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はっ……と我に返る。
地面にへたり込んだわたし。
もしかしてそのまま、意識を失ってたの? それとも白昼夢でも見ていた?
どちらにしても、大して変わりはないだろう。
ともかく、今は現状をどうにか打開しなくちゃ。
でも、どうすれば……。
考えを巡らせる。
――決まりだからあたしは手を貸せないけど、頑張って考えるのよ。
そよぎさんがエールを送ってくれたけど。
「そもそも、戦うってどうすればいいの?」
――他の神様に力を与えられた人間を見つけて、打ち倒せばいいの。
「そんなこと言われても困るよ……。どうやって打ち倒すっていうの?」
――う~ん、能力を使って、としか言えないかしらね。
「能力って……選択肢が視えるだけの力で、どうやって戦えばいいのよ……」
きっと戦う相手は、相当強い力を持っているに違いない。
わたしは運動だって苦手だし、打ち倒すなんて絶対に無理だ。
ダメ……。
どう考えても、わたしひとりの力じゃどうにもならない……。
口から次々と弱気な言葉たちがこぼれて落ちていく。
と、そこで思い至った。
ゆりかごさん!
そうだ、とりあえず彼女と合流しよう!
いつだって頼りになる、わたしの親友なんだから。
「ゆりかごさん!」
わたしは無意識のうちに叫び、素早く立ち上がると、ゆりかごさんが入っていった高等部の校舎へと向かって駆け出した。
☆☆☆☆☆
「息吹さん!」「ゆりかごさん!」
ゆりかごさんとは、すぐに出会えた。
わたしが昇降口に近づいたところで、慌てた様子のゆりかごさんが飛び出してきたのだ。
お互いの名前を呼び合い、そしてお互いの存在を確認するように両手を握り合う。
「よかった、無事だったのね!」
「ええ。息吹さんも無事でなによりですわ。それで、学園長さんはおりました?」
その言葉で、当初の目的を思い出す。
そうだった。そよぎさんからいろいろ聞いたことで、すっかり忘れてしまっていた。
「ううん、いなかった。職員室はどうだったの?」
「先生方は、いるにはいたのですが、残念ながら正門前とまったく同じ状況でしたわ。教室にも向かってみたのですが、クラスメイトのみなさんも同じように、寝っ転がってだらけきった感じで……。先生方もクラスメイトのみなさんも、いくら声をかけても反応はありませんでした」
「そっかぁ……」
事態はやっぱり、深刻のようだ。
「いったい、どうしたらいいんだろう……」
ゆりかごさんに会えた安堵もあったからか、わたしはつい、弱音を吐いてしまった。
「大丈夫ですわ。わたくしがついておりますから」
そっと、ゆりかごさんはわたしを包み込むように、優しく抱きしめてくれた。
「あっ、そうだ。ゆりかごさん、あのね――」
しばらくのあいだ温もりに包まれて気持ちが落ち着いたあと、ようやくわたしは語り始めた。
そよぎさんから聞かされた、信じられないような話の数々を。
わたしには少し前からそよぎさんの声が聞こえていて、今こうして、尋常ではない状況に陥っている。
それでもなお、まだ半信半疑だった。
頭の中に声が響いてくるという現象。
確認したことはないけど、他の人にその声が聞こえるわけではないだろう。
ならばそれが幻聴や気のせいだという可能性は拭いきれないのではないか。
そういった考えも残っていたからだ。
とはいえ、目の前に広がる光景は明らかに異常事態。
たとえこの声が幻聴だったとしても、現状を把握し、打破する手助けにはなるかもしれない。
――あのね、幻聴でも気のせいでもないわよ? いい加減、現実を見据えなさいな。
なんて声が脳裏に響く中、わたしはゆりかごさんに語り続ける。
わたしは神様に選ばれた人間らしいということ。
選択肢が視えるのは、そのせいだということ。
神々は数十年に一度、覇権争いのために、大規模な戦争をするということ。
さらには、今のこの状況が、その神々の戦争として引き起こされた、全世界規模のウィルスによるものだということを。
「…………え~っと……」
さすがのゆりかごさんも、目を丸くしている。
うん、そりゃそうだよね。
だけどゆりかごさんは、やっぱり落ち着いていた。
素早く制服のポケットからケータイを取り出すと、ピポパポとなにやら操作し始めた。
そして、じっとケータイの液晶画面を見つめる。
「……信じがたいことではありますが、どうやら息吹さんの言ったとおりのようですわね」
ゆりかごさんはそう言って、画面をわたしのほうに向けた。
「ニュース番組の映像ですわ」
そこには、騒然とする町並みを背に、物々しい防毒マスクのようなものをかぶったレポーターが慌てた様子でなにやら叫んでいる姿が映し出されていた。
なにを言っているのか、まったくわからないほどのレポーターの慌てぶりが、いやが上にも緊迫感を誘う。
その画面には、「全世界ウィルス大パニック!」と、おどろおどろしく装飾された文字が大きく表示されていた。