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「ママ、だ~いすき~!」
「うふふ、ありがとう息吹ちゃん!」
これは、いつ頃のことだっただろうか。
よくは覚えていないけど、お母さんに素直な言葉を叫ぶわたし。
この日は家族三人水入らず。お父さんもわたしたちと一緒に一家団らんのひとときを楽しんでいた。
「むっ、パパのことは嫌いなのか?」
「ううん、パパも、だ~いすき!」
ちょっといじけ気味に不満をつぶやくお父さんにも、素直な思いを伝える。
「はっはっは! 息吹~! パパも大好きだぞ~!」
「きゃははは! パパ、おヒゲがくすぐったい~!」
お父さんはわたしを抱き上げて、ヒゲの生えた頬をすりすりと寄せる。
幸せな、家庭の記憶。
いつまでも壊れることなく、永遠に続くと信じて疑わなかった日々。
だけど、平穏な日常というものは、とっても簡単に崩れ去ってしまうもの。
このときのわたしにはもちろん、そんなことが想像できるはずもなかった――。