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第十四話 死闘、クラスマッチ 後編

 頭上に迫り来る木刀、避けられない。

 覚悟を決めた時だ、目の前に影が現れ木刀を止めた。

 その影は女の子、一体誰だ?

「かなめさま、大丈夫ですか?」

「君は、川上さん!」

 助けてくれたのは川上春菜さんだった。姫ちゃんの木刀を竹刀で止め、それを弾き返す。

「春菜さん! 邪魔しないで下さい! こうしないとかなめさんが男になれないんです!」

「訳が分からないわ、自分の恋人を襲うなんて、彼女失格よ! かなめさまは春菜がもらっちゃうわ!」

「う~、かなめさんに近付くなです!」

 こうして柳刃誠十郎VS川上春菜さんの戦いが始まった。

 両者剣道をやっているのだが、どちらが勝つのだろうか。

 姫ちゃんを応援したいのだが川上さんが負ければ襲われてしまう、とても複雑な心境だった。

「ようやくこの機会が訪れたわ! あの時の屈辱、あんたにも味あわせてやる!」

「そんな事はどうでも良いんです! かなめさんを返して下さい!」

「そんな事ぉ! ふざけるな! もう許さないんだから!」

 川上さんが突撃を開始、竹刀を前に突き出す。それを姫ちゃんが体をずらし一重で回避、面を取ろうと構えて頭上に振り落とした。

「甘いわ!」

 なんと落ちてくる攻撃を手で掴んだのだ、白刃取りと言う奴か。武器を封じサイドから竹刀を滑らせた。

 姫ちゃんは壁を蹴り身軽に体を一回転させ、同時に木刀も回転、川上さんは掴んでいられなくなり放してしまった。竹刀は空を切り当たらない。

 姫ちゃんは着地、すぐに体勢を直して川上さんの胴を狙い真横に線を描く様に攻撃。それを川上さんは竹刀で攻撃を防ぐ。

 ハイレベルな戦いだ、アクション映画みたい。

「すごいでしょうあの二人、川上春菜は普段はふ抜けてるけど剣道部じゃ秘密兵器って言われてる達人よ、ただせいがもっとすごいだけの話」

「へぇ、そうなん……って、誰だ!」

 気が付くと真横に女の子が立っていた、どこかで見た顔だけど。

 そうだ、この人も姫ちゃんの友達だ、名前はえっと。

「あたしは坂本鈴、せいの親友よ。あなたがせいの彼氏ね……ふ~ん、なかなかの美少年ね、女装とかしたら美人になりそう」

 実際女装した事あるけどね、消せない悲しい過去だ。

 そんな事より彼女達の戦いはますますヒートアップ、そうだこの隙に逃げよう。川上さんや姫ちゃんには悪いが、勝負の世界は厳しいと言う事で。

「あら? 逃げちゃダメよ!」

 坂本さんがいきなり攻撃してきた。それを体を捻って回避に成功、武器はハリセン、これでも十分紙風船を割れる。

「あぶねえ! だが、俺はこんなところで死ねない!」

「あーー! 鈴! かなめさまに何してるのよ!」

「鈴ちゃん! かなめさんをいじめちゃ駄目です!」

「あら~、こっちに気がついちゃったか」

 よし、今がチャンスだ。

 すぐに立上がり廊下をダッシュ。三人の叫び声が聞こえた気がしたが、とにかく今は逃げなければ。

 しばらく走って二階に逃げる。どうやら追って来て無い様だ、撒いたか。

 安堵に浸っていると廊下の奥から誰かが走って来る、目が合ってしまう。その人物は皆川先輩の彼氏、佐波峻先輩だった。何やらものすごい形相。

「ヤバイ、峻先輩だ!」

「ま、待て! かなめ、に、逃げろ!」

 逃げろ? どうやら先輩は追われているらしい、誰に追われて……。

 何かが飛んで来る、俺の目の前に落ちて粉々となる。

 それは机だった、な、なんだ? 飛んで来た方向を確認すると女子が垣間見えた。見覚えがあるな、近付く度に記憶がはっきりとする、あれは留学生のスミスさんだ! 銀色の髪が特長の人。

「佐波! お前殺してやる!」

 激怒している、怖い。確かスミスさんは怪力が凄かったはず、取りあえず俺も逃げよう。

 さっきから逃げてばかりだな、走っていると峻先輩に追い付いたのでスミスさんが何故あんなに怒っているのか訊いてみる事にする。

「先輩、スミスさんに何かしましたか!」

「じ、実は、あいつが楽しみにしておいたプリンを食っちまったら怒っちまって、で、今殺されそうなんだ!」

 何やってんだこの人、しょうも無い人だ。と、思っていると、椅子が飛んで来た。

「ひぃ! 先輩謝って下さいよ!」

「あれだけ怒っていたら無理だ!」

「おい、俺達休戦にしないか? スミスから逃げられるまで」

「賛成! とにかく、どうにかしてスミスさんを止めないと!」

 彼女は恐ろしく怪力で、眼光鋭くしているから余計に怖い。

 俺と先輩の間に休戦協定が結ばれたがこの二人だけで彼女を止められるのだろうか?

「どうするんですか!」

「こ、こうなったら、スミスを止められるのは、まこちゃんだけだ! まこちゃんを探すんだ!」

 怒ったら今のスミスさん以上に怖い皆川先輩の力を借りると言っているが、自分がまいた種に解決策がそれか? 正直に謝った方が良いと思うが。今のスミスさんには無意味だろう。

 だが、ここまで逃げて事態が急変する出来事が。廊下を右に曲がった時行き止まりで逃げ場所が無くなったのだ。

「行き止まり! マジかよ!」

「先輩! スミスさんが来ました!」

 ギロリと俺達二人を睨み、にじり寄ってくる。一応逃げるのだが、背中に冷たい感触、もう逃げ場所が無くなってしまった。

「佐ぁ波ぃ~! オレのプリン、オレのプリン!」

「待てスミス! えっと、その……プリン5個買ってやるから、だから機嫌を……」

「5個?」

 反応した、だが気に食わないらしい、鋭い目を更に鋭くし近付いて来る。

「な、なら10個!」

「ああ?」

「ひぃい! ちくしょう、なら……お前の好きなだけ買ってやる!」

 と叫ぶと、彼女はピタリと止まった。顔がやわらかくなって笑顔でハニカンだ。

「良し! 今の言葉、確かに聞いたからな佐波! 許してやる、忘れるなよ今の言葉」

「お、おう、男に二言は無い!」

 びびった、本当にびびったよ。プリンで俺の命が脅かされなければいけないんだよ。溜め息が出る。

「はぁ、助かった」

「お、俺も巻き添えにならなくてよかった」

 本当に助かった、スミスさんに牙を向かれたら殺されていたに違いない。

「そうだ佐波、プリンはいただくとして罰は受けてもらうぞ?」

 と次の瞬間、紙風船が砕け散る。それは峻先輩のものだった。

 スミスさんが峻先輩の紙風船を叩きわった。絶句する峻先輩、満足げに笑うスミスさん。

「な、ななな、何しやがる!」

「あははは! いい気味だ佐波!」

「ちくしょう、こんなところで脱落かよ! だが一人では死なん!」

 そしてまた紙風船が砕け散る。それはスミスさんのだ、隙をつき彼女の紙風船を破壊した。

「な! 佐波!」

「ふははは! 思い知ったか!」

 やったらやり返す、先輩、なんだか子供みたいだ。少し情けないような気が。

「……ま、こんな遊びはどうでもいい。佐波、今からプリンおごってもらうぞ?」

 先輩の襟首を掴みズルズルと連行されていく。その光景が失礼だけど、面白かった。

「は、放せ! た、助けてくれ、かなめ!」

 求めないでくれ。先輩が懇願の眼差し、俺の対抗策は視線を逸らす、これだった。

「テメェ! 視線そらしたな! 覚えていやがれ!」

「プリン! プリン!」

 滑稽な二人は視界から消えた。さてと、これからどうするかな。

 ここを離れて安全な場所を探さないと。建物の中は危険だろうか? なら校庭はどうだ? いや論外だ、敵に姿を曝すだけでなく囲まれたら終わりだ。

 少なくても隠れる場所がある校内の方がまだましか。

「今何時だ?」

 携帯を取り出すと10時を過ぎていた。もう1時間も経っていたのか。

 どこに行ったものかな、未だ武器も無いしどうにかしないと。

 慎重に、誰にも見つからない様に物陰に隠れながら進んで行く。すると何やら先の方が騒がしい。どうやら誰かが戦ってるみたいだ。

 柱に隠して覗く、すると数人の男子生徒が男女の生徒を囲んでいた。あの男子達は見覚えがある、そうだ昨日解散させたゲーム同好会のメンバーだ。

 それに囲まれているのは鮮明に記憶に残る金色の髪、そう、我らが会長、宝条院聖羅だった。その後ろに副会長、高橋政史も。

「なんだ貴様らは、わたくしを狙う気か?」

「お前のせいでゲーム同好会は潰れたんだ! いいか? 我らゲーム同好会の歴史は長いんだ! あれは……」

「うるさい、わたくしには関係ない! 邪魔なものは無くす、当たり前だろう、そうだろ政史?」

「その通りです、会長」

 この言葉で同好会の奴等がキレた。

「貴様! もう頭に来た! おいお前ら、会長をひっ捕まえて裸にひんむいてしまえ!」

 指をワキワキと動かしながら会長に近付いて行く。

 あいつら、同好会のかたきみたいに言っているけど、単に会長の裸が見たいだけだろ? 顔を赤くしてハァハァ言っていやがる。この変態共め。

 でもあいつらは分かっていない、会長の強さを。

「近寄るな変態!」

 会長のハイキック、同好会の一人の顔面に直撃、吹っ飛ぶ。

「ふん、どうだ、まだやるか?」

「おい! 会長、パン空くんのパンティーを穿いていやがるぜ!」

 ハイキックをやった時に下着が同好会に見えた様だ。

 会長は顔を真っ赤にして恥ずかしがっている、パン空くんってパンダのキャラクターの奴だろ? そっか、それが好きなのか。

「き、貴様ら! よくも見たな! 許せん! 生きては帰さん!」

 会長は奴等へと駆け出す。目の前の奴に拳で殴り飛ばし、その横にいる二人に攻撃を仕掛けた。

 地面に手を付き、逆立ちの格好で二人を蹴り倒した。だが、派手にパンツ見えてるけど良いのか?

 後ろから同好会の一人が襲いかかるが、副会長が足を引っ掛けて転ばしすかさず紙風船を叩く。

 会長はすぐに起き上がり、次の獲物を睨んでいる。

「すげーー、さすが会長」

 感心していると背中に悪寒が走る。何だ? 嫌な予感がしたので横に飛んだ。

「あ! おしい」

「み、皆川先輩!」

 背後より現れたのは皆川先輩だった。新聞紙を丸めて棒にしたものを武器として使っていた。

 どうやら俺を後ろから叩こうとしていたな?

「先輩、侮れませんね」

「ちぇ、惜しかったな……あ、そうだ後藤くん、しゅーを知らない?」

「峻先輩ならさっきスミスさんと相打ちしてから何処かに行きましたよ?」

「え! しゅーもう負けちゃったの? 嘘~、しゅーに私を守ってもらおうと思ったのに~!」

 また彼氏一番ですか。でも、人の事言えないな、俺だって姫ちゃんに助けを求めたんだからな。

「あ~あ、しゅーがいないなら面白く無いな、……えい!」

 なんと、自分で自分の紙風船を叩き割ったのだ。

「しゅーを探しに行こうかな、あ、後藤くんこれあげる、頑張ってね!」

 と渡されたものは新聞紙の棒だ。先輩は彼氏の名前を呼びながら走りさって行った。

 と、とにかく、武器をゲットした! 頼りないけど。無いよりはましか。

「さてと、ここから離れて……」

「後藤、逃げるな、逃げるな。わたくしが目の前にいるのだ、遊んでいけ」

「ひぃ! 会長!」

 皆川先輩との話がうるさかったのだろう、ゲーム同好会を叩きのめした会長が、俺に気付いてしまった様だ。これはさすがにヤバい会長は武器が無くても強いんだ!

「さて後藤、出会ってしまったのだからわたくしと戦え!」

「え、遠慮します」

「ふん、却下だ!」

 どうする、会長が睨みジリジリと迫って来る。逃げるか、そう思い後ろを振り向くといつの間にか副会長が立っていた。

 あれ? これって挟み撃ちで絶体絶命?

「ふふん、逃げられるもんか! さぁ、わたくしのために死ぬんだ! 政史!」

 油断した、一瞬で距離を詰められてはがい絞めにされてしまった。嘘だ、俺こんなところで負けてしまうのか?

 もうすぐ会長が到達する、一人も倒して無いんだけどな。

 とその時、副会長が小声で話しかけて来た。

「後藤くん、私とペアを組みませんか? そうすれば助けてあげますよ?」

「え?」

 突然の申し出、副会長は何を考えているんだ?

「ただ、ペアを組む前に私の願いを叶えてください」

「願い?」

「はい、会長を……私の手で倒す、これを手伝っていただきたい」

 なんと、あの会長の犬とまで言っても過言では無い、副会長が会長を倒すだって?

 迫る会長、俺が生き残るためにはどうやらこの条件をのんだ方が良さそうだ。

「わ、分かりました」

「結構、なら彼女が叩くと同時に逃がします、彼女を振り切って逃げてください、後は私が彼女を後ろから叩く、分かりましたか?」

「分かりました……でも、どうして副会長が会長を?」

「おっと、会長が来てしまった、話は後です」

 会長がもう目の前に、理由は分からないが、やるしかない。

「なんだ後藤、政史に話かけていた様だが、おおよそ逃がしてくれと言っていたんだろう? はは、無駄無駄、さて、じゃあな後藤あっけなかったな?」

 会長の手が上がる、もうすぐ作戦開始だ。

「ちょっと待ったーーです!」

 唐突な声と共に会長の後ろから黒髪のポニーテールが現れ、会長目掛け木刀が落ちる。

 それを会長は横に飛び、回避。紙一重で木刀が落下。

「ほう、不意打ちか。やるな柳刃」

「かなめさんを倒すのはボクです! 会長さんだからって手加減出来ません!」

「面白い、貴様の剣とわたくしの拳、どちらが優れているか、試してやる」

 あっと言う間に会長VS姫ちゃんという、非常に見物な戦いが始まろうとしていた。

「邪魔が入りましたね、ふぅ、やれやれ……後藤くん、今の話は無しです、それでは消えてください」

「な!」

 副会長がはがい締めを解き、紙風船を狙って来た。その手には辞書、しかも角っこ、ヤバイもうダメだ。

「殺らせないわ!」

 副会長の後ろから、茶色いのツインテールが現れ、竹刀を振り落とす。

 副会長は咄嗟に辞書の軌道を変え、竹刀を防御、すごい人間技じゃ無いみたいだ。副会長って、もしかして強い?

「顔に見覚えがありますね、確か……ああ、柳刃くんの友人と記憶してますが?」

「誰が柳刃誠十郎と友人よ! あいつは春菜のライバル! とにかく、かなめさまは春菜がお守り通すわ! 副会長、あんたには死んでもらう!」

「……後藤くん、あなた意外にモテますね? 何故です?」

「お、俺に訊かないでください!」

 姫ちゃんと春菜さんが俺を助けに来た? でも二人は戦っていたはず、一体どうしてだ?

「不思議? あたしが説明してあげる」

「わぁ! 坂本さん!」

 いきなり真横に姫ちゃんの親友、坂本鈴さんが立っていた。正直……ビビった。

「あなたが悪いのよ? あの二人があなたのために戦ってたのに、逃げてしまったから追いかけるはめになったのよ」

「ちょっと待った! 坂本さん、あんたが俺を狙うからこうなったんでしょうが!」

「あら? 男のくせに、あたしのせいにする気? 女々しい、と言う訳で……」

 坂本さんがハリセンで俺を狙って来た、皆川先輩から受け継いだ(?)新聞紙の棒で防ぐ。 

「やるね、さすがせいの恋人……でも、あたしはせいと幼馴染み、本当にあなたが彼女にふさわしいか確かめさせてもらうわ後藤かなめ!」

「なら、見せてやる、姫ちゃんに俺がふさわしいってところを!」

 熱い展開に、後から後悔してしまうほどの恥ずかしいセリフを大声で言ってしまった。

 だが、言ったからには見せないとな、俺が彼女を、姫ちゃんを本当に好きだと言うところを。

 坂本さん目掛けて走る。確実に縮んで行く距離、向こうも俺を迎え撃つべくハリセンを構え、振り下ろす。それを受けようと新聞紙を突き出すが、ここである出来事が起きる。

 足がもつれてた。

 今朝から走りっ放しで足が疲れたのだろう。ヤバイと思ったが奇跡が起きていた。

「あ! うそ!」

 倒れた拍子に新聞紙がハリセンを握っていた坂本さんの手を打ち抜き、ハリセンを手から離させたんだ。

 ハリセンが宙を舞い、ちょうど良く開いていた窓から外へと落ちた。

「まさか、これを狙ってたの? 倒れたふりをして、あたしを油断させ武器を狙うだなんて……ふふ、完敗よ、直接紙風船を狙わないなんて、あなた優しいところもあるのね。いいわ、合格、せいを頼むね、親友からのお願い」

 あれ? 俺、ただ足がもつれただけなんだけどな。ラッキーなハプニングで認められるって……少し納得いかないな。

「あたしは生き残ったけど、とどめはささないの?」

「えっと、それは……」

「ふ~ん、その優しさ、命取りにならない事を願うわ」

 と言って走りさっていった。納得いかないまま、とんとんと物事が進んで行ったから俺はポカンとするしかなかった。

 そうだ、姫ちゃん達はどうしてるんだ?

 姫ちゃんと川上さんは背中を合わせに共闘していた。

 姫ちゃんの前には会長、川上さんの前には副会長だ。

「まさか副会長と戦ってたら会長も春菜を狙って来るなんて……柳刃誠十郎! この共闘はあくまで一時的なものなんだからね! 二人を倒したら次は……」

「はい、分かってますよ春菜さん、二人は強いです、油断しないでください」

「誰に言ってるのよ! 春菜は油断なんかしないわ! 柳刃誠十郎、あんたこそ油断しないでちょうだいよ!」

 何故か知らないが、この戦いは学校一番見物な名勝負になりそうだった。

 対する会長、副会長ペアは二人を睨む。

「共闘したか、面白い。そんな事でわたくしに勝てると思っているのか? 行くぞ?」

 会長の目が鋭くなった、これは仕掛ける気だ。副会長も無表情だが、あれは殺る気だ。

 先に動いたのは会長、宝条院聖羅だ。素早く姫ちゃんに接近、対する姫ちゃんも木刀で応戦、剣道の構えを崩して木刀を下に構え、振り上げる。

 それを会長は紙一重で捻り避ける。だが、姫ちゃんには避ける事は分かっていたらしい、身体を回転させ木刀を円を描くように遠心力を利用して再度回転を味方につけた攻撃が下から放たれた。

「やるな」

 そう会長がつぶやきながら、両手で木刀を掴んだ。透かさず蹴りを向かわせた。木刀を封じられ咄嗟に手を放して両腕で蹴りを受け止め吹き飛ぶ。

「あぅ!」

「ち、反射神経が良い……だが、木刀はもう無いぞ!」

 会長が追撃、どうする武器はもうない、絶体絶命だ。

「姫ちゃん!」

「叫んでも無駄だ後藤、わたくしに勝とうなんて、十年と半年足りなかっただけの話だ!」

 急接近し、会長の拳が紙風船目掛け放たれる。

「……ボクを、舐めないでください!」

 放たれた拳を姫ちゃんは掴み、そのまま姿勢を低く、くるりと後を向き会長を背負う様な形になる。力が流れる方向に腕を引っ張る。

 綺麗な動作、これは柔道の背負い投げ。そのまま会長は空中へと飛ばされる。

「がぁ! くぅ!」

 床に落ちそうになった瞬間に受け身をし、素早く立ち直す。

「ほぅ、やるな柳刃、まさか柔道で来るとは予想外だ、剣道だけじゃ無かったんだな」

「剣士たるもの、もし剣を奪われた場合を想定しているのは当たり前です。そうなった時のためにボクは柔道も習いました。すごいです、初めて使いました……やっぱり会長さんは強いです」

「はは! わたくしは今すごく楽しい、こんな強敵と戦えるとはな!」

 レベルが違い過ぎる。これはもう達人同士の戦いそのものだ。

 手に汗握る光景の横に、もう一つの激戦が始まろうとしていた。それは川上春菜さんと副会長の戦い。

「さてと副会長、春菜のかなめさまを痛ぶったお礼をしてあげるわ! 覚悟して!」

「後藤くんは大人気ですね、川上くんと言ったね? 彼のどこが好きになったんです?」

「え? ……実は春菜にも分からないわよ。でも、一目見た時に、身体を電撃が走ったわ、この人なら春菜のすべてをあげても良いって、そう思えた……一目惚れよ!」

「でも、後藤くんには柳刃くんがいますよ?」

「関係ないんだから! 柳刃誠十郎からかなめさまを奪い取っちゃう! 春菜は決心したのよ! だから負けられないわあなたにも柳刃誠十郎にも!」

 川上さんが突然行動を開始。竹刀を手に副会長に突撃、竹刀を横に構え、脇腹を狙う胴を発動。

 副会長はスルリと避ける。川上さんは竹刀の軌道を真上まで持って来ると、そのまま落とす。これは面だ。

 だが、躱された。副会長は後に飛び、攻撃範囲から脱出したのだ。

「ふぅ、今のは危なかったですね」

「あんた、ただ者じゃ無い様ね? この動き素人じゃ無いわ。あなた、何者!」

「私は生徒会の副会長ですよ、それ以上でも、それ以下でもありません」

 みんな今日は熱いな、まさに燃えている。

 だだ、俺だけ何もしてないな。逃げて、助けられて、偶然勝てただけ、自分で勝利を掴んで無い。

「ちくしょう、惨めだな俺」

 悔やむ俺の眼に映り込んできた、何かが猛スピードで通り過ぎた。一体なんだ?

「な、なんだ?」

 廊下奥に見知った顔が。野球のユニホームを身に纏った親友、上原太一がいた。その手には野球のバットを握り締めている。どうやら目の前を通り過ぎたのは野球ボールだった様だ。

「た、太一! お前、まさかそのバットで戦う気か? 下手したら死人が出るぞ!」

「安心しろ、これはプラスチックのバットだ。だから安心してここで散ってくれ!」

 太一が突撃を開始する、やってやる、俺は自分の手で勝利を得るんだ!

 俺も太一目掛けて走る。新聞紙を握り締めて。

「恨むなよ、かなめ!」

「それは俺のセリフだぁ!」

 太一がプラスチックバットをフルスイング、左横から迫り来るバット、躱すんだ、やれるさ、頑張れ俺。

 咄嗟に腕を突き出す。そこにバットが当たり、痛みを感じる。さすが野球部、プラスチックバットでも鋭い振りで痛さが尋常では無い。

 だが、目の前に紙風船がある、行け、新聞紙!

 紙が破れ、空に舞う。

「な! 殺られただと!」

「やった、太一、俺の勝ちだ!」

 ようやく一人倒した。太一からメモを取り、姫ちゃん達の方を観戦、何ともハイレベルな戦いがまだ続いていた。

 戦っている人達には悪いがここは逃げさせてもらう。



 それから学校中を逃げたり、数人倒したりとなんと最後まで生き残った。自分でも信じられないが。

 時間が過ぎてもうすぐバトルロワイヤルが終わる時間が訪れようとしていた。

「後三十分、このまま逃げ切れば勝てる」

 とその時、放送が学校中に流れ出す。

『柳刃の奴、さすがに強かったな、まだ決着が……』

『会長さん、放送入ってますよ』

『なに! ゴホン、みんな生き残っているか? 最後の三十分、全員体育館に集まれ! これは絶対だ! そこで時間まで死闘を尽くせ! その方が面白い、急遽ルール変更だ、みんなすぐに体育館へ急げ! 来なければ失格だからな!』

 会長め、また気紛れでルールを変えるなんて。

 体育館に生き残って来た奴等が全員集まる? 俺、生き残れるかな?

 とにかく急いで行かなければ。誰にも会わない様に隠れながら進み、体育館へとやって来た。

 中はすごく広い、全校生徒は600人、それ全部が入ってもまだ余裕がある。

 体育館に入ると争う生徒や逃げ惑う生徒、なんとも危険な空間だった。緊張の中、いきなり声を掛けられた。

「かなめさま!」

「わぁ! か、川上さん、生き残ってたんだね」

「はい! 副会長はなかなか強かったですけど、春菜の敵じゃないです!」

「昼休みになって一時的に休戦になったから助かっただけでしょ?」

 春菜さんの後ろから坂本さんが現れた。この人も生きていたのか。

「坂本さん、生きてたんだね」

「あら? 生きてたらいけなかったかな? ま、あなたのおかげで生き残ってるけど、手加減しないわ」

「鈴! かなめさまになんて口を! 許さないわよ!」

 バトル勃発かと思った時だ、俺の彼女、姫ちゃんが猛スピードで走って来る。

「やっと見つけました! かなめさん、もう逃がしませんよ!」

「や、やばい」

「後藤かなめ、逃げた方がいいよ?」

 坂本さんに言われて、逃げる決意をする。また走るのか、だが後三十分、持久走になるかな。

 川上さんと姫ちゃんが戦い始める。逃げずに済んだ? いや、他の生徒達が襲って来る。

「柳刃を奪いやがったな!」

「貴様なんかに柳刃さんが!」

 なんだ? 姫ちゃんを俺が奪った? 坂本さんが大声をあげて説明してくれた。

「せいはね、一年で一番可愛いって噂されていて、目をつけていた男が結構いるから、死なない様にね!」

 そっか、やっぱり姫ちゃんは可愛いか! そう聞かされると嬉しいけど、今はそれどころじゃないな。

 後ろをちらりと見ると、鬼だ、奴等は鬼の様に睨んで襲って来る。怖い、なんだよこれ!

「た、助けて!」

「あはは、間抜けだな、かなめちゃんよ」

 この声は、俺が嫌いなあいつだ。

「霧島! お前も生き残ってたのか!」

 金髪のツンツン頭、俺の大嫌いな奴、霧島零がそこにいた。

「け、こんなくだらない事を考えるお前達の会長、暇人だな、こんなのして何が楽しんだか」

「そう言ってるがお前ちゃんと参加してるじゃないか! なんだその頭の紙風船は!」

「ち、うるさいんだよ! 暇だからやってるだけだ!」

 霧島が叫んだ瞬間だ、奴は懐から何かを取り出す。それは真っ黒な物体、片手に持って俺を追っかけて来てる奴にそれを使う。

 パンと音が鳴る、すると追っかけて来てた生徒達の紙風船に穴が開く、霧島が持っていたのはエアガンだ。

「勘違いするなよかなめちゃんよ、命令出来る奴を増やしたかっただけだ、さて、次はお前だ!」

 牙をむいて来た霧島、どうする? 手元には新聞紙の棒と学校中を走り回って見つけた、もう一つの新聞紙、つまり今の装備は新聞紙の棒二刀流。

 どうして俺の武器は新聞紙なんだ、学校中武器になりそうな物を探したのに見つけたのは新聞紙だけ。

「ひざまずけ! 命乞いして見ろよ、かなめちゃんよ!」

「断る! 俺は戦う、お前を倒す!」

「け、熱血野郎が!」

 容赦無くエアガンの銃口が俺を捉える、そして放たれた突き進む。

 銃口を向けられた時に、横に飛んで弾を避けた。

 このままじゃやばい、何か手は無いか?

「おらおら、惨めに逃げろやこら!」

「くっ」

 仕方ない、逃げてばかりじゃ勝てない。こちらから攻撃を仕掛ける。

 だがどうする? 何か良い手は……。

「そうだ」

 ある手を考え付く、だがこれは賭けだ。失敗したら終わり、だが今の状況を打開するためには動かないと。

 行くぞ、あいつだけには負けたくない。

 霧島目掛けて力一杯走り出す。対する霧島はエアガンを構え、放とうとしていた。

 俺は新聞紙の棒一つを元の形に戻し、空中にばらまいた。

「な!」

 新聞紙が舞い、中身がヒラヒラとばらけて俺の姿を隠す。新聞紙がエアガンの標的を曇らせたんだ。

 それが最大のチャンス、ひるんだ霧島へと駆け寄り奴の紙風船を叩き割った!

「やった、やったぞ!」

「な、何だと! こんな奴に、こんな奴に!」

 霧島零を倒したんだ。

「さ、メモを渡せよ」

「ちっ、ちくしょうが!」

 こいつは不良なのに、すんなりとメモを渡してくれた。意外に素直だな。

 そうだ、こうしてられない、また誰かに襲われたらヤバイ、逃げないと。

 そう思った時だ、誰かが俺の肩をチョンチョンと突っ突いて来た。振り替えると、そこにいたのは。

「か、な、め、さん! ようやくこの時が来ましたね?」

「姫ちゃん! まさか、川上さんを倒したのか!」

「はい、ちょっと大変でしたけど、春菜さんはボクが倒しちゃいました」

「ちょっと大変でしただとぉ! 春菜とはほんの僅かな差じゃないのよ!」

 川上さんがそう叫んでいるが、姫ちゃんには耳に入ってない様子。木刀を握り締めながらジリジリと俺に詰め寄って来る。

「かなめさん、戦って下さい、ボク手加減しませんから!」

「姫ちゃん、出来れば手加減……する訳ないよな?」

「当たり前です! さ、行きますよ」

 これは本当にヤバイ、彼女が近付いて度に後ずさる。そうしているうちに背中にヒンヤリとした感触と固さを感じる。そこは壁、逃げられない。くそ、戦うしかないのか? 新聞紙を構えた瞬間、木刀を振られ新聞紙を吹っ飛ばされた。

「これで武器は無いですね? かなめさんを倒してなんでも命令が出来るんですよね? 何にしましょう、かなめさんの女装をもう一度見るのも一興ですね」

「却下、それだけは却下だぁ!」

 女装だと? またあんな目に合うのはごめんだ。何か手は無いか?

 周りを見ても役立ちそうな物は無い。目に写るのは、戦っている生徒達だけ。

「それじゃ覚悟です、かなめさん!」

「待って! 待ってくれ! えっと……姫ちゃん、やっぱり可愛いよね!」

「あぅ、ボ、ボクが可愛いですか? あの、その、嬉しいです」

 顔を真っ赤にして顔がニヤけてる。今だ! 全力で走り出す。 

「ああ! かなめさん!」

「悪い、でも、今言ったのは本当だからな!」

 とにかく、これで助かった。

 と、思ったのに。

 紙風船がパンと音を放って割れた。

 そんな、今までの苦労が水の泡。一体誰がこんな事を?

 後ろを振り替える、そこにいたのは……。

「あの時言ったはずよ、その優しさが命取りになるって」

 坂本鈴さんだった。彼女に殺られたんだ。まさかここで終わるなんて。

「あなた、なかなか足が早かったわね、でもあたしの方が早い、あたし陸上部だもの」

「あ、あああ! 鈴ちゃん! だ、駄目です! ボクがかなめさんを倒すはずだったのにです!」

「う~ん、そうだせい、良い考えがあるわ、ちょっと来て」

 駆け寄って来る姫ちゃん、無防備な彼女の紙風船を鈴さんは叩き割った。

「ひゃん! あ! 酷いです鈴ちゃん!」

「これは戦いよ? 人を騙すのも戦法、さ、メモを渡しなさい」

 俺達は渋々メモを渡す。この人、何を命令する気なんだろう。

「そう言えば負けた人が勝ち取って来たメモはどうなるのかしら? ちゃんとルールを練ってから始めてもらいたかったわ、二人共取りあえず今までのメモちょうだい」

 全部渡すと、坂本さんはすごいスピードで走りさって行った。負けたのか、俺達。

「時間まで隅っこに座ろうか」

「ふぐ~、そうですね」

 元気無く体育館の隅っこへと歩き座る。肩を並べて。

 生徒達は死闘を繰り広げたり、逃げ回っていたりと忙しい。

「あ~あ、かなめさんの女装をもう一度見たかったんですけど」

「……まさかとは思うが、本当はその理由で俺を倒そうとしてたんじゃないか?」

「あぅぅ、な、なんの事でしょうか? ボ、ボクには分かりませんです、はい!」

 図星だなこりゃ。はぁ、何であの時女装姿を姫ちゃんに見られたんだろうな。原因は会長だけど。

「かなめさん、もしボクに命令をするのなら何をお願いしましたか?」

「え? んーー、考えて無かったな、ゲームに夢中になっていたし。それに姫ちゃんに勝てるなんて思いも寄らなかったから」

 もし、俺が彼女に命令出来るなら、何を願うだろうか?

 命令じゃ無くて、願いならずっと姫ちゃんと一緒にいられる事を願う。

 恥ずかしい事を考えたかな? でも、この気持ちはずっと変わらないと思う。

「秘密だ」

「わ、かなめさんは意地悪です!」

 そんな感じに話をしながら時間は流れて、もうすぐバトルロワイヤルが終わろとしていた。

 目茶苦茶だったけど、楽しい時間を過ごせたな、会長に、そこだけ感謝だ。後5分くらいで終わる、すると俺達を目掛けて近付いて来る影が二つ、会長と副会長だ。

「あははは、なんだ殺られたのか、後藤なら分かるが柳刃まで殺られるとは予想外だ」

「俺は分かるって、どう言う事ですか!」

「怒るな、本当の事だろ? もうすぐ終わるな、見ろこれを!」

 会長はスカートのポケットから束になったメモを見せつけて来た。分厚い、さすが会長、やるな。

「どうだ、わたくしの実力を持ってすればこんなものだ!」

 豪快に笑って自慢している最中、副会長が予想外の事をしでかした。

 会長の後ろに立っていた副会長は、会長の頭を叩き、紙風船を壊したんだ。

「……え?」

 会長が間抜けな声を出す。今の出来事が理解出来なくて、呆けてしまったっていた。

「「ああ!」」

 俺と姫ちゃんも同時に驚いていた。確かに俺と共闘して倒そうと言って来たけどなんでこんな事を?

「な、ななな、ま、政史! 何をするんだ!」

 叫んぶと学校のチャイムが鳴り響きクラスマッチが終わったと告げる。

「答えろ政史! その答えによってはいくら政史でも許さないぞ!」

「会長……いや聖羅、命令を今使います。今度の休み私とデートをして下さい」

「デートだと? ……わ、わたくしが政史と、デ、デート!」

 そうか、副会長はこれを狙っていたんだ、会長をデートに誘うために倒したかったんだ。

「聖羅、いつも私がデートに誘うと必ず照れて断ります、いい加減、私も我慢の限界です。これは命令、必ずしなければいけない……違いますか?」

「う……確かにそうだが、ま、政史とデートだと? わたくしがこいつとデート……」

 会長の顔が真っ赤だ、恥ずかしいのと嬉しいのが交ざって、あんなに真っ赤なのかな? 

「……し、仕方の無い奴だ、わ、わ、わたくしが政史のために、デートしてやろう、ふ、ふん、ああ、有り難く思え!」

「はい、有り難く思いますよ」

 動揺しながら会長はそれを了承、今の会長可愛らしいな。

「終わったな、クラスマッチ」

「はい……でも、鈴ちゃんはボク達に何を命令するんでしょうか?」

 そうだった、坂本さんは俺や姫ちゃんに何を命令するか心配だ。

「あら、気になる?」

 いつの間にか俺達の側に立っていた坂本さん、恐る恐る振り替えるとなんとも言えない嫌らしい笑いを浮かべていた。この人忍者か何かか?

「後藤かなめ、あなたは女装してもらおうかしら」

「な、なんだとぉーー!」

 あ、悪夢だ、悪夢。また女装しろって言うのか? ちくしょう、あんまりだ!

「それから、ん~、せいはね……」

 坂本さんは姫ちゃんに耳打ちをしている。何を言ってるんだ?

 姫ちゃんの顔がドンドン赤くなってるのは何故だ。

「ひゃあ! ボ、ボクがそんな事をですか!」

「ふ、ふ、ふ、そうよ、さ、ここでやりなさい。これは命令よ?」

「う~……」

 一体何を言ったんだ?

 しばらく顔を真っ赤にさせて何故か俺を睨み、近付いて来る。

「姫ちゃん?」

「か、かなめさん、ごめんなさい!」

 次の瞬間、世界がぐるりと回る。気が付くと地面に仰向けで寝ていた、どうやら姫ちゃんに優しく倒されたらしい。

 だが、次の行動で頭が真っ白になってしまった。姫ちゃんは俺の上に馬乗りなったんだ。

「な! ななな!」

「かなめさん、ごめんなさいです、これからやる事を、じっと我慢して動かないで下さい!」

「じゃ、やりなさい、せい!」

「う~、分かりました……後藤かなめ! お前はオレのものだ、だから全てを奪うぜ?」

 姫ちゃんが男口調で、自分をオレって言ったぞ? でも、その姿が可愛らしく思えた。

 と思っていると姫ちゃんの顔が俺の顔に近付いて来る。

「ひ、姫ちゃん?!」

「う、うるさいんだよ! かなめはボク……オレのものなんだ、何をしようと良いじゃねーーか!」

 く、唇が近付いて来る、姫ちゃんの良い匂いと共に。やばい、胸が激しく鼓動する、もうすぐ唇と唇が一つになる……。

「はい、ストップ」

「はぅ、は、恥ずかしかったです!」

「……へ?」

 そのまま唇が一つになると思ってたのに、止められた。

「ふふ、せいに言った命令は、男口調で後藤かなめを襲えよ、なかなか良かったわ、せいったら良い演技」

「うう、もうこんなのやりたくないです!」

「あら? 残念だったわね、チュー出来なくて!」

 ちくしょう、遊びやがって。こうして長い一日が終わった。

 俺の命令は後日行われるらしい。

 最後のは残念だったが、取りあえず終わった。騒がしく生徒達が健闘をたたえ合っている光景を見つめながら、溜め息を一つ。


 

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