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イノセント・アライブ ~命の選択と荒ぶる息吹~  作者: 沙φ亜竜
第5章 渡り廊下は敵だらけ?
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-5-

 ホコリっぽさだけが残り、静まり返った渡り廊下。


「優季くん……」


 わたしは気が抜けて、ぺたりとその場に座り込む。


 神様に力を与えられた人間と、わたしは戦わなくてはならない。

 それが、そよぎさんから力を与えられたわたしに課せられた使命。

 だけど……だけど……。


「優季くんと戦うなんてこと、できないよ……」


 わたしの苦いつぶやきに、そよぎさんはなにも答えてはくれなかった。

 熱い雫が、心の奥底から湧き上がってくるように感じられた。


 でもそれがこぼれ落ちるより早く。

 わたしは、我に返る。


「そうだ、ゆりかごさん!」


 周囲を見回し、親友の姿を探す。

 さほど大きくはなかった爆発の規模から考えると、ちょっと多すぎるくらいのガレキが、うず高く積み重なっている。

 そのガレキの山の陰辺りに、ホコリまみれになったゆりかごさんの白い腕が微かに見えた。


「ゆりかごさん!」


 呼びかけながら、ゆりかごさんに近づこうとする。

 目の前に立ちはだかるのは、ガレキの山。

 ともあれ、軽い素材ばかりだったのか、ガレキは意外と簡単に払いのけることができた。

 わたしはゆりかごさんの近くあるガレキをすべて払いのけると、彼女の傍らに寄り添った。


「ゆりかごさん、大丈夫!?」

「ええ……大丈夫、ですわ……」


 にっこりと、

 ゆりかごさんは笑顔を返してくれる。


「よかった……」


 ほっと息をつく。

 ぎゅっ。

 ゆりかごさんがわたしの両手を握った。


「ゆりかごさん……」


 そうだよね、いきなり背後から押さえつけられて、さらには頭上からガレキが降り注いできたんだもんね。

 いくら普段は気丈に振舞っているゆりかごさんでも、さすがに怖かったよね。


 ぎゅっ。

 わたしも優しく、ゆりかごさんの両手を握り返す。


 ぐいっ。


「え?」


 ゆりかごさんはそんなわたしの手を引っ張り、そのまま抱き寄せた。


 ぎゅっ。

 今度は手のひらだけでなく、全身に彼女の温もりが伝わってくる。


 ぎゅ~~~~。

 そのまま、なんだか必要以上にわたしを強く抱きしめてくるゆりかごさん。


 そんなに、怖かったのかな……?

 でも……ちょっと、これは……。


「ちょ、ちょっと、ゆりかごさん……」


 痛いくらいに強く抱きしめられ、ところ構わず触れられて、わたしは声を漏らす。

 その声に反応したからか、ゆりかごさんは頭の位置をずらし、じっと、わたしの瞳を見つめてきた。


「どうしたんですの?」


 強く抱きしめ合っていた体勢から、お互いに顔を向き合わせた、今の状況。


「わっ、ゆりかごさん、近い近い!」


 すぐ目と鼻の先に透き通るような肌の綺麗な顔があって、喋るたびにお互いの息遣いが感じられるのは、いくら女の子同士だとはいえ、どぎまぎしてしまう。

 そりゃあ確かに、ゆりかごさんは普段から、なんだかすぐに手を握ってきたり、べたべたくっついてきたりする傾向にはあったけど……。

 いくらなんでも、これは、ちょっと、その……。


 焦りまくるわたしをじっと見据えたまま、ゆりかごさんは微笑んだ。


「ここまで来た目的、お忘れですの? さあ、屋上へ行きましょう」


 言われて初めて思い出す。

 そっか、そうだった。

 優季くんが現れたことで、すっかり忘れていた。


 だけど……。


 さっきの優季くんの行動を目撃していた上、このガレキにまみれた状況の中にいて、なおも落ち着いたまま促してくるなんて……。

 どう考えても、不自然だ。

 なんだか、瞳も虚ろな気がするし……。


 そんなわたしの困惑もお構いなしに、ゆりかごさんはわたしを見つめ続ける。


「ゆりかごさん……?」

「なにを心配なさってますの? 早く行きましょうよ、ねぇ?」


 彼女は背中に回していた腕を離すと、再びぎゅっとわたしの両手を握りしめて、

 そして……、


 にたぁ~。

 不気味に、笑った。



 『一緒に行く』

 『離れる』



 頭に浮かび上がった選択肢。

 わたしは瞬時に決断していた。



×『一緒に行く』

○『離れる』



 どんっ!

 わたしは体をぶつけてゆりかごさんを突き飛ばし、距離を取ろうとする。


「あら、どうなさったのですか?」


 一瞬目を丸くするゆりかごさんだったけど、強く握った両手は離してくれない。

 わたしは彼女から離れることができなかった。


「なんて、白々しいことは、やめますわね。ふふふ、わたくしには全部わかっておりますわ、あなたの考えが」


 ゆりかごさんは、わたしの右手を握りしめている手に、痛いくらいに力を込めた。


「ちょ……っと、痛いよ、ゆりかごさん……!」


 必死に腕を引き抜こうとするわたしをあざ笑うかのように、ゆりかごさんの腕はびくともしない。


「ここまで言っても、まだ気づかないのですか? ……それとも、信じたくないだけなのかしら? ふふふ……」

「うう……」


 うめき声を上げるわたし。

 それが、手の痛みから来ているのか、心の痛みから来ているのか、わたし自身にもわからない。

 ゆりかごさんを信じたい気持ちなのは確かだ。


 でも……。


 さっきから疑問に思っていた。

 全世界規模のウィルスが猛威を振るっている状況らしいのに、ゆりかごさんは、どうして平気なのか……。

 わたしは、そよぎさんという神様から能力を与えられた人間だから、大丈夫だった。

 ということは……。


 言葉にするまでもなく、明らかではあった。

 それでも言葉にすることをためらう。

 そんなわたしにトドメを刺すべく、ゆりかごさんは口を開いた。


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