第十話 花火だ、夏祭りだ、血祭りだ?
空高く上る太陽が頂点に辿り着く頃、昼飯を終えた俺は自分の部屋で漫画を読んでいた。ベッドに転がり、早く夕方にならないかとわくわくしながら時間を潰していた。
昨日の事、生徒会の関係で学校にいた俺は姫ちゃんに明日ある夏祭りに一緒に行かないかと勇気を出して誘った。すると、すんなり了承、楽しみですと笑う彼女の顔が目に焼き付いて離れない。夕方町にある犬の銅像の前に五時に集合しようと言ってある。
「まだ時間にならないな、マジで楽しみだ!」
浮かれ気分爆発、だってつまり祭りを理由にデート出来るって事だろ? 嬉しいじゃないか!
早く時間にならないかな、二人っきりで祭りを回るんだ、良い響きだな二人っきりって。
「何、一人でニヤニヤしてるの? キモいよ兄さん」
「うわぁ! な、なんだめいか、脅かすなよ……いつからいた?」
「祭りを理由にデートって、妄想を口走っているところから」
穴があったら入りたい。
「兄さん今日デートなの? 誰と? 教えてよ! 大丈夫この秘密は兄さんとあたしだけの物だよ!」
「……お前、誰かに喋る気満々だろう?」
「失敬な! あたしは喋らない! ……勝手に口が動くだけ~」
結局喋るって事じゃないかちくしょう、まさかめいに弱みを握られるとは不覚だ!
「めい、あのさ……姉貴にこの事は……」
「今から独り言、あたし~お財布の中が寂しいの~、寂しすぎて口が勝手に何かをぽろりと言っちゃいそう、あ~あ、どうしよう困ったな~、お財布の中が寂しいな~」
「……分かったよ、小遣いをやるよ」
「え! 良いの? さっすがあたしの兄さん、優しくて大好き!」
白々しい奴。いつか酷い目に合わせてやるからな、覚悟しとけよめい。
「たくっ……ほらよ」
財布を取り出して中から千円を抜きめいに向ける。だが、その顔は不満の顔。何これって感じの顔。
「はぁ、兄さん今時千円だけなんてあたしをなめないでよ、子供のお小遣いじゃないのよ!」
「お前は子供だろうが!」
「……口から何かが飛び出てきそう、困るよね? なんだか姉さんの前だと良く出そう」
ちくしょう悪徳商法だぞこれ! 仕方ないので五千円を渡すとめいはありがとうと嬉しがっていた。
「兄さん、今日は頑張るのよ? ……で、相手は誰?」
「誰でも良いだろうが、お前には関係ないだろうが」
「どうせ柳刃さんでしょ?」
ドキリとする、なんで分かった? いや待て俺、きっと適度に言っただけだ、きっとそうだ。
「さ、さぁ~どうかな、分からないぜ!」
「隠してもダメだよ? 生徒会の人みんな兄さんが柳刃さんを好きだって知ってるんだよ?」
「なんでみんな知って……いや、何言って……」
やれやれとめいはつぶやきながら、その理由を話出した。
「顔に全部出ているのよ? あの時、聖羅会長の別荘に行った時、兄さん柳刃さんばっかり見てたし、いなくなったって知ってすぐに動いたのも兄さんだし、あとはあたしの直感よ、兄さん柳刃さんが好きなんだな~ってね」
「……そんなに分かりやすいか俺の行動って?」
「一言、……単純! 柳刃さんが気がつかないのは多分鈍感なんだろうね、まぁ頑張れ! あたしは応援していてあげるわ、優しい兄さん」
こいつ楽しむ気だな、俺が四苦八苦する事を楽しみたいんだな。
て、そんな事を思っている場合じゃない。もう家を出る時間だ、さてと行くかな。
町並みは人波で蠢いていた。その中を歩きながらようやく犬の銅像がある場所へとやってくる。
どうしてこんなところにあるのかは知らないが、よく待ち合わせに使われているらしい。
「ん~、早く来すぎたかな?」
携帯を見ると五時までだいぶ時間があるな、ぼーっと町並みを見つめる、仲良く手をつないで歩く親子や、カップルなどいろんな人が通り過ぎて行く。
その波の中から一人こちらに近付く人がいた、姫ちゃんではない、多分この犬の銅像で待ち合わせをするんだろうな。その人は犬の銅像までやってくると、誰かを探す仕草を垣間見せた、やはり待ち合わせみたいだな。
短髪の銀色の髪、鋭い目、ややとがった耳、そしてかなりの美人だ、どうやら日本人じゃないな。首にドクロの首飾りをしている。どこかで見た様な気がするけど、分からないな。
それからしばらくして見知ったを顔を発見した、それは皆川先輩だ。真っ直ぐこっちに近付いてくる。そして隣りの女性に話しかけた。
「ごめんね、遅くなっちゃったよ」
「遅いぞ皆川、オレを待たせるなんて良い度胸だ!」
なんと銀髪の女性と皆川先輩は知り合いみたいだ。驚きながら見つめていると先輩が俺に気がつく。
「あれ? 後藤くんじゃない偶然だね、こんなところで何をしているの?」
「姫ちゃんと祭りに行こうって約束したんですよ。で、今待ち合わせ中です……あの、お知り合いの方なんですか?」
「ん? ああ、彼女の事ね、こちらはスミスちゃん、えっと……留学生なの、私が一年の時に知り合ってね、今では友達」
スミスさんか、意外な友達がいるんだな先輩。スミスさんは俺を見るなり、睨んで来た。その目付きが怖い。
「皆川、こいつは誰だ?」
「えっとね、お友達よ、仲良くしてあげてね」
「そうか、皆川がそう言うならそうするか。おい、オレの名はスミスだ、よろしくな」
よろしくと返すと右手を差し出して来た、握手を求めているみたいだからそれに従う、だが彼女の握力がはんぱなく強かった。痛い。
「それにしても後藤くんもやる様になったね、柳刃さんをデートに誘うなんて」
「デートって、そんな大袈裟な……それより二人はどこかへ行くんですか?」
「私達もお祭に行くところなの、でも残念なのはしゅーが用事で来れないって……残念だな~」
先輩が肩を落とす、そんな様子の先輩をスミスさんは元気付けようとしていた。
「元気を出せ皆川、今日は佐波はいないが、オレがいるだろうが」
「スミスちゃん……そうだね、今日はいっぱい遊ぼう」
「おう!」
微笑ましい風景だな、暫く話をしているとようやく姫ちゃんが姿を現した。
だが、いつもと様子が違う、今日はポニーテールでは無くそのままのストレートの髪で来たからだ。
「お待たせしました、遅れてごめんなさいです、かなめさん」
「全然! 俺も今来たところだから……聞いても言い? 髪型がいつもと違うね」
「これですか? 気分転換です、どうですか?」
「に、似合ってるよ、本当、似合ってる!」
ストレートの姫ちゃん可愛いな。姫ちゃんはTシャツにジーンズといったラフな格好だった。ちょっとだけ浴衣姿を期待してしまったのを反省する。
祭りには浴衣、安直だったな。
「ありがとうです、……あ、皆川先輩? こんにちはです」
「こんにちは、柳刃さん。これからデートだって?」
「ふぇ? デートですか? ……かなめさん、ボク達はこれからデートをするんですか?」
あたふたする俺、先輩余計な事を言って。さて、どう言ったら良いんだ? 言葉を手繰りよせ思案していると姫ちゃんは固まった。
文字通り固まっていたんだ、姫ちゃんはある一点を見つめている、それはスミスさんへと集束されていた。
どうしたんだ?
「姫ちゃん? どうかしたの?」
「あわわ、あ、あの時のオバケさんです!」
あの時? それってあの旧校舎で出会ったって言うオバケの事なのか? スミスさんがオバケ?
「なんだお前は? オレの顔に何か付いているのか?」
「あ、あの、前にボクと会ってますよね?」
「ん? 知らないぞ? お前とは初めて会うんだがな?」
「あれ? オバケさんじゃ無いんですか? ……ん~、ちゃんと足もありますし、ん~……ごめんなさいです、ボクの気のせいですね」
「一体なんなんだ? お前、名前は?」
「あ、ボクは柳刃誠十郎と言います」
姫ちゃんが名乗るとスミスさんは妙な顔をする、じーっと姫ちゃんの顔を眺め何かを悩んでいるみたいだ。
「お前、女……だよな? 男みたいな名前だな、まさか、男か?」
「ボクは女の子です! 男の子じゃないんです! えっと……」
「ん? オレはスミスだ」
「スミスさんも、男の子みたいなしゃべり方ですよ? だからおあいこです」
一時の間が訪れた、不安が膨大する最中スミスさんは笑い始める、確かにその通りだなと甲高く笑う。どうやら彼女は姫ちゃんの事を気に入ったみたいだ。
「柳刃と言ったな、改めてスミスだ、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします!」
喧嘩にならずにすんだ様だな、良かった。さて、祭りに行こうかな。
「柳刃、俺達と一緒にマツリと言うやつに行くぞ!」
「はい! 大勢で楽しそうです!」
二人っきりで回る予定が早速崩れてしまった。皆川先輩が残念だったね、なんて言ってくる、楽しそうに。ちくしょうめ。
「あははは! 良い展開だね、兄さん」
「あのな、何が良い……って、言うか、めい、なんでお前はここにいるんだよ」
「ん? 細かい事は気にしないの! あたしも付いて行く!」
こいつ後を付けてきやがったな多分、面白い事が起きると思っているんだろう。もしくは何かたくらんでいるんじゃないのか?
不安ばかりが襲うがここまで来て帰れって言うのも可哀相だな、仕方が無い妥協するか。
俺達はこのメンバーで祭りに行くことになった。皆川先輩とスミスさん、姫ちゃんにめい、さて何が起こるのやら。
しばらく歩くと人が多くなっていき祭りのにぎやかな音が聞こえ始める。ようやく祭りの会場の神社が現れ、そこからは良い匂いが漂っている。
露店の食べ物に香り、焼きそば、お好み焼き、りんご飴や、わた飴。他には金魚すくいや射的など、祭りの定番がそこにそろっていた。
「うわぁ~、にぎやかです!」
「おお、これがマツリと言うものか」
姫ちゃんは楽しそうにし、スミスさんは初めての祭りに驚いていた。日本の祭りは初めてなんだよな、なら興奮するのも分かる気がするな。
「兄さん、あたし金魚すくいやりたい!」
「……すればいいだろう?」
「あのね誰がお金を出すのよ」
小遣いやったのに、俺に出せって言うのかよ。まったく、こう言う目的で付いて来たなこいつは。
「金魚すくいですか、良かったらボクがお金を出しましょうか?」
「本当? ありがとう柳刃さん! やっぱり兄さんとは違うわね!」
「それは悪いよ姫ちゃん、仕方ない……俺が出す」
めい、姫ちゃんに本当に感謝しろよな。そんな訳で金魚すくいをやる事になった。
まずはめいがやる事に。
「よ~し、……それ!」
一瞬だった、流れる様な動きで一気に三匹もの金魚を網にすくいあげた。すごい、めいは昔からゲームが得意だ。その腕前はプロ顔負け。
更に取り続け大量の金魚をすくい上げた。どうするんだよこれ、育てるのか? 心配は杞憂となった、めいは金魚全部お店に返していた。
「楽しめたからもういいの、兄さんどう? あたしに勝てるかしら?」
なんとも挑発敵な笑いを浮かべる。俺と勝負したいと言う事なのか? 勝てる気がしないがやってやる、男の意地を見せてやる!
「やってやる! 勝負だめい!」
「さて、兄さんはどこまで出来るのか、見物ね。ま、あたしに勝てるとは思わないけどね」
言いたい放題だな、だが見てろよ。お店のおじちゃんにお金を渡して網を受け取る。さて、まずは品定めだ、どれが取れやすい?
一匹の金魚に狙いを定め、そして網が水中に突入、金魚の下に潜り込み一気に引き上げる。
「あ~あ、それじゃあダメだよ、兄さん」
めいの言う通り見事な穴が発生、金魚は水中に逃れて行く。
「ぐぐぐ……ちくしょう」
「なってないわ兄さん、もう少し考えてよ、そんなんじゃあたしの足元にも届かないわ!」
「かなめさん、ファイトです!」
姫ちゃんの応援で火が付いたぜ、もう一度だ。狙いを定め、網を動かす。
「どりゃあああ!」
咆哮が辺りを包む、俺は空しく穴が開いた網を見つめるだけだった。気合いだけじゃダメなんだな。
「あははは! どりゃあああだって、あははは! 兄さんハズいよ!」
「……あ、穴があったら入りたい」
「面白そうだな、オレもやりたい」
スミスさんが金魚すくいに興味を抱きやってみる事になった。お金を渡し網を貰ってチャレンジ、予想通り取れない。数回試すが、惨敗だった。
「ちくしょう、なんで取れない!」
激怒したスミスさんは怒りを込めた拳を地面へと叩き込む、すると地面に巨大な穴が開く、すごい怪力だ。
「スミスちゃんは怒らせない方がいいからね、みんなに言っとくけど……怒らせたら死ぬだけだよ、本当に」
皆川先輩は恐る恐る教えてくれた。確かにそうかもしれない、あの怪力で殴られたのならひとたまりもないだろう。スミスさんはどうやら金魚すくいをあきらめたみたいだ、しぶしぶ戻って来る。
「なんだこれは、皆川まったく取れなかったぞ! インチキなんじゃないのか?」
「あはは、コツがあるんだよ、これは難しいから別ので遊ぼうよ」
「そうか、そうするか」
どうにか怒りがおさまったらしい、良かった暴れられたら止められないだろうな。さて、次は何をするんだ? と言うかなんとかして姫ちゃんと二人っきりになる方法を考えるぞ。
「ふぇ? かなめさん、ボクの顔に何か付いてますか? 先ほどからじーっと見てるです」
「えっと、な、なんでもないよ、あははは!」
誤魔化した、だがめいの奴が俺をニヤニヤして見詰めていやがった。そんなにおかしいのかよ。
「あれ? あそこにいるのは副会長さんじゃないですか?」
唐突に姫ちゃんが指差す方向を見てみると、副会長、高崎政史がいた。どうやら待ち合わせをしているみたいだ。多分、会長なんだろうけど。
予想通り会長は現れる。その姿を見てみんな驚愕していた。
金色の髪をポニーテールにし、格好はピンク色の花柄が可愛らしい浴衣、いつもとは違う会長、宝条院聖羅が現れみんなが見とれていた。
行き交う人も、振り返って見つめるほど、美人であり更に可愛さを持った女性。
「すまないな政史、遅れてしまった」
「私も今来たところですよ“聖羅”」
副会長が会長を呼び捨てで呼んでいる、初めて聞いたな。二人は俺達に気が付く。
「ん? お前達も来ていたのか、……何だその顔は? この格好が変だったか?」
「違いますよ、会長が、その……可愛らしい格好をしているからみんなびっくりしているだけですよ」
「ほぉ、つまり遠回しにわたくしがいつも可愛らしくないと言っているって事だな? 政史!」
合図と共に副会長が背後に回り込み羽飼締め、動きを塞がれた。分かったぞこの後に起きる惨劇、毎回ワンパターンだな。
会長の手が俺の脇にスルリと入り込み、動き始めた。
「どうだ後藤! わたくしを馬鹿にした罰だ!」
「ぎゃははははははは! やっ、やめ……ぎゃははは! ゆ、許し……ぎゃははは!」
「わぁあ、面白そう、兄さんあたしも手伝ってあげるね?」
めいは俺の靴を脱がし足の裏をくすぐる。ちょっと待て! やめろ! 足の裏は特にダメなんだ! やめろ、やめ……。
「やめろーー!」
俺の声が木霊する。
死んだ、会長の攻撃とめいの援護攻撃で身体はボロボロ、ちくしょう、めいの奴め俺になんの恨みがあるんだ! こうなったら仕返しをしてやる、めい覚悟しろよ。
熱い復讐心を胸の奥にしまって、会長達と祭りを楽しむ事になった。それにしても会長がポニーテール、姫ちゃんはストレート、まるで入れ替わったみたいな感じだな。
どうして髪型を変えたのかを聞くと、気分転換だそうだ。また、姫ちゃんと同じ理由、偶然って不思議だ。
「ん? 後藤、そこにいる銀髪の女性は誰だ?」
「えっと、皆川先輩の友達で、留学生のスミスさんです」
「ほぅ、どれ、挨拶をして来るか」
会長はスミスさんの前へと歩き出る。
「わたくしは宝条院聖羅だ、よろしくな」
「ん? ああ、オレはスミスだ、……宝条院か、なんだか言いにくいな、取りあえずよろしくな」
あれ? 今思ったが、この二人なんだか似てないか? 人を呼ぶ時は名字だし、男口調もそうだが、なんとなく雰囲気が似ている様な気がする。
「大勢で、賑やかになってきましたねかなめさん」
「そ、そうだね」
「あれ? かなめさん元気がないみたいです、もしかしてお祭がつまらないですか?」
姫ちゃんにいらない心配をかけてしまったな、二人っきりになれないからってしょげるなよ俺、またチャンスは巡って来るさ。
いつものメンバーがそろっちゃったからな、仕方ない、みんなで楽しむか。
「なんでもないよ、それより次はどうしようか?」
「えっと、ボク、りんご飴が食べたいです」
りんご飴か、懐かしいな小さい頃食べたことがあっな、久し振りに食べるかな。りんご飴の単語を聞いていたスミスさんは不思議そうに姫ちゃんに質問してくる。
「リンゴアメ? それはうまいのか?」
「はい! 甘くて美味しいですよ!」
「そうか、うまいのか……皆川、オレも食いたい!」
「分かったよ、みんなで食べよう」
りんご飴をみんなで食べる事になり移動し始めた。そう言えば今何人いるんだ?
数えると七人もいるな、二人っきりだと今日はうきうきしていたけど七人もいるのか。おっと、また愚痴っぽくなってしまったな。
みんなを眺めるとスミスさんと会長が仲良しになってるみたいだ、似た者同士だから話が合うのかな?
「あれはなんだ宝条院!」
「ん? あれはわた飴だ、あれも甘くてうまい。スミスは初めての物ばかりみたいだな、日本に来る前はどこに住んでいたんだ?」
「オレがいたのは、じ……あ、違った、アメリカだ!」
「ほぅ、わたくしは小さい頃はフランスに住んでいたんだ」
え? 会長がフランスに住んでいただって? それはマジなのか? ほうけた顔で会長を見つめていると、そんな俺に気が付く会長。
「どうだ後藤、すごいだろう、わたくしはこう見えて帰国子女なんだぞ!」
「……嘘~」
「嘘ではない、五才頃まではフランスで暮らしていた。わたくしの母親がフランス人で、ハーフなんだ。フランス語だってペラペラ喋れるぞ? ふふふ、すごいだろう?」
「ええ、すごいですね」
あの自信、きっと本当だろうな、会長の意外な事が分かり、驚いていたが、まだ何かありそうな気がして来た。
「あれ? あれは……何してるんだろう?」
めい何かを発見したらしい、その視線の先には見覚えのある顔を見つけた。
それはめいの友達の小学生の女子だ。黒髪のショートカットで、眼鏡をかけていておとなしいそうな子だ。
確かにめいとはとても仲がよくて家に遊びに連れて来た事が何度かある。その子は二人の同い年位の女子に取り囲まれていた。まさか、いじめか? めいはすぐにそこまで走って行く。
「あんた達、夢に何してるのよ!」
「あ……めいちゃん」
「大丈夫夢? あんた達、また夢をいじめてるの? いい加減にしろ!」
「また後藤のお節介ね、うるさいのよ、こいつがとろくさいから、もっと早く動けって言ってやってるのよ!」
「そーよ、そーよ!」
この光景前にもあった様な、ああそうか、姫ちゃんと初めて会った日俺もこんな事をしたんだっけ、やっぱり俺の妹だな、こう言ったところは似ている。
「いじめをして恥ずかしくないの? 一人の人間を二人がかりで言わないといけないくらい弱虫なんだね! 恥ずかしい! 穴があったら入れてやりたいわ!」
「何! 言ってくれるわね、後藤!」
「めいちゃん……」
やっぱりめいだな、躊躇わず二人に立ち向かって行くなんて。
「かなめさんの妹さん、かなめさんにそっくりです!」
「まぁ、この部分はね、後は似てないかな」
めいは二人の女の子を言葉で攻めている、その攻撃に二人は怯み、何も言い返せなくなる。
これは、めいの圧勝だな。
そんな事を思っていると一人の男が女の子二人に近付いて来る、何やら怪しい雰囲気になって来たぞ。
「お兄ちゃん! この子がね、私達をいじめるの!」
「なんだと? オイコラ、テメェ、殴られたいのか!」
いじめをしていた女の子の兄貴が来たみたいだ。多分、高校生だろう。嫌な予感がする、俺は急いで止めに入ろうと走り出したが、そのすぐにそれは起こった。
男が、めいを思い切り蹴り飛ばした。
「きゃあ! ……うう」
「馬鹿な餓鬼が」
「めい! 貴様! 妹に何をする!」
奴の胸ぐらを掴み、怒鳴る、めいに視線を合わせるとお腹を押さえて苦しがっている、そんなめいの姿を見ていたら怒りが増幅した。
「お前の妹がいじめをしていたんだ! めいは注意していただけだ! それなのに蹴り飛ばすなんてふざけるな! 妹に手を出す奴は俺が許さない!」
「うう……兄さん……」
「めいちゃん、大丈夫?」
めいの友達、鮎原夢が心配そう駆け寄る、大丈夫と言い捨て立ち上がるが、お腹をまだ押さえている、くそ、ひどい事をしやがって。
「謝れ! めいに謝れ!」
「なんだよこいつ、おい熱血馬鹿、そんな事どうでも良いんだよ、自分の妹を俺は信じてんだよ」
本当ならどれだけ良い言葉で良い兄貴だろうがあれはやり過ぎだ、めいはまだ苦しそうにお腹をさすっている。
なんとしても謝らせてやる、めいは正しい事をしたんだ。
「めいに、あやま……」
「あーウザ、どけ、このアホ!」
視界に映る映像にノイズが走る、その直後、右頬に痛みが発生する。そうか、殴られたのか。
そう思ったすぐ腹に痛みが生まれる、奴は俺の腹に蹴りを食らわせていた。
「ぐっ、がは!」
「あ、ああ……兄さん、兄さん!」
「マジでウザいんだよ、あ~あ、白けた……行くぞ」
女の子二人を連れて離れて行こうとしたその時、会長がそいつの腕を掴んだ。ギロリと睨んで来る男の目に、一切怯む事なく睨み返していた。
「なんだテメェ」
「おい、わたくしは今日は機嫌が大変良かった、だがお前のせいでそれを損ねてしまった……どうしてくれるんだ?」
掴んだ腕を、思い切り握り締め始める。すると男は苦痛に顔を歪めた。会長の握力がすごいらしい、さすが空手をならっていただけの事はあるな。
「は、放しやがれ!」
右ストレートを相手は打つ、だが会長は流れる様に回避する。そして、回し蹴りをヒットさせた。
「ぐっ、ちくしょうが……おい!」
男が誰かを呼ぶと、数人の男達が現れる、どうやら仲間の様だ。なんて卑怯な奴だ女一人に大人数で来るなんて。
「ふん、情けのない男だ、女一人に大勢とはな、男の風上にも置けん」
会長の言葉に男達は苛立ちの表情を表しはじめた。どうやら本当の事を言われて、頭に来たらしい。
でも会長一人でこの人数、大丈夫なのか?
「宝条院! オレが加勢してやる」
楽しそうに指をバキバキと鳴らしながらスミスさんが現れた、すると皆川先輩が短い悲鳴を漏らす。
「や、ヤバいよ、ス、スミスちゃんが本気出したら、もうここは血の色に染まっちゃう!」
先輩の言葉を振り切る様に、会長とスミスさんがタッグを組み、男共に喧嘩を吹っ掛けた。
最初に飛んだのは俺を殴った男だ、文字通り、空中に浮かんでいる。別に空を飛べるという訳ではなく、会長が回し蹴りを顎にヒットさせ、勢いで飛んでいるだけだ後はすぐに落ちる。
「ぐわぁ!」
「ふん、遅い! さぁ、わたくしの実力をかみ締めて逝くが良い!」
「へぇ、宝条院はなかなかやるな、よし、オレも行くぞ」
スミスさんが奴等の男一人の胸ぐらを掴み、持ち上げる。すごい片手で持ち上げるなんて、やはりすごい怪力だ。
あたふたする皆川先輩を余所に、持ち上げた男を投げ飛ばした。すると奴等の群の中に突っ込み、数人が倒れて行く。
「わぁ! ス、スミスちゃん! 手加減して!」
「ん? 皆川、ちゃんと手加減してやってるぞ? あんな奴等ごとき、オレが本気を出すまでもないからな」
あれで本気じゃないだって? なんだか人間じゃないみたいだな。スミスさんが甲高い笑いを生んでいる中、会長は黙々と男共を一掃、奴等は逃げて行った。
「こんな解決で良かったのか?」
「なんだ後藤、せっかくわたくしが助けてやったんだ、有り難く思え」
まぁ、助けてもらったのは本当だ素直にお礼を言うか。
そうだ、めいは大丈夫なのだろうか? 腹を蹴られたんだ、心配だな。
「めい、大丈夫か?」
「……兄さん、……あたしは平気だよ」
元気が無いな、まさか強がっているだけなんじゃないか? 病院に行った方が良いかもしれない。
「やっぱり痛いんじゃないか? 病……」
病院に行こうと言いかけたがめいの異変にようやく気がついた。めいは俺の顔を真っ直ぐに見つめている。
その顔は悲しそうで、悔しそうな顔。目が潤んでいる、様子がおかしい。
「めい? 本当に大丈夫か? おま……」
「う、うるさい! あたしを放って置いてよ!」
めいが突然駆け出した、人込みの中へと飲み込まれる様に走りさって行く、一体どうしたんだ?
「待て、めい!」
「かなめさん追いかけましょう、ボクも探すのを手伝います」
「ありがとう姫ちゃん、……めい、どうしたんだよ」
探しに行こうとした時、会長達も探してくれると言ってくれた。それぞれに別れ探す事にする。
めい、どうしたんだ? いつものお前らしくないじゃないか。
心配の言葉だけが俺を縛っていた。
◇
かなめさんの妹さんはどこに行ったんだろう? ボク、柳刃誠十郎はかなめさんと分かれて探していた。
祭りの会場は人が多くて、人一人を探すのは困難だ。どうしよう危険な目にあってしまっていたら。
しばらく辺りを走り回って探す、同じ様な背格好の娘を見つけるけど、どれも違う。額に汗がにじむ、探し回り気が付くと神社まで来ていた。
辺りを見回すけど居ない。裏側に居るかもしれない、急いで回ってみると、そこでかなめさんの妹さんを発見した。
「良かったです……妹さ……」
呼び掛けようとしたけど彼女は泣いていた。大粒の涙は頬を伝い、彼女の足を濡らす。どう言葉を紡げばいいのさ迷っていると彼女の方がボクに気が付いた。
「あっ! ……ぐすっ、ご、ごめんなさい、迷惑をかけて……ぐす」
「大丈夫ですか? お腹痛いですか?」
「お腹はもう大丈夫……痛くないです」
「それは良かったです……あの、聞いても良いですか? どうして……そんなに悲しいんですか?」
答えたくないなら、答えなくても良いと最後に付け加え、返答を待つ。妹さんは涙をぬぐいながら、話してくれた。
「あたし、自分の誓いを守れなかったから、ちっとも強くなれてなかったから」
「誓い……ですか?」
「自分自身に誓ったんです、強くなろうって、強くなって二度と兄さんを傷つけないって決めたんです……でも、また兄さんを傷つけてしまった」
また、頬を濡らしまた泣き始める、すすり泣く声が痛々しい。
また傷つけた? 一体、何があったんだろう?
「あの、良ければ話してくれませんか? 嫌なら別に良いですけど、でも、他人に話す事で解決する事もありますよ?」
妹さんは考え込んでいた、当たり前だ、赤の他人に話す様な事ではないから。しばらく考え込んで、ようやくボクと視線を絡める。
「……柳刃さん、兄さんの事をどう思いますか?」
「え? えっと、かなめさんはとても優しい人です。間違った事は間違いだと言い切る人、悪を許さない人……だと思っています」
「はい、兄さんはそんな性格だから、いつも損をしてる……あれはあたしがまだ小さい頃、兄さんと近所の公園に遊びに行った時の事、あたしが砂場で遊んでいると三人の多分、小学生の男の子達があたしが邪魔だと蹴り飛ばされた。兄さんはそんなあたしを助けるために三人に向かって行った……結果はやられましたよ。顔に痣が出来ていた、三人は殴り疲れて帰って行ったけどあたしのせいで兄さんは怪我をした」
また涙を流す。悔しさ、それが涙から感じる。
「あたしが弱いから、兄さんが傷つく、だから強くなろうと努力した、兄さんの手を借りなくてもあたしは前に進んで行ける……でも、また傷つけた、あたし……ぐすっ“お兄ちゃん”の事が大好き、小さい時はいつも後ろを付いて回ってた、優しくて、正義感の強いお兄ちゃんが大好き! だから、迷惑をかけない様に強くなろうって決めたのに……うぇ……お兄ちゃんを傷つけちゃった、また、あたしのせいで……」
わんわんと妹さんは涙を流す、大切な人を自分のせいで傷つけてしまった、その罪悪感が妹さんに涙を流させる。
「ぐすっ、……きっと、お兄ちゃんはあたしの事、嫌いになったよ、あたし、嫌われ……」
「かなめさんは、こんな事で、嫌いになったりしませんよ?」
「……え?」
「だって、兄妹じゃないですか、兄が妹を守るのは当たり前です。そんな事で嫌いになるならその人の人間性を疑います。それに大切な人を守るのに後先なんか考えませんよ……少なくともあなたの知っているかなめさんはこんな事で嫌いになる様な小さな男ですか?」
「……違う、お兄ちゃんは、そんな小さな男じゃない」
「そうですよ、……ボクにも二人お姉様がいます。いつも優しくしてくれる、大切な存在です。ある時、今の妹さんの様な事をお姉様に言った事がありました。ボクが弱いから、お姉様に迷惑をかけてしまうと。……でも、お姉様はこう言ったんです、弱いから守るんじゃない、大切だから大好きだから守るんだよって」
嬉しかったなあの時のお姉様の言葉、今でも胸に刻み付けている言葉。
「大好きだから……守る」
「はい、だからもう泣かないでください。かなめさんが知ったら悲しみますよ?」
妹さんは下を向き考え込んでいた。しばらく時間が過ぎて、ようやく顔を上げる。
「……そうですね、ありがとうございました、柳刃さん。何だか話したら少し気が楽になった様な気がします。……お兄ちゃんに迷惑をかけてるなんて考え過ぎかもしれない。でも、やっぱりあたしはお兄ちゃんに迷惑をかけたくない、だから強くなりたい、お兄ちゃんみたいに貫ける信念を持てるくらいに」
ようやく笑ってくれた、妹さんなりに納得してくれた様だ。良かった、少しでも心を軽くしてあげられて。
涙をぬぐい、力強く地面を歩き出す。
「あ、あの、柳刃さん、お兄ちゃ……あ! えっと、に、兄さんには、今の話し……」
ふふ、慌てて言い直してる。
「はい、内緒ですね、分かってます」
「ありがとうございます、じゃ、戻りましょう」
こうして皆の元に戻る事にした。どうして話してくれたんだろう? 気紛れだったのかな? それでも良い、妹さんが元気になってくれて良かった。
ざわつく露店の中を戻る途中、向こうから走って来る人影がいた、それはかなめさんだ。息を切らし、汗を流しながら走って来る。
どれだけ必死に探していたのかが見るだけで分かる。
「はぁ、はぁ、め、めい! 大丈夫か! お腹は大丈夫か! はぁ、はぁ、怪我とかしてないか!」
「……なんとも無い」
「そうか、良かった……馬鹿野郎、心配させやがって、はぁ、はぁ、無事で本当に良かったよ……ありがとう、姫ちゃん、めいを見つけてくれて」
「いえいえです」
かなめさんは妹さんの頭に手を置き撫で始める。本当に良かったと、つぶやきながら撫でていた。
妹さんは下を向き少し頬を赤らめて頭を預けている。
「兄さん、ごめんなさい」
「もういい、無事ならもう良いんだ」
「……兄さん、訊きたい事があるんだけど……兄さんは、その……あたしの事、嫌い?」
「ば~か、変な事を聞くなよ。嫌いなもんかよ、もし嫌いならお前の頭を撫でたりなんかしない」
その言葉を聞いた途端に満面の笑顔を振りまく、可愛い笑顔。でも、すぐに笑顔をやめた。
恥ずかしかったのかな? 素直に喜べば良いのに照れてるんだ。
「さ、さあ、皆のもとに戻るわよ兄さん、早く行くわよ」
「へ? あ、おい! めい! ……一体なんなんだ? 姫ちゃん、めいの事で何か知らない?」
「ふふふ、内緒です! 自分で考えてくださいね!」
困った顔のかなめさん、なんだか面白いな。お兄ちゃんか、そう言えば社会人になった二人のお姉様、元気にしているかな、久し振りに会いたくなったな。
「かなめさん、行きましょう」
「えっと……そうだね」
妹さんを追いかける様に歩き出す。彼女は背を向けているけど、きっとその顔は笑顔のはず。
◆
めいが無事で本当に良かった、生意気な妹だけど、俺の大切な家族だいなくなったら困る。
ようやく皆と合流して祭りを楽しんだ。だが、楽しんではいられない状況になってしまった。
会長がめいを除く女子全員に酒を進めて、皆が酔ってしまったんだ。
「なんて事を……会長、どこからそのお酒を」
「ふははは! ヒック、気にするな! ふははは! あははは!」
そうか、会長が酔うと笑い狂うんだな。ゲラゲラと人の気も知らないで、良く笑ってられるよな。そんな会長を、副会長があたふたしながら相手をしている。
でも不謹慎だが、皆が酔うとどうなるのかちょっと気になる。
「ヒック、ん~、なんだか身体がポカポカ~」
皆川先輩がそうつぶやくと、いきなり服を脱ぎだそうとしていた。ヤバイ! こんな場所で!
「めい! 先輩を止めろ!」
「わ、分かったわ! やめてください!」
「ヤバかったな、まさか脱ごうとするなんて、めいがいてくれて良かった」
「か、な、め、さん!」
呼ばれた方向を向くとそこには姫ちゃんがいた。両頬を真っ赤に染めて、酔っていた。姫ちゃんまで酔うなんて。
「や、やぁ、姫ちゃん」
「かなめさんのエッチ! ボクの身体をジロジロ見て……何を妄想してるんですか? このスケベさん!」
「えええ! ジ、ジロジロなんて見てないよ!」
酔った姫ちゃんはやはりいつもとは違う。そんなギャップに動揺しかない。
「はい、嘘です! ボクを○○○したい様な顔をしてましたし○○○て○○○て○○そうとしてたくせにです! 変態さんです! ボク、おつむに来ちゃいました!」
どこから出したのか分からない木刀を装備した。嫌な予感が。
「ひ、姫ちゃん、落ち着いて……」
「柳刃流剣術、奥義……ヒック、五月雨!」
「待って! 待っ……うぎゃああああ!」
死んだなこりゃ、奥義を受け地面に叩き付けられた。あれ? 全然、痛くないぞ?
直ぐに姫ちゃんを一瞥すると、寝ていた。それも起用に立ったままだ。
「すぅ~……」
「打つ瞬間に寝たんだな……ある意味すごい」
安堵が感じていると、すぐにそれは壊された、スミスさんが酔っていて何故か俺を睨んでいるからだ。
「お前、……オレのわたあめを食ったな、ヒック」
「へ? 食べて無いですよ!」
「ヒック、嘘付くな! お前……殺してやる!」
血の気が引いて行く、スミスさんの怪力が脳裏をかすめ、更に不安が倍増。命の危険が迫っていた。
だから逃げました。
「待てコラ! ……ヒック!」
「なんなんだよ一体!」
「ふははは! 良いぞ~後藤!」
笑い狂う会長、あんたのせいだろうが! そんな事だけを考えて逃げるだけだった。
こうして、楽しい? 祭りが終わっていく。
数時間が経ち、俺は自分の部屋にいた。
あれから大変だった、スミスさんから逃げられたが、逃げられた事が気に食わなかったらしくそこら辺で大暴れ、まさに血祭り状態だった。
そんな彼女を酔いの覚めた皆川先輩が止めた。先輩、怒ると怖いからスミスさんを一発で止めた。すごい。
さて、もう寝るかな、部屋の電気を消そうとした時ドアがノックされる。
開けるとそこにいたのは妹のめいだ、一体どうしたんだ? 良く見ると枕を持っている。
「どうしたんだよ?」
「あ、あのさ……ベッドにジュースこぼしちゃって、眠れなくなったの、だから今日だけ兄さんのベッドに眠りに来た訳よ!」
「……姉貴のベッドが良いんじゃないのか? それか、父さん達とか」
「姉さんは寝相が悪いし、お父さんとお母さんの……邪魔はいけないわよ。……結果的に兄さんになっただけなんだからね! か、勘違いしない事!」
勘違いって? まぁいいか、俺はめいを招入れた。久し振りだな、めいと一緒に寝るのは。
小さい時は、お兄ちゃん、お兄ちゃんなんて言いながら後ろを着いて来たな。
いつ頃だったかなお兄ちゃんから兄さんって言う様になったのは……。
「電気消すぞ?」
「うん」
二人、同じベッドで眠る、何の話も無い、そんな中俺は夢に落ちて行った。
「兄さん、兄さん? ……寝ちゃったか、おやすみなさい、お兄ちゃん」
俺に抱き付きながら頬を赤らめて、めいも夢に向かった。




