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イノセント・アライブ ~命の選択と荒ぶる息吹~  作者: 沙φ亜竜
第6章 未来はわたしの選択次第
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 一瞬の迷い。

 悪い癖が出る。

 そんなたった一瞬だけの気の迷いが、わたしの死を決定づける……はずだった。


 でも……。

 目の前で光り輝くこぶしを振り上げたまま、それでも躊躇しているのか、ゆりかごさんと優季くんはぐぐぐ……とその腕を止めていた。


「ふふっ、さすがにお友達を手にかけるのは苦しいようですね~。友情のなせる業かしら?」


 面白い見世物を楽しんでいるかのように、小百合さんは笑みを浮かべる。


「ですが……」


 小百合さんはすぐに笑顔を真剣な表情の裏に引っ込めると、こう言い放った。


「後戻りはできないわよ~? ここで力を止めてしまったら、せっかくわたしが拡張してあげたパワーが暴発してしまうから~」


 にやり。


 さあ、どうするの?

 小百合さんは表情だけで問う。

 暴発したらどうなるのか――それは考えるまでもないだろう。



 『力を跳ね返して、ふたりを吹き飛ばす』

 『観念して、自分が犠牲になる』



 わたしを急かすように、頭の中の選択肢が明滅し始める。


 究極の選択。


 ふたりを殺すか。

 わたしが死ぬか。


 二者択一。

 揺れる心。


 わたしをあざ笑いながら、小百合さんが問いかけてくる。


「息吹さん、さあ、どうするの~? お友達を、手にかけることができる~?」


 …………。


「ふふっ……。できないわよねぇ~? もう、流れに身を任せてはどうかしら~?」


 ………………。


「大切な親友と、大切な恋人……にはまだなっていなかったかしら~? ともかく、そんなふたりに殺されるなら、本望ではなくて~?」


 ……………………。


 わたしは答えない。

 いや、答えられない。

 そんな中、わたしを急かすそよぎさんの声が再び鳴り響いた。


 ――息吹さん、早く……! あたしの力じゃ、もう抑えきれない……!


 苦しそうな声。

 そうか、そよぎさんがふたりを止めてくれていたんだ!

 小百合さんが拡張したというパワーを全力でぶつけてくるふたりを……。

 そよぎさんの声は苦しそうに震え、一刻の猶予もないことを物語っていた。


 ……ありがとう、そよぎさん。考える時間を与えてくれて。

 わたしは決断する。


 もう、迷わない!

 だって、お母さんと約束したんだもん!

 わたしは負けない! 絶対に、勝つ!

 大きくひとつ息を吸い込み、迷いを振りきった力ある言葉を勢いよく吐き出す。


「わたしの答えは……。こうよ!」



×『力を跳ね返して、ふたりを吹き飛ばす』

×『観念して、自分が犠牲になる』



 両方の選択肢を、打ち消す。

 どちらも、選ばない。

 それが、わたしの選択だった。


 ――もう、ダメ……!


 わずかの差で、そよぎさんが力尽きる。

 ゆりかごさんと優季くんの光り輝くこぶしが、残光を従えながら振り下ろされる。

 衝撃は――ない!


 わたしは紙一重のところで、二方向から襲いくる閃光を避け、

 そして、

 嘲笑を張りつけたままの小百合さんへと、飛びかかる!


 今までに感じたことのない、

 最大級の怒りを爆発させながら!


「わたしの大切なお友達を利用するなんて、いくらここまで育ててくれた小百合さんでも許せない! 小百合さん、わたしはあなたを倒します!」


 勝てる公算があったわけじゃない。

 闇雲に突っ込むだけの、稚拙な突撃だった。

 されど、怒りに身を任せたわたしは、どんな分厚い壁さえもぶち破れるほどの勢いに乗っていた。


 追い風の後押しを受け、あたかも龍になったかのごとき早業で、稲妻を背負って一直線。


 これで、終わりよ!

 わたしはそのまま小百合さんに、全身全霊を込めた体当たりをぶちかます。

 よけられるはずがない。そう思っていた。

 実際、小百合さんはよけたりはしなかった。ただ……。


「そう来ると思っていたわ~!」


 小百合さんはいともあっさり、両腕で受け止めたではないか!


 ああっ、わたしのすべてを賭けた一撃が……!


 最後の希望は、絶たれてしまった。

 待っているのは……死?

 だけど、待っていたのはもっと別のものだった。


 ぎゅっ。


 温もりが全身を包む。

 気づくと、小百合さんはわたしを抱きしめていた。


「合格よ、息吹ちゃん」

「え?」


 呆然とするわたしの背中には、さらに別の温もりが加わる。

 さらには肩にも、トンと温かな手のひらが乗せられた。


「あ……あれっ?」


 わけがわからず、キョトンとしているわたし。


 ――ようやく、連合メンバー集結ね。


「うん、やっとだね」

「ふふふ、なかなか楽しい余興でしたわ」

「ふふっ、そうねぇ~」


 そよぎさんの声に、優季くん、ゆりかごさん、小百合さんがそれぞれに答え、笑顔をこぼす。


「え? ええ? ええええっ????」


 小百合さんに抱きしめられ、背中からはゆりかごさんにそっと寄り添われ、肩には優季くんの手のひらが乗せられた状態のわたしは、ただひたすらに疑問符を飛ばしまくることしかできなかった。


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