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イノセント・アライブ ~命の選択と荒ぶる息吹~  作者: 沙φ亜竜
第6章 未来はわたしの選択次第
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-6-

「今日は暑いですわね、息吹さん」

「うん、そうね、ゆりかごさん」


 わたしとゆりかごさんは、カフェで昼食を堪能したあと、恒例のお散歩を楽しんでいた。

 先日の一件なんてなかったかのように、平穏無事な学園生活が戻っている。


 すれ違うお嬢様たちの中には、あのとき地べたに転がっていた人の姿も見受けられる。

 そよ風連合だとかいう、そよぎさんたち神様の力で、あんなふうになっていた生徒たち。

 だけど、誰ひとりとしてそのことを記憶している人はいないようだ。


 そりゃまぁ、あんなことを覚えていたら絶対にいろいろと問題になってしまうだろうけど。

 何度考えても、あそこまでする必要はなかったように思うのは、わたしの気のせいだろうか。

 ……もしかしてそよぎさん、退屈しのぎにあんなことをしてたんじゃ……。


 ――…………。


 そよぎさんは答えてくれなかったけど、視線を明後日の方向に送って、必死にごまかしていそうな気が……。

 慣れてきているからなのか、姿までは見えなくとも、なんとなくそよぎさんの様子が感じられるようになっていたりする。

 それに、変な能力を与えられたり、神様の連合だかに強制的に加入させられたり、なんだか普通の女の子からどんどん遠ざかっているように思えなくもない。


 わたしには相変わらず、選択肢が視える。

 とはいえ、とくに変わったわけじゃない。今までどおりなだけだ。

 だいたい選択肢が提示されたとしても、強い意思があれば無視できるってこともわかったし。


 未来には無限の可能性が広がっているのだ。


 一緒に歩くとき、ゆりかごさんは左手でわたしの右手を握る。

 ゆりかごさんの能力もまた、健在だ。

 ……ってことは、わたしは思考を読まれてるってことよね……。


 そう考えるとちょっと恥ずかしいけど、でも、ゆりかごさんならいいか、とも思える。

 だって彼女は、わたしの大切な親友なのだから。


「まぁ、嬉しいことを考えてくれておりますわね」


 ゆりかごさんも喜んでくれたし、ま、これでいいんだよね?

 ぎゅっ。

 わたしはゆりかごさんの手を握り返して、まぶしい日差しの降り注ぐ並木道を歩いていった。



 ゆりかごさんたちの持つ力も、それぞれの神様――そよぎさんとは別の、そよ風連合メンバーである神様から与えられたものなのだという。

 そよぎさんからは、来たるべき神々の連合同士の覇権争いに備え、各自訓練を続けること、なんて言われたけど、いったいどうしたらいいものやら。


 そういえば、神様から与えられた力で先日のあの状況を作り出した、みたいなことを小百合さんは言っていた。

 なんだかひとりだけ、わたしたちとは別格のすごい力を持ってるんだな~と、すべてを聞いたあとにぼーっと考えていたのだけど。

 実は小百合さんは嘘をついていた。


 暗雲が学園全体を包み込んでいたり、学園の生徒たちがおかしくなっていたり、そういった現象は、実際には連合の神様たちの力によるものだったようだ。

 それじゃあ、小百合さんの能力って? と訊いてみたら、ティータイムに誘って敵対心を薄れさせるもの、という答えが返ってきた。


 う~ん……。

 わたしたち四人の能力って、どれもこれも、いまいち戦いに向いていない気がするんだけど、どうなのかな……。


 ゆりかごさんは、十五歳になった日、神様が頭の中に声をかけてきて、能力についての話を聞かされたらしい。

 といっても、そよぎさんの存在とか連合の存在とか神々の覇権争いとか、そこまで説明されてはいなかったみたいだ。

 ただ、与えられた能力のことを聞いていただけ……。

 ゆりかごさんったら、これは面白い力を手に入れましたわ、と思ってほくそえんでいたのだとか。


 それでべたべたとわたしに触れてきたりしていたのね。

 と呆れていたら、ゆりかごさんは「息吹さんのことを大好きな気持ちは本物ですわよ?」なんてのたまう。

 もう、どこまで冗談なのか、よくわからないよ。



 と、そんなことより。


 わたしは今、優季くんと、その……つ、つき合ってます。


 ちょっとまだ恥ずかしさもあるけど、でも、わたしがひと目惚れして、声をかけて、優季くんも気にかけてくれて……っていうお互いの気持ちに、神様の能力とかは一切関係なかった。

 優季くんは、十五歳になった去年から連合のメンバーだったのは確かだけど、先日の一件まで覚醒していなかったんだって。


 わたしと優季くんがいとこだと、あのとき聞いて驚いたけど。

 どうやらわたしだけではなく、優季くんも知らなかったようだ。


 ゆりかごさんの後押しもあり、小百合さんも応援してくれて、今では晴れて、わたしと優季くんは恋人同士ということになっている。

 ……でも、つき合うっていうのがどんな感じなのか、いまいちわからないままなのだけど。

 優季くんと毎日のように会ってはいるものの、お勉強会と称して家に上げてもらう以外、ほとんど挨拶と軽い会話程度なんだもん。


 ま、べつにいいか。これがわたしたちらしいつき合い方、とも言えるわけだし。



 それにしても、神々の覇権争いだとか、変な能力を与えられたりだとか。

 なんだかおかしな状況に巻き込まれてしまったのかも、と思わなくもない。


 だけど……。


 ゆりかごさんがいて、

 優季くんがいて、

 小百合さんがいて、

 うるさいけど、頭の中にそよぎさんがいて、


 ――うるさいは、余計よ!


 ……文句をぶつけてくるそよぎさんは無視しつつ。

 毎日それなりに楽しい日々。

 覇権争いがどうのこうのと言っていたけど、今のところ、とくにこれといって変わったことはない。


 ――均衡が保たれている証よ。


 そよぎさんは、さらりと言う。

 ……そっか。それなら、いいよね。このまま平穏という名の幸せに身を委ねていても。



 天国から見守ってくれているお母さん。

 わたしは今、みんなに囲まれて幸せです。

 だから、安心してね。


 お母さんへの報告の言葉を頭の中で奏でると、不意に温かなそよ風が吹き過ぎていった。

 それに合わせて、選択肢が脳裏に浮かび上がってくる。



 『続く』

 『終わる』



 ……ねぇ、どうするべきだと思う?



○『続く』

×『終わる』



 考えるまでもないよね。

 うん、そう……。

 未来は果てしなく、どこまでも続いていくのだから――。


以上で終了です。お疲れ様でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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宜しくお願い致しますm(_ _)m

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