睡眠
最善 一時は眼鏡を選択した。
眼鏡と言ってもかける程度で着用とするものではなく、どちらかと言えば
水泳の際に使用するゴーグルに近く、大げさにいえば部分的なガスマスクのようなものである。
何故そんなものを付けるかと言えば、既に常識ともなっている、大気の存在。
ごく最近、その大気中に「睡眠粒子」が発見されたからである。
発見されて以来の研究で、睡眠粒子は読んで字のごとく眠気を誘う物質であることがわかり
(性質が判明してからの名称なので当たり前だが)、発想を逆転させたその結果、
この物質が体内に取り込まれることを免れれば、睡眠欲が無くなることまで判明した。
当然、人の身体には休息が必要不可欠なため、完全に脱することは未だできないわけではあるが、
良くも悪くも睡眠粒子の発見は生活に変化、または進歩を与えていた。細部に至っては省く。
睡眠粒子が発見されることによって、人体研究にも進歩があった。
人によって必要な睡眠時間が違うことは疑いようがないことである。
ただ、その原因が個人差という言葉で済まされるものではなく、睡眠粒子への耐性から来るもの
――だったのだ。
耐性が低ければ睡眠時間が延びる。
耐性が高ければ睡眠時間は短縮できる。
こんな単純な原理に何故今まで気が付かなかったのかと頭を抱えた研究者もいたそうだが、
既に過去の話。
今はいかに睡眠に回していた時間を有効活用するかに羅針盤は向いている。
睡眠粒子を発見したのがきっかけなのか関連性は未だ見受けられていないが、
粒子を発見したのと同時期、極端に睡眠粒子に弱い人間が現れ始めた。
最善 一時もその内の一人である。
耐性の判断基準は、「脳波に最初のθ波が発見されてから六時間後、
60phonの目覚ましで自主的に起床できる」のを一般的だとしている。
それが最善らの場合、θ波が発見されてから最低十四時間が経過しないと自主的には起きられないのだ。
その代わりとでも言うかのように、
普通ではありえない力――能力と呼んだ方が良いかもしれない力を最善らは持っていた。
ある能力を持つ者は社会貢献にその力を使い、またある能力を持つ者は迫害を恐れた。
だが、必然として。
自らの能力を自らのために使う者もいた。
そんな奴らを捉え、「永久睡眠」の刑を執行するのが目的の集団を、
人々は「コールドスリープ」と呼んだ。
最善 一時は集団構成の一因であり一員である。