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「今日は暖かいですわね~」

「そうだね~」


 わたしとゆりかごさんは、ゆったりと学園の敷地内を歩いていた。

 お散歩ではなく、お昼ご飯を食べに行くところだ。

 軽く汗ばむくらいの陽気の中、爽やかなそよ風がわたしたちを優しく包み込んでくれる。


「今日は、どこへ行きましょうか?」

「う~ん、そうね~……」


 とそこで、いつもの選択肢が頭の中に浮かんできた。



 『レストラン』

 『カフェ』

 『大学の敷地内へ』

 『学園の外へ』



 藤星女学園の敷地内にはレストランとカフェがあるし、大学のほうにも同じようにレストランとカフェがある。

 さらには学校の周辺にもオシャレなお店なんかが数多く存在しているから、毎度毎度、迷ってしまうのだ。

 なお、お弁当を持ってくる人も多いけど、わたしもゆりかごさんも、普段からお弁当持参ではなかった。


 ゆりかごさんの家はお金持ちだから、毎日ちょっと高めのレストランで食べても大丈夫なくらいの昼食代を用意してもらっているらしい。

 一方のわたしは、ゆりかごさんの家ほど余裕があるわけではないというか、立場上あまり迷惑をかけるわけにもいかず、贅沢はできない身分。

 お弁当を作ってもらうのも大変だから、お小遣いをやりくりして昼食代に充てているのが現状だ。


 とりあえず昼食代はもらっているのだけど、最低限必要な金額をしっかりと把握されているため、あまり多くは渡してもらえない。

 ただ、ゆりかごさんも一緒に食べるわけだから、わたしにつき合わせて毎日一番安いカフェで食べるのも悪いだろう。

 だからこそ、お小遣いからも昼食代を捻出することになるのだけど。


 とはいえ、べつにダイエットしているわけではないものの、わたしもゆりかごさんも基本的に少食。

 軽い食事で済ませても全然問題はなかった。

 というわけで、



×『レストラン』

○『カフェ』

×『大学の敷地内へ』

×『学園の外へ』



「今日はまた、カフェにしない?」

「ええ、いいですわよ」


 わたしの決断に、ゆりかごさんも素直に頷いてくれた。


 選択肢が視えるというのは、わたしにとって、ものすごく助かる能力となっている

 昔から優柔不断で、決断したあとでもうじうじと悩んでしまいがちな性格だから。


 でも選択肢が視えたときって、どうしてもその視えた選択肢に縛られてしまうため、他の解決策を考える余裕がなくなってしまうといった弊害もあるのだけど……。



 ☆☆☆☆☆



 わたしたちはカフェへと入り、サンドイッチセットを注文した。


 サンドイッチと飲み物とデザートのセット。

 量は少なめだけど、サンドイッチの中身を豊富な種類から好きなように選べるため、人気のメニューだったりする。

 タマゴは外せないとして、ツナやハムといった定番もあれば、サラダ系の軽いものやカツやコロッケなどのボリューム満天なものもある。

 フルーツ入りホイップクリームなんかも人気で、わたしもお気に入りだった。


 中身としてタマゴ、ポテトサラダ、フルーツホイップをわたしが選ぶと、ゆりかごさんも同じものを選び、席に着く。

 向かい合わせの席に座ったわたしたちが、お喋りしながらの軽い昼食に舌鼓を打っていた、そのとき。

 不意にカフェの外が騒がしくなった。


「あら? どうしたのでしょうか?」


 窓から外に目を移すと、女子生徒たちが一定の方向を指差して、普段はあまり出さないような大きな声を上げていた。


「レストランが火事ですわっ!」

「まぁ、大変。怖いですわねぇ~」


 いまいち緊迫感が足りないお嬢様たちの声に、わたしたちも視線をさらに移動させると、確かにレストランの方向からだろうか、もくもくと煙が立ち昇っているのが見えた。

 どうやら火はすでに消し止められたあとで、とくに被害も出てはいないみたいだけど。

 わたしは、ほっと胸を撫で下ろす。


 ……レストランに行ってなくて、よかった~。

 そんなわたしの感想とは裏腹に、ゆりかごさんときたら、


「あら~、レストランのほうに行っておけばよかったですわね~」


 と野次馬根性丸出しでぼやいていた。

 それだけじゃなくて、


「ふぅ……。息吹さんの決断って、やっぱり微妙ですわよね」


 なんて、ため息をつきながら、わたしに非難がましい視線まで向けてくる。


 ちょっと、ひどいよね?

 さっきまではゆりかごさんだって、ここのサンドイッチセットはやっぱり格別ですわ、とか言って満足そうにしていたのに。


 だけどわたしは、


「あははは……。ごめんね、ご期待に添えられなくて……」


 と、沈みがちなつぶやきを返すことしかできなかった。



 ☆☆☆☆☆



「それでは、戻りましょうか」

「ええ……」


 サンドイッチセットを食べ終えて、ゆっくりとくつろいだあと、わたしたちはカフェを出た。

 そして教室へと戻る帰り道でのこと。



 『右』

 『左』



 突然の選択肢。


 ……なによ、これ? どういうこと?

 よくわからず、呆然としてしまうわたしの頭の中に、さらなるイメージが重なる。



 5、4、3……



 数字が視え、それと同時に、カッチ、コッチと、時を刻むような音が……。

 ……え? これって……、もしかしてカウントダウン!?

 と……とにかく、早く決めなきゃ!

 わたしは深く考えず、即座に決断した。



○『右』

×『左』



 素早くわたしは右側に飛び退く。

 すぐ右横を歩いていたゆりかごさんに、思いっきり抱きつくような形になってしまったけど……。

 その直後、わたしが歩いていた場所のすぐ左側辺りになにかが落ちてきて、地面に白いシミを作る。


 それは、鳥のフンだった。


 あ……危なかった~!

 安堵の息をつくわたし……だったのだけど。


「あらあら、息吹さん。大胆ですわね」


 ぽっ、と頬を赤らめながらそんなことを言っているゆりかごさんの瞳は、わたしのすぐ目の前にあって。


「あっ、わわわ、ごめんなさい! でも、そういうのじゃないから……」


 慌てて離れるわたしに、


「ふふふ、そういうのって、どういうのですかしら?」


 なんて、ゆりかごさんは意地悪な笑みを向けてくるのだった。


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