【私の話】 2
お父様のお葬式が終わって間もなく……多分、一ヶ月も経たずに、屋敷に見知らぬ男性がやってきました。
「ユキアさん、この人が新しいお父さんよ。仲良くしてね」
「初めまして、ユキアさん。これからよろしくお願いします」
私はとっさには挨拶出来ませんでした。
その男性の後ろから、もう一人の方が屋敷に入ってきました。男性が声を掛けました。
「どこに行ってたんだ?」
「庭を見てきたのよ。中々良い家じゃない。私の部屋は一番広い部屋にしてよね」
「後にしろ。それより挨拶しなさい。お前の義理の妹になるユキアさんだ」
「ふーん、この女がねえ」
話から察するに、私より少し年上のその方は、男性の娘のようでした。
彼女は値踏みするように私を見た後、鼻で笑いました。
「ふん、なんか野暮ったくて田舎臭い女ね。義理とはいえこんな奴が妹だなんて、恥ずかしくて友達に紹介出来ないわ」
「こら! 何てこと言うんだ!」
男性が私を見て、決まり悪そうに自分の頭に手を当てました。
「いや申し訳ないね、ユキアさん。新しい家と家族で、娘も恥ずかしがっているようだ」
「そんなわけないでしょ。いまのは本心よ」
「お前は黙っていなさい!」
男性はもう一度私を見て、ぎこちない愛想笑いを浮かべるだけでした。お義母様もぎこちなく笑っていました。
義理の姉になる彼女だけが、腕を組んで無愛想にそっぽを向いていました。
結局、私は小さな声で挨拶することしか出来ませんでした。
お義父様はお父様の部屋を使い始めました。
お義母様はお母様の部屋を使っていました。
お義姉様は空いていた一番広い部屋を使い始めました。
お父様とお母様の遺品は、私が気が付いた時にはほとんどなくなっていました。お義母様達に聞いたら、金目の物は売って、そうでない物は捨てたとのことでした。
そうして新たな人達との生活が始まり、しばらく過ぎた時。私がリビングに入ろうとした時に、中からお義姉様達の声が聞こえてきました。
「ねえ、聞いてよ。この前、むしゃくしゃしたことがあったから腹いせに野良猫を蹴っ飛ばしたんだけどさ」
「こら、汚い猫なんか蹴飛ばすんじゃない。靴が汚れたらどうするんだ?」
「新しいの買えばいいでしょ。そんなことより、とにかく野良猫を蹴っ飛ばしたんだけど、部屋に戻ってふと窓から見下ろしてみたら、その猫をあの根暗女が触ってるのよ」
「ユキアのことか?」
「それ以外に誰がいんのよ。とにかく根暗女が触ってて、うっわぁ気持ち悪ぅって思ったのよね」
「確かに気持ち悪いな。汚い猫を触った手であちこち触ってたりしないだろうな?」
「もっと気持ち悪いのが、あの根暗女が触った後に、死にかけてた野良猫がまたケロッと動いたり鳴いたりしてたのよ。何あれ、マジで気持ち悪いんですけど」
「それは本当か? 怖いな、まるで命を弄んでいるようじゃないか」
「嫌だわ貴方ったら。それじゃああの女が死体を生き返らせた魔女みたいじゃない」
「「…………」」
「…………」
お義父様もお義姉様も黙ってしまいました。お義母様も無言になってしまいました。
私はリビングに入れませんでした。自分の部屋に戻って、静かに本を読むしかありませんでした。
それからほどなくして、私は自分の部屋を追い出されて、屋敷の隅の小さな部屋に移されました。
「あの、お義父様? ここは物置部屋ですけど……?」
「娘がお前の部屋も使いたいと言ったのだから仕方ないだろう。どうせ本を読んでいることしかしていないのだから、この部屋でも充分だろうが」
「でも、ベッドもなくて……」
「お前など布団があれば充分だ。本を捨てないだけマシだと思え」
「あの、このお布団、凄く汚れて……」
「一々五月蝿い奴だな! 魔女なら魔女らしく、自分で何とかしたらどうだ⁉ 屋敷に住まわせてやってるだけありがたいと思え! 命を弄ぶ魔女が!」
そう大声で言って、お義父様はドアをバタンッと、思いきり力を込めて閉めました。
小さくて狭い部屋には、書棚に入っていた本と汚れた布団が無造作に投げ出されていました。
そのせいか、その部屋がさらに小さくて狭くて、そして寒く感じてしまいました。
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