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競走馬の本命

作者: だぶのー
掲載日:2026/07/07

ラブコメです!

「うわぁ……人すごいな」


兄が辺りを見回す。


「今日は重賞じゃけぇね! 盛り上がっとる!」


妹は弾むように笑った。


明るい栗色のポニーテールが揺れ、スタイルの良さも相まって、歩くだけで周囲の視線を集める。


「あの子モデル?」

「めっちゃかわいい……」

「誰と来てるんだ?」


ひそひそ声が飛び交う。


兄はまるで気づかない。


「今日は暑いな。」


「そこなん!?」


妹が思わずツッコむ。


「いや暑いだろ。」


「違う違う! なんか視線感じん?」


兄は周囲を見る。


「……競馬新聞読んでる人ばっかじゃん。」


「お兄ちゃんの目は節穴なん!?」


馬がパドックを歩く。


妹は目を輝かせた。


「見て見て! あの馬、筋肉すごい!」


兄は真面目な顔で頷く。


「確かに臀部の発達が――」


「馬ばっか見んと妹も見んさい!」


「え?」


「……なんでもない。」


妹は耳まで赤くなる。


兄は首をかしげる。


「体調悪い?」


「悪いんはお兄ちゃんの鈍感さじゃ!」


馬券売り場。


「お兄ちゃん、どれ買うん?」


「データ重視かな。」


「夢は?」


「回収率。」


「ロマンの欠片もない!」


兄は新聞を広げる。


「この馬は前走指数が――」


妹は兄の腕にぴたっとくっつく。


「ほら、こうやって考えたほうが当たるけぇ。」


「暑くない?」


「……。」


「離れた方が涼しいぞ。」


「恋愛偏差値ゼロか!」


その様子を見ていた男性二人。


「彼氏かな?」


「いや……兄妹らしい。」


「え?」


「マジか。」


二人は兄を見る。


「……なんであんな普通の兄ちゃんからあんな美人が。」


兄は新聞しか見ていない。


「このオッズは妙味がある。」


「妙味あるんは妹さんじゃろ!」


近くのおじさんが思わずツッコんだ。


ファンファーレ。


「始まる!」


妹はテンション全開。


「お兄ちゃん! がんばれー!」


「俺走らないよ。」


「馬じゃ!」


ゲートイン。


「スタート!」


馬が飛び出す。


「いけー!」


妹は飛び跳ねる。


そのたびに周囲の男性陣の視線も上下する。


兄はレースしか見ていない。


「差せ! 差せ!」


妹は兄を見つめる。


(うちもお兄ちゃんとの距離、差したいんじゃけどなぁ。)


「よし! 三番来い!」


(馬じゃなくて、うち見てぇや……。)


ゴール。


「当たった!」


兄が珍しく喜ぶ。


「三連複!」


「やったぁ!」


妹は勢い余って兄に抱きつく。


「お兄ちゃんすごい!」


周囲がざわつく。


「うらやましい……」

「兄になりたい。」

「いや俺は弟でもいい。」


兄はぽんぽんと妹の頭を叩いた。


「よかったな。」


「……それだけ?」


「うん?」


「もっとこう……『抱きついてくれてうれしい』とか!」


「兄妹だし普通じゃない?」


妹は天を仰いだ。


「神様ぁ……この人の恋愛センス、どこに落としてきたんですかぁ……。」


帰り道。


兄は当たり馬券を財布へしまう。


「今日は楽しかったな。また来よう。」


妹はにっこり笑う。


「もちろんじゃ!」


「次も一緒に来てくれる?」


「当たり前じゃろ!」


妹は小さく拳を握る。


(デートじゃ思うとるんは、うちだけなんじゃろうけど。)


兄は歩きながら真顔で言う。


「次は双眼鏡持ってこよう。」


妹の目が輝く。


「えっ! うちをもっと近くで見てくれるん!?」


「違う。ゴール前の馬を見やすくするため。」


妹はその場でしゃがみ込んだ。


「負けた……馬に負けた……。」


兄は首をかしげる。


「何が?」


妹は立ち上がり、苦笑いする。


「ええよ。そのうち、お兄ちゃんにも万馬券みたいな奇跡が当たるじゃろ。」


「?」


「うちという一番の本命に気づく奇跡がね。」


「本命? 今日のレース終わったけど。」


妹は額に手を当て、大きくため息。


「ほんまに前途多難じゃわ。」


そう言いながらも、兄の隣を歩く足取りは誰よりも軽かった。

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