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「息吹ちゃん、どっちにする?」
お母さんがわたしをじっと見つめながら、両手に持ったお皿の上のケーキを交互に目の前へと掲げ、そう質問してくる。
いつもそうだった。
べつに怒ったり急かしたりするわけではない。
ただひたすら、わたしに選択させるのだ。
「う~んとねぇ~……、え~っとねぇ~……」
お母さんの右手のお皿には、生クリームの白とイチゴの赤が絶妙なコントラストを奏でる、ケーキのお姫様、ショートケーキが乗せられていた。
そして左手のお皿には、白いドレスに身を包みしっとりとした雰囲気を漂わせる、ケーキのお嬢様、レアチーズケーキが乗せられている。
わたしは小さい頃からケーキには目がないのだけど、その中でもショートケーキとレアチーズケーキは大大大好物だった。
「はう~、どっちも、たべたいよぉ~……」
流れ出るヨダレを拭うことすら忘れ、わたしのキラキラした瞳はふたつのお皿の上を行ったり来たり。
目だけじゃなく頭も左右に大きく揺り動かし、ツインテールの髪を振り乱しながら、ふたつのケーキの姿を変わりばんこに視界いっぱいに映していた。
「うふふ、ダメよ、息吹ちゃん。ちゃんと決めないと」
笑顔のままではあったけど、言うことを聞かないと怖い、って思いは幼心にもあって。
「えっと、その、こっち!」
わたしはお母さんが右手に持つショートケーキを指差す。
「はい、どうぞ」
答えを聞いたお母さんは満足そうに微笑み、右手のお皿をわたしの目の前に置いてくれた。
もうひとつのお皿は、お母さんの目の前に。
「わ~い、いただきまぁ~す♪」
フォークを持ち、目の前のショートケーキに、わたしは手を伸ばす。
ぴたっ。
そこで、手は止まった。
視線の先には、チーズケーキを口に運ぶお母さんの姿。
フォークからお母さんの口の中へと滑り込んでいくレアチーズケーキの欠片を、わたしはただ黙って眺めていた。
「………………」
「あら? 息吹ちゃん、どうしたの?」
「…………ん、と……」
やっぱり、レアチーズケーキのほうがよかったかな。
わたしは口に出して言うことができなかった。
「ううん、なんでもない」
小さく答えたわたしは、ショートケーキをフォークで小さめに切る。
そして、そのひと切れを覚束ない手つきでフォークに乗せ、自分の小さな口へと運んだ。
甘くて美味しい。
でも……。
レアチーズケーキのほうが食べたかったかも、という思いでいっぱいになっていたわたしの口に広がる甘さには、なんとなくほろ苦さもまじっているように感じられてならなかった。
「息吹ちゃん、美味しい?」
「…………うん」
お母さんの問いかけに答えるわたしには、愛想よく笑顔を浮かべる余裕なんて、残っているはずもなかった。