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イノセント・アライブ ~命の選択と荒ぶる息吹~  作者: 沙φ亜竜
第3章 ゆったりまったり幸せ気分
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-1-

 わたしは優季くんが公園から去っていったあとも、しばらくぼーっとその場に立ち尽くしていた。

 ぼーっと、というか、さっきも同じだったけど、にへら~っとした、気色の悪い笑みをこぼしまくっていたかもしれない。

 お嬢様学校と名高い藤星女学園の制服に身を包んだまま、だらしない、ちょっとおかしな笑顔で立ち尽くすわたし。


 人通りの少ない公園だから、誰かに見られたりはしなかった……と思う……けど、どうだろう……?

 しばらくして、変な噂とか立ってたら嫌だな……。

 なんて、我に返って考えられたのは、家に帰り着き、自分の部屋に入ってからのことだった。

 つまりは、家に戻ってくるまでの帰り道も心ここにあらず状態だったわけで。


 言うまでもなく、出迎えてくれたお手伝いの弥生さんには、わたしのにやけ顔をバッチリ見られてしまったことになる。

 思い起こしてみると、さっき夕飯の準備ができたと呼びに来たときも、なんだか必死に笑いを堪えていたような気が……。

 弥生さんには、またしても弱みを握られてしまったかもしれない。


『家政婦に見られた!』 第二話。お嬢様の壊れた微笑みの秘密。


 って、なにを考えてるんだか……。

 あまりにも優季くんのことが気になって、夕食の時間も心ここにあらず状態のまま。小百合さんにまで心配をかけてしまったし……。


 ああ、もう! なにやってるのよ、わたし! しっかりしろ!

 バシッ!

 夕食後、自分の部屋に戻ったわたしは、両手で思いっきり自分の頬を叩いて気合を入れ直す。


 はう、ちょっと強すぎた! すごく痛い……。

 鏡をのぞき込んでみると、両方のほっぺたが真っ赤になっていた。

 う~、ほんとにもう、なにやってんだか……。


 ドサッ。

 そのままわたしは、ベッドに倒れ込む。


 でも……。

 優季くんと、あんなにたくさんお喋りできるなんて。

 そう考えた途端に、痛みの引いてきていた頬が、再び真っ赤に染まる。

 もちろん今度の赤味は、痛みを伴わない、むずがゆさいっぱいの赤だったのだけど。


「はう~!」


 思わずベッドの上でごろごろと左右に転がってしまう。

 はしたないこと、この上ない。


 そのとき。

 ガチャッ。


「お嬢様、お電話です……って、なにをなさっているのですか?」

「ひゃうっ!」


 いきなりドアを開けて顔をのぞかせた弥生さんに、またまたまたしても醜態をさらすことになってしまった。

 弥生さん、ノックくらいしてよ……。

 なんて文句の言葉すら出てこない。


『家政婦に見られた!』 第三話。転がるお嬢様の謎……。


 わけのわからない妄想を振り払い、わたしは赤く染まった顔を必死に枕で隠す。

 と、それよりも。


「あ……あの、電話って、誰からですか?」


 焦りをどうにか抑え、弥生さんに尋ねると、


「ゆりかごさんです」


 との答えが返ってきた。



 ☆☆☆☆☆



「ふふふ、どうでしたか? 上手くいきました?」


 ゆりかごさんの第一声。

 すなわち、さっき公園に戻ってこなかったのは、やっぱり彼女の作戦だったということになる。


「チューくらいは、しましたか?」


 からかうような声で、そんなことまで訊いてくるし。


「もう、ゆりかごさん! そんなわけないじゃない! お話するのも、今日が初めてだったのに」

「あら、世間では初めて会ったその日に、もっと先まで行ってしまわれる方もいるらしいですわよ?」


 真っ赤になって答えるわたしに、ゆりかごさんはさらなる言葉を平然と放つ。

 も……もっと先までって……。

 考えただけで脳みそが爆発寸前の状態に陥ってしまう。


「ふふふ、今、想像しましたわね? 息吹さんったら、え・っ・ち♪ なんですから」

「ゆりかごさん!」


 わたしはしばらくのあいだ、ゆりかごさんから、こんな感じでからかわれ続けた。

 予想していたことではあったから、とりあえず恥ずかしがりながらも、親友との会話を楽しむ。


「……それで、実際のところはどうでしたの?」


 しばらく経つと、からかうのにも飽きたのか、ゆりかごさんは唐突にそう尋ねてきた。


「うん、えっとね……」


 その頃にはすでに、恥ずかしさやら焦りやらの気持ちが和らいでいたわたし。

 素直にさっきの公園での出来事を、細かく報告することにした。

 それを聞いて、ゆりかごさんも喜んでくれた。


「あらあら、息吹さんにしては上出来じゃないですか~」


 ……若干引っかかる言い方ではあったけど。

 そしてゆりかごさんは、


「そうですわね、あとはデートなさって、そのまま恋人同士になってしまうのがよろしいですわね!」


 さも当然そうに、そんなことをのたまう。


「え……。デデデデ、デートだなんて、そんな……!」

「なにを恥ずかしがっておりますの? それとも、デートをすっ飛ばして、次のステップに進んでしまいますか?」

「はう、次のステップって……」

「息吹さん向けだと、チューですかしら」

「わたし向けって……」


 なんだか、ちょっとバカにされているような気がしないでもない。

 だけど、ちょっと面白がっているのは確かだろうけど、ゆりかごさんが喜んでくれているのは、しっかりと感じられた。


「ふふふ、わたくしも協力致しますわ。大船に乗った気持ちで、どーんとお任せくださいな。ふふふふふ……」

「そ、その笑い、ちょっと怖いんだけど……」

「あら? なにか言いました?」

「い……いえ、なにも!」


 ……やっぱり面白がられている比率のほうが、圧倒的に高そうな気がするわたしだった。


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