私は仕事で忙しい
家庭教師を丸めこみ、貴族のお嬢様たちの噂話に耳を傾けて、お茶を飲んでいると、王宮の内情がわかってくる。
羅心が王様に繭のことを告げ口しているのは百も承知だし、まさかあの鉄面皮がこんな御茶会にのこのこ出てくるとも思っていない。
そんな王様がまた良いのだというお嬢様たちが、今の繭の取り巻きだった。
彼女たちは女神さまに取り入って、まだ年若い王に目をかけてもらおうという貴族のお嬢様の中でもツワモノ達だ。
あの大臣はこうだ、どこそこの若君はこうだ、そんな噂話から、この王宮は一部の大臣と王様派に分かれていることが分かった。
それから、繭を召喚したのが、王様ではなく、その大臣たちだということも分かった。
不承不承、呼び出してしまったものは仕方ないと女神を受け入れた王様は、二十人という女官を繭に付け、豪華な部屋をあてがい、豪奢な貴族のような生活をさせた。
何の事だかわからないうちに女神さまとかしずかれ、無理矢理お役目を告げられた。
国の安泰のために、我が国の王との婚姻を。
「陛下。どうして今日は御茶会においで下さらなかったのですか?」
仏頂面で対面する陛下に、にっこりと言ってやる。
対する王様は涼しい顔で繭に顔を向けずに煮物に箸をつける。
「私は仕事で忙しい。あなたの相手をしている暇などない」
低い声でそれだけ言うと、王様は黙々と食事に戻る。
毎日夕食だけ、王様と繭は二人で摂る。
それは大臣たちが仕組んだことでもあったし、繭にとっても都合が良かった。
「そんなことはどうでも良いではありませんか」
そう言うと、周囲で控えていた人間が低く溜息をつくのがわかった。
彼らは、全く役に立たない女神に愛想をつかしているのだ。