目の前で堂々と大声でそう言われて、本当に恥ずかしかった。
二人は言い終わると、またニコリと笑い合っている。
えっと、これって仲良しになったと受け取ってもいいのかな?
そんな事を思いながら姉貴と別れ、姫ちゃんと夜の道を進んで行く。




