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お母さんが、笑っている。
わたしのほうを見て、笑っている。
「この子にも、将来は恋人ができたりするんでしょうね~」
ちょんちょんと、わたしの鼻の頭を人差し指で軽くつつきながら、「ね~」と、笑いかけるお母さん。
「あははは、そうだね」
お父さんも、笑っていた。
忙しくて家にいないことも多いけど、いつも優しくわたしを包み込んでくれる。
お母さんの匂い。
お父さんの匂い。
ふたりの匂いに包まれて、わたしも満面の笑みをこぼしていた。
「あなた、娘はやらん! とか言って怒鳴ったりしないでくださいよ?」
「う~ん、約束はできないかな~……」
「もう、あなたったら」
お母さんは、うふふ、と笑い声を空気に乗せて響かせる。
手入れの行き届いた綺麗なリビングルームは、幸せいっぱいの空気で隅々まで満たされていた。
お父さんとお母さんが仲よくお喋りしているのを、わたしはうっとりとした瞳で見つめる。
わたしはふたりの笑顔が、とっても大好きだった。
今では記憶の中でしか見ることのできない、ふたりの笑顔が。
本当に本当に、大好きだった――。