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イノセント・アライブ ~命の選択と荒ぶる息吹~  作者: 沙φ亜竜
第5章 渡り廊下は敵だらけ?
33/42

-4-

 ――あの笑顔を見てはダメ!


「えっ?」


 そよぎさんの叫び声に、わたしは戸惑いながらも、優季くんから視線を逸らした。


「どういうこと?」


 ――優季くんのあの笑顔は、神から与えられた力なのよ。あなたの選択肢を視る力と、同じようにね。


 淡々と説明するそよぎさん。


 ――見た者の心のすき間に入り込み、深層心理から操る。それが優季くんに与えられた力のようね。


 その言葉に、わたしは気持ちが深海の底へと沈んでいくように感じられた。


 優季くんの笑顔は、神様に与えられた力……。

 見た者の心のすき間に入り込み、操る力……。


 それって、つまり……。


 わたしの想い――優季くんのことが気になっていたあの淡い想いは、その力のせい……だったの……?


 茫然自失の状態ではあったけど、仮にも本人が目の前にいるからか、わたしはどうにかそれを口走ることだけは堪えた。

 ただ、そよぎさんはわたしの心の中にいる存在。わたしの思いはそのまま彼女のもとへと届く。


 ――そうね……そういうことになると思うわ。


 そよぎさんは無情にも、きっぱりとわたしの心を切り裂く結論を突きつけた。

 断定していないのは、わたしを気遣ってのことか、それとも確信までは持てないのか。

 どちらにしても、大した違いはない。


 わたしにとって、残酷な現実だということに……。


 そんなわたしの様子を、優季くんは相変わらず笑顔のまま眺めていた。



 ☆☆☆☆☆



 初めて優季くんを見たあのとき、

 ビビビッと電流が流れたようにすら感じられた。


 お父さんに似ている、そのイメージも相まって、どんどんと気になっていって。

 ゆりかごさんも応援してくれて、最初はアンケートを装って近づいたわけだけど。

 それでも少しずつ仲よくなって。


 ふたりきりではまだ恥ずかしかったから、常にゆりかごさんも一緒だったけど。

 テストの勉強会を、優季くんの家で一緒にやって。


 おつき合いとか、そんなことまではまだ考えられなかったけど、自分の優季くんに対する想いは本物だ。

 そう、思っていた……。


 だけどそれは、神様から与えられた優季くんの力のせいだった……?

 神々の戦いのために進められていた準備の一環で、最初から優季くんはわたしを騙していた……?

 違う言い方をすれば、わたしはもてあそばれていた……?

 そういうことなの……?


 じっと、優季くんを見据える。

 お父さんと似た雰囲気を漂わせる、ちょっと線の細い感じの整った顔立ち。

 微かな笑顔を向けながら、優季くんもこちらに視線を送っている。


 そんなことを言っている場合じゃないけど、見つめ合っているような今の状況……。

 やっぱり、ドキドキする。

 このドキドキすらも、深層心理を操られたことによる、かりそめの気持ちだというの?


 無駄な抵抗かもしれないけど、わたしはうじうじと考え続けていた。

 頭の中に、選択肢が浮かび上がる。



 『かりそめの気持ちを振り払い、優季くんと戦う』

 『違う、あれは本当の気持ちだった!』



 わたしは迷うことなく、瞬時に片方を選ぶ。



×『かりそめの気持ちを振り払い、優季くんと戦う』

○『違う、あれは本当の気持ちだった!』



 わたしの気持ちは本物だった。

 そう信じたいだけ、というのもあったかもしれない。

 でも、迷いはない。

 だから……。


 優季くんと戦うことなんて、できない!

 わたしは声を限りに叫ぶ。


「優季くん、目を覚まして!」

「もうお昼過ぎだよ? 寝ぼけてるのは、キミのほうなんじゃないのかな?」


 なにバカなことを言ってるんだか。

 そんな冷笑を受けながらも、わたしは怯まない。


 ――ちょっと、戦わないって、どうするつもり? この戦い、負けるわけにはいかないのよ!?


 そよぎさんの文句は聞こえたけど、わたしは無視する。

 神様だかなんだかが優季くんを操って、戦わせてるだけなんだ。

 わたしはそう考えた。


 だからきっと、優季くんは目を覚ましてくれる。

 そのために、少し恥ずかしいけど……。

 優季くんのそばに行って、ぎゅっと、抱きしめてみよう。

 そうすれば、きっと……。


 一歩一歩、わたしは優季くんに近寄っていく。


「ん~? どうしたの? やっぱり寝ぼけてるのかな? ま、いいや。そのままゆっくりこっちに来てね。一撃で、終わらせてあげるよ」


 余裕の笑みを張りつけたままの優季くん。


 ――なにやってるの? 不用意に近づいたら、危ないわよ!?


 待っててね。今すぐ、わたしが解放してあげるから。

 両手を前に伸ばし、優季くんのもとへ……。


 と、そのとき。

 突然、耳をつんざくような爆音が響いた。


「なんだっ!? うわっ!」


 なにが起こったのか、理解できなかった。

 それは優季くんも同じだったようで、慌てた声を上げていた。


 爆発……。

 そう、優季くんの頭上、天井の辺りで突然、爆発が起こったらしい。


 さほど大きな規模の爆発ではなかったみたいだけど、天井からは次々とガレキが崩れ落ちてくる。

 その大量のガレキは、優季くんと、さらには優季くんが抱えたままのゆりかごさん目がけて襲いかかった。

 信じられないほどの大音量が、普段は静かな渡り廊下に轟き、激しく反響する。

 わたしの目の前は、舞い上がったホコリによってなにも見えなくなっていた。


「くっ……、余計なことを……! ゲホッ、ゲホッ!」


 どうやら直撃を受けたりはしなかったみたいだけど、ガレキや舞い上がったホコリが口や気管に入ってしまったようで、優季くんのむせ返る声が聞こえてくる。

 そして……、


「仕方がない、ここは退こう。息吹さん、またね。……生きていたら、だけど」


 そんな言葉だけを残し、舞い上がったホコリが薄れて消え去ったあとには、優季くんの姿はどこにも見えなくなっていた。


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