【相対】 1
義父家族が帰ってきた。
しかし屋敷に明かりはなく、広い玄関ホールに立つ義父が、手にランタンを持ちながら不審に眉をひそめていた。
「何だ? 明かりも点けず、主人が帰ってきたというのに出迎えもなしか?」
義父の隣に並んだ義母も不機嫌そうな顔になっていた。
「使用人の躾がなってないわね。全く、あの気持ち悪い娘を見つけたらぶってやらないと。あんたの父親がちゃんと教育してないから私達に迷惑が掛かったんじゃないのって」
最も不愉快で憤っていたのは義姉だった。
「ちょっと! 高貴で高潔なこの私が帰ってきたのに何で誰も出迎えないのよ! この私を崇めない馬鹿な使用人達なんか全員クビにしてやるんだから! 大体お父様が厳しくしないから奴らだってツケ上がってるんでしょ!」
「おいおい、私に当たるなよ。分かった分かった、馬鹿な使用人達は全員クビにするし、お前の好きなケーキもバッグも好きなだけ買ってやるから」
「子供扱いしないでよ! ネックレスもブレスレットも服も化粧品も指輪も宝石も、その他私の欲しい物全部買ってくれたら許してあげるけどね!」
「分かった分かった、全部買ってやるから」
うるさい娘に辟易した様子で、義父が玄関ホールから中に進んでくる。
そこで私は指をぱちんと鳴らし、屋敷の使用人達に照明を点けさせた。
一斉に点灯した魔法具の照明やシャンデリアに、義父家族が眩しそうに腕を顔の前に上げている。
玄関ホールのすぐ前にある左右対称の階段の先、吹き抜けの二階に当たる場所に私は立って、彼らに声を降らせた。
「随分と我が物顔で好き放題言っていましたね、ヴィンディットさん」
ヴィンディットとは義父の名前だ。
義母の名前はイレーツであり、娘はロビーだと聞いていた。
三人はようやく明るさに目が慣れてきたらしいが、それでも目を細めながら怒鳴り声を上げた。
「誰だ⁉ 我が家に勝手に入った空き巣め! 私の屋敷に土足で入りおって!」
「お金も金目の物も絶対にあげませんからね! 馬鹿でノロマな使用人達! 早くこの不届き者を取り押さえなさいな!」
「まさか私の部屋に勝手に入ってないわよね! 気持ち悪いクズが! あんたなんか警察に突き出す前にこの私が気の済むまで制裁してやるんだから!」
それぞれの言葉を聞いて、私は思わず目を眇めてしまった。
私が王太子であることに気付いていないのは仕方ない。
自宅に不審者がいたのだ、怒声を上げるのも分かる。
しかし、何だ? この、彼らから伝わってくる、この、他者をとことん見下したような、自分だけは絶対に特別だと言い張るような、この、不愉快な感じは?
私の胸に湧き出してくる、この静かな憤りは?
既に使用人達から事情を聞いていて、努めて冷静さを欠かないように気を付けていたつもりだが……知らず私の声も眼差しも冷ややかなものになってしまっていた。
「私の屋敷だと? 金目の物だと? 私の部屋だと? 何を言っているんだ、全ては元々レアフ家のものではないか? お前達の方こそ後から土足で上がり込んできたよそ者だろう」
「「「!」」」
ようやく彼らは視界を完全に取り戻したようだった。
三人が三人とも、さっきまでの細めていた瞳が嘘のように、今度は驚愕に目を見開いていた。
「お、お前は⁉ い、いえ、貴方様は⁉」
「ま、まさか⁉ 何で貴方様がここに⁉ 王宮にいるはずじゃあ⁉」
「な、何でこんなとこにいんのよ⁉ 頭の悪くて能天気な王族は王宮で税金を無駄にして豪華な生活してるだけなんじゃなかったの⁉ お父様もお義母様もそう言ってたのに⁉」
「「ロビー⁉ 何てことを⁉」」
ハッとなって、義姉が慌てて口を両手で覆うが、最早手遅れだとは気付いていないらしい。
「なるほど。貴方達は王家までも内心で馬鹿にしていたということか」
「め、滅相もありません! いまのはこの馬鹿でアバズレなクズ娘が勝手に言っただけでして! 私は一切関係ありません!」
「私もですわ、王太子殿下! そもそも私はこんな性格ブスの子とは血の繋がりなんかありませんもの! 私だけは見逃してくださいませ!」
「なッ、クソ親父にクソ女、私を切り捨てるつもりね! 王家なんて馬鹿な奴ばっかりで王太子も口先だけの臆病者だって嘲笑ってたくせに!」
「「黙れクソ娘!」」




