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イノセント・アライブ ~命の選択と荒ぶる息吹~  作者: 沙φ亜竜
第3章 ゆったりまったり幸せ気分
21/42

-6-

 生まれて初めて入る、男の子の部屋……。

 わたしは緊張して、思わず足が震えてしまう。


 優季くんがふすまを開けて、中に導いてくれた。

 そっか、優季くんのお部屋は、畳の和室になってるんだ。


「散らかってて恥ずかしいけど、どうぞ」

「お邪魔しま~す……」


 ふわっと、温かな匂いが包み込む。


 家の中に入ってから感じていたお花のような香りとは、また違った匂い。

 ベンチで隣に座っているときに感じていた、微かな優季くんの匂い。

 それが今ここでは、はっきりと感じられる。


「ちょっと、息吹さん、そんなにじろじろ見るのは、失礼ですわよ?」

「あっ……!」


 わたしは思わず、きょろきょろと隅から隅まで、優季くんの部屋の様子を目に焼きつけるように眺めてしまっていた。


「ごっ、ごめんなさいっ!」

「いや、べつにいいよ、気にしないで。とりあえず、ここに座ってて」


 そう言って、優季くんはふたり分の座布団を用意してくれた。


「ありがとう」


 素直に従い、わたしとゆりかごさんは座布団に腰を落ち着ける。


「いきなりでごめん、トイレに行ってくるから、ちょっと待っててね」


 優季くんはそう断りを入れて、部屋から出ていった。



 ☆☆☆☆☆



 それにしても落ち着かない。

 座布団に座ったまま、わたしはまたしても無意識のうちに部屋中に視線を巡らせていたらしい。


「ふふふ、気になりますのね? お部屋の中、いろいろと調べてみます?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべながら、ゆりかごさんがそんなことを言い出す。

 さらに続けて、こんなことまで。


「きっと、エッチな本なんかも、隠してあると思いますわよ?」


 わたしは思わず真っ赤になって反論する。


「そそそ、そんなのないもん! たぶん……。それに、勝手に部屋の中をいじるなんて、絶対にダメだよ!」

「ふふふ、そうですわね、息吹さんもお部屋に隠してあるものを見つかったら、大変ですものねぇ?」

「な……なに言ってるのよっ! わたしはべつになにも……!」

「あら? プリントアウトして差し上げた優季さんの写真も、隠さず堂々と置いてありますの?」

「うっ……! で、でも、部屋にはないもん!」

「あ~、肌身離さず持っておりますのね」

「あう、……うん……」


 どう考えても、わたしのほうが分が悪い。

 ゆりかごさんと言い合いをした場合、ほぼ確実に同じような流れになる。

 やっぱりわたしって、ゆりかごさんには勝てないんだな、というのを改めて実感した。


「それにしても、殿方のお部屋ですのに、綺麗に整頓されておりますわね。必死になって掃除したのでしょうか?」


 突然話題を変えるゆりかごさん。勝ったことを悟ったのだろう。

 ま、いいんだけど。いつものことだし。


「きっと普段から綺麗好きなのよ」


 わたしも新しい話題に乗り、そう答える。

 するとゆりかごさんは、意外な言葉を返してきた。


「そうかもしれませんけれど、もしそうだとしたら、ちょっと問題かもしれませんわよ?」

「え? どうして?」


 わたしの疑問に、彼女はためらうことなく言い放った。


「息吹さんのお部屋と、どちらが綺麗かを考えましたら……、答えはおのずと出ると思いますけれど」

「は、はう……!」


 そういうことか!

 言い換えれば、わたしの部屋を優季くんに見られたら、だらしない女の子だと思われて嫌われちゃう、ってことだ。


「ううう……。優季くんをわたしの部屋に呼ぶなんて、絶対に無理だわ……」


 頭を抱えるわたしを、ゆりかごさんは面白そうに見つめていた。


「ふふふ、大丈夫ですわよ。その程度で嫌うような殿方ではありませんわ、優季さんは」

「ゆりかごさんったら、もう!」


 つまり、わたしはからかわれたんだ。

 ……でも、あれ?

 そうすると、わたしの部屋は汚いって、認めてることにならない?

 ちょっと憮然とした表情を浮かべるわたしだった。



 ☆☆☆☆☆



「遅いですわね」


 しばらく他愛ないお喋りを続けていると、ゆりかごさんがポツリとつぶやいた。

 確かに優季くんは、トイレに行ったきり、一向に戻ってくる気配がない。


「……大きいほうでしょうか?」

「ちょ、ちょっとゆりかごさん!」


 そんなことを言ったら、さすがに悪いよ。

 文句の声をぶつけようとしたそのとき、すっと、ふすまが開かれた。


「お待たせ~。紅茶を淹れてきたよ。お菓子もあったから持ってきた。あ……でも、こんな庶民的なのは、お口に合わないかな?」


 優季くんはにこっと笑顔を浮かべながら、お盆に乗せたお皿やカップを運んできてくれた。


「そそそそ、そんなことないです! ありがとうございます! わぁ~、わたし、ポテチ大好きです!」


 ちょっとはしたない詮索をしていた後ろめたさも手伝って、わたしは不自然なほどに、はしゃいだ声を上げていた。


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