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わたしはお母さんに手を引かれながら、通りを歩いていた。
行き交う人々に、お母さんはなぜだか冷たい視線を向ける。
「息吹ちゃん、あなたは頑張らなくてはなりません」
「え? な~に?」
お母さんがなにを言っているのか、わたしにはよくわからなかった。
「あなたは……神様だから」
「え~?」
お母さんはそのとき、確かにそう言った。
幼いわたしには、なにを言っているか、いまいち理解できなかったけど。
「うふふ、今はわからなくてもいいわ」
ふわりとした温かな笑顔を送ってくれるお母さん。
理解はできなくても、お母さんの笑顔が大好きだったわたしは、精いっぱいの笑顔で応える。
それを見て、お母さんは満足そうに頷いた。
そして笑顔を崩さずに、こう続けた。
「でもね、いざというときには一生懸命、それこそ死ぬ気で頑張らなくてはなりませんよ?」
「……うん!」
お母さんがなにを言いたいのか、よくわかってはいなかったけど。
だけど、お母さんが笑顔になってくれるならと、わたしは肯定の言葉を元気よく返す。
「すべてがあなたの肩にかかってくることもあるでしょう。でも負けちゃダメ。勝つんですよ! 未来のために!」
「うん、わたし、まけない! ぜったい、かつ!」
絶対、勝つ。
それはお母さんとの約束。
……そっか、お母さんはずっと昔から、わたしに訪れる苦難を予見していたんだ。
お母さん、わたし、頑張るよ!
記憶の中のお母さんが、わたしの声を聞いて微笑んでくれたような、そんな気がした。