6.継ぎ接ぎの女神
6.継ぎ接ぎの女神
「……鼻が、曲がってる気がするんです」
地下アイドルのリナは、手鏡を見つめたまま言った。彼女の顔は、不自然なほど整っていた。皮膚は陶器のように白く、毛穴一つないが、表情筋が死んでいるため、口を開いても目が笑っていない。
「そうかな? 十分綺麗だよ、リナちゃん」
阿久津はデスクでカップ麺をすすっていた。ズルズル、という音が、無機質な部屋に響く。
「違うんです! 小鼻があと1ミリ大きい。これじゃあ、TikTokでバズらない。阿久津さん、あと五十万。これで最後にするから」
「先月も聞いたな、その台詞。君の借金、もう四百万だよ?」
リナがガバッと顔を上げる。その勢いで、鼻の奥からミシリ、と乾いた音がした。軟骨が悲鳴を上げている音だ。
「返します! 次の顔が完成したら、パパ活の単価上げて、絶対返すから!」
阿久津はスープを飲み干し、割り箸をパチンと割った。
「いいよ。貸してあげる。……ただ、普通のクリニックじゃもう君の『修正』は引き受けてくれないだろ? 俺の知り合いの先生紹介するよ」
「えっ、本当ですか!? 有名な先生?」
「うん。腕は確かだ。ただ、ちょっと『実験的』な手術もしてるんだけどね」
阿久津はスマホで地図を送った。 リナは何度もお辞儀をして部屋を出て行った。彼女がドアを閉めた後、阿久津は金城に向かって言った。
「金城、あのクリニックから紹介料入るから。リナちゃんの借金から引いといて」
「……あの『モニター専門』の闇医者ですか? あそこ、麻酔ケチるって噂ですよ」
「美しさには痛みが伴うもんだ。それに、彼女はもう人間じゃない。『作品』だからね」
数週間後、リナのTikTokアカウントが更新された。 包帯だらけの顔。腫れ上がった瞼。しかし、キャプションにはこう書かれていた。 『ダウンタイム中! 完成が楽しみすぎる♡ #整形 #パパ活募集中』
その動画を見ながら、阿久津は呟いた。 「完成なんて一生しないのにね。未完成のサグラダ・ファミリアだ」




