表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イノセント・アライブ ~命の選択と荒ぶる息吹~  作者: 沙φ亜竜
第4章 そよぐ風に耳を傾けて
28/42

-6-

 さすがに信じられないでいるわたしを、そよぎさんは声で誘導しながらも、さらなる説明を加えていった。


 学園を覆い尽くすように渦巻く雲は、見るからに異常な空気の流れ……。

 全国規模のウィルスとか言っていたはずなのに、どうして学園だけを覆っているのだろう?

 わたしが疑問に思うと、すかさずそよぎさんが答えてくれた。


 ――それは今回の戦いの舞台が、この学園ということに決まったからよ。神々の戦いを盛り上げる、効果的な演出になってるわよね。


「はぁ、そうなんだ……」


 もちろん答えを聞いたところで、口からは乾いた返事しか出てこないのだけど。


 ともかく、そよぎさんはさらに、わたしを正門の前にまで導く。

 そこでは今も、普段ならおしとやかに歩いているお嬢様たちが、恍惚の表情を浮かべながら、制服を着たままの姿で地べたにごろごろと寝っ転がっている。

 やっぱり、異様な光景だ。


 あれ? でも……。


「全世界規模のウィルスで、こんなふうになっちゃってるんでしょ? それなのに、どうしてわたしは平気なの?」


 口に出す必要がないとわかってはいても、思わず質問の声はわたしの舌先から飛び出していた。


 ――うふふ、それはね、あなたが神に選ばれた人間だからよ。


 さっきと同様、すかさず答えが返される。

 そっか。わたしは神様に選ばれたのよね。だから選択肢が視えるなんて能力まであって……。

 わたしの鈍い頭にも、徐々に自分の置かれた状況が浸透していく。


 だけど……。

 なんだかちょっと、引っかかる。

 そのとき、突風が吹き荒れた。


「きゃっ!」


 わたしはスカートを押さえ、目をつぶって風をやり過ごそうとする。

 そこで、目をつぶったままのわたしの脳裏に、いつものように選択肢が浮かび上がってきた。



 『右』

 『左』



 また、簡潔な選択肢。意味が、伝わってこない。

 どうすれば、いいの?

 と、これも以前に感じたことのある、カッチ、コッチという音が響く。


 5、4、3……


 時間制限つきの選択肢ね!?

 わたしは運を天に任せて、素早く片方の選択肢を選んだ。



×『右』

○『左』



 ぴょんっと、軽やかなステップで左側に飛ぶ。

 その瞬間、さっきまでわたしが立っていた位置から右側の広い範囲の地面が、なくなった。


「え?」


 いや、それはどうやら、わたしの認識能力を超えていただけらしい。

 なくなったのではなく、一瞬にして押し潰されたのだ。どこからともかく落ちてきた、たくさんのガレキによって……。


「わ……きゃっ!? なによ、これっ!?」


 困惑するわたしに、興奮した感じの声でそよぎさんが叫ぶ。


 ――そう、あなたにはその力があるわ! 選択肢という、神から与えられた力が!


「選択肢の力……」


 オウム返しにつぶやくわたしに、そよぎさんはさらに力強い言葉で発破をかける。


 ――だから、戦って! そして勝つのよ! 未来のために!


 もとより優柔不断で、流されやすい性格のわたし。

 そよぎさんの勢いに圧されて、その気になり始めていた。


「う……うん、わかった。わたし、頑張ってみるよ。……できる限り……」


 ちょっと最後に気の弱いところが出てしまっていたのは、ご愛嬌ってことで。

 とりあえず頑張ってみようという思いだけは、わたしの心の中で膨れ上がっていた……のだけど。


 ――言っとくけど、選択を誤ったら、死、あるのみよ? だから気を抜かないでね。


「え……?」


 死、などという、普段あまり意識しない事象は、すぐにはわたしの頭の中に染み込んでこなかった。


 ――それと、あたしは助言とかできないから。あなたがすべてを決める必要があるわ。頑張ってね! ……死なないように。


「え~っと……」


 たっぷり数分くらいの時間を要して、

 やっとこさ、そよぎさんの言っている内容を理解したわたしは、


「ど……どうして、こんなことになっちゃってるのぉ~!?」


 涙目になりながら、悲痛な叫び声をどんよりとした曇り空に轟かせる。


 ――ほら、泣いてたって仕方がないわよ。シャキッとしなさい。


「で、でも~……」


 さすがに、選択を誤ったら死ぬだなんて、そんなことを考えたら、平静を保ってなんていられないよ。

 そう文句を言おうとしたのだけど。


 ――なに言ってるの? 今までにだって何度も、間違ったら死ぬような選択肢があったのよ?


「ふえっ?」


 ――小さい頃なんか、よくいろんな場所を「冒険だ~」とか言って、歩き回ってたでしょ? あのとき息吹さん、何度も死と背中合わせの状況に陥っていたのよ?


「えええっ!?」


 ――それに最近だって、優季くんの家から戻るとき、止まってあたしの声に耳を傾けてくれたからよかったけど、急いで帰ったりなんかしたら、交通事故に遭っていたのよ?


「ひぅ……」


 ――ついさっきも、学園長室へ向かわずにゆりかごさんを追いかけてたら、彼女に追いつく前に他の神様の襲撃を受けて、一発でこの世からサヨナラだったのよ?


「ぁぅぁぅぁぅ……」


 もうすでに、まともな声を出すことすらできないわたしに、そよぎさんは声だけで微笑みかける。


 ――うふふ。そんなに怖がらなくても大丈夫よ。


「……そよぎさんが、助けてくれるの……?」


 涙まじりの声で、どうにかしぼり出したわたしの質問に、


 ――ううん。それは無理。あなたは自分の力でどうにかしなくてはならないわ。


 そよぎさんはあっさりと否定を返す。


 ――でも、もしあなたが死ぬ羽目になったら、苦しまずに一瞬であの世に逝けるようにするくらいはできるから。安心してね!


「安心なんか、できるか~~~~~!」


 などと叫ぶような気力が、今のわたしにあるはずもなく。

 わたしはへなへなと地面にへたり込んでしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ