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「おかあさん……?」
わたしは遠慮がちに声をかける。
だって、お母さんはいつものような明るい笑顔じゃなかったから。
お母さんの頬には、キラキラときらめく雫が伝っていたから。
「うふふ、大丈夫よ、なんでもないわ……」
一生懸命笑顔を形作り、わたしを安心させようとしてくれるけど。それが作り笑いだというのは、幼いわたしにもわかった。
わたしはそっと手を伸ばし、お母さんの頭を撫でる。
そっと……優しく……壊れてしまわないように……。
「……ありがとう、息吹ちゃん」
お母さんは微笑んでくれた。
まだ弱々しくはあったけど、今度は、作り笑いなんかじゃなかった。
だからわたしも、笑顔で応えた。
きゅっ……と。
わたしの頭を抱きかかえるように包み込むお母さん。
ポカポカ陽気のお日様に照らされた、お花畑のような匂い。
心も体も、温まっていく。
そんなわたしに、お母さんは言い聞かせる。
「息吹ちゃん。生きているとね、世間にはわかってもらえない、孤独な戦いになることもあるの」
…………???
お母さんの腕に包まれながらも、首をかしげる。
「でもそんなときには、わたしの顔を思い出してね」
「……うん!」
よくはわからなかったけど、わたしは素直に頷く。
「友人も、家族も、恋人でさえも、敵に回るかもしれない。だけど最後には必ず、もとどおりの仲よしさんに戻れます」
「ん~……? ……よくわからないや」
わからないまま頷くのもよくないと思ってしまったのか、今度はちょっと考えてみたものの、わたしにはやっぱり理解できず、反射的にそう口にしていた。
「うん、そうね。でも、大丈夫」
お母さんはわたしを強く抱きしめる。
そのあとに続けられた言葉を、わたしはつい今しがたまで、すっかり忘れてしまっていた。
「自分の信じる道を往きなさい。そのための力を、あなたは持っているのだから……」