黒いてるてる坊主
ショートホラーで触りだけ書きました、てるてる坊主の完全版です。
火を起こすためには雨が必要だった。
てるてる坊主やそれに類する伝承は大昔からあるようで、1000年以上も昔からあったともいわれる。
黒いてるてる坊主は逆に雨を降らせたいときに使う。
天候を自由にしたいという話は昔からあった。
大昔、人は高台住んでいる。
川は近いが、川の氾濫には巻き込まれにくいそういう場所だ。
そのころからすでに天候を読むものを指導者にたてた村だけが生き残っていた。
邪馬台国の卑弥呼も天候を予言したと伝わる。
さらに昔には火を手に入れるのは雷が頼りの時代があった。”火を起こすためには雨が必要だった”
やはり天候はだいじなのだ。
火打ち石もない時代、雷が落ちるとそこに走っていき火を手に入れる。それは村の長となるためのイニシエーション、通過儀礼だった。深い知識、勇気、体力すべてが必要だ。そして火を分け与える者が神となるのだ。王とは神であり、村をおこす長は王であり神だったのだ。
これには更に大きな秘密がある。
生きることにせいいっぱいでなくなった頃、魂、そして霊は誕生した。冬の時代に消えていたものを取り戻したと言っていい。火を囲むことにより人類は再生したのだ。
真実かは不明だが大錬金術師ルカはそう考えた。
大錬金術師と書いたが当時からそうなのっていたわけではない。物質と生命の秘密を探る自然哲学のいち分野だ。
話を戻すが、村での生活において火は本当に命と同じだけの価値があった。
雷など狙った時に落ちるものではない。取りに行って間に合うかもわからない。わずかな差でも火をなくすものがふえれば、それは積み重なり村を滅ぼすのだ。
火を絶やしてしまえば、子供ならば首を折った後吊るして天に帰される。雨を呼ぶための生贄である。
おわかりだろう、高く吊るされた子が黒く変色する。
黒いてるてる坊主、ひいてはてるてる坊主の原型だ。
雨乞いよりも見せしめの意味があったのかもしれない。
大人の場合は吊らされないが長に火を分けてもらうために今後すべて言う事を聞かねばならなくなる。守り神だった長は支配する主に変わるのだ。
当初はそれでうまくいっていた。
しかしある時、子を吊るされた女が復讐を考える。
これは今までにないことだった。人が魂を取り戻し始めた。そう言って良いだろう。動物でも子は大切にする。人は半端に知恵を手に入れた事でその心を失っていた。
思考により大切なものに順位をつける。守れるものは少ない。守れないものを諦める事に慣れてしまっていた。だから子の首がおられ殺された際にはなんとも思わなかった。それでも子が黒く変色していくうちに自らの魂の声に気がついたのだ。
彼女の葛藤についてはわからない。
火を絶やした子を天に返すことは当たり前のことだった、いやそれに従う必要はない。すべての火が消えたわけでなければつけるのは簡単なはずだ。いや従わなければ、村が危険にさらされる。けれどもどうしょうもなく悲しい。彼女は迷い続ける。
そして彼女は知ってしまう。長は自らの支配力を高めるために私たちの家族の火を消したのだ。
当時は男尊女卑の強い時代、自分ではなく、子の父が長つまり王そして神と話し合った。誰が消したかを決める。父は子を選んだ。子は吊るされる前からすでに生贄だった。その事を知ってしまった。
誰が伝えたのだろうか、悪魔とはそれの事ではないのか。
こうして魔女は誕生した。
満月の晩、彼女自身に特別な力があったのか子に何か取り憑いたのかわからない。
彼女は吸い寄せられるように子の吊るされた木に向かう。
眼球は腐りもうなくなっているのだが、確かに子は彼女を見た。少なくとも彼女はそうおもった。
首をおられ吊るされた子が黒く変色している。
枝に吊るされた子は布にくるまれている。
その枝を折る。
子が死んでから一度も雨は降っていない。雨が降った時点で降ろされるはずだった。
どちらにしても首をおられ死んでいる。早い遅いなど関係ないではないか。
本当にそうだろうか、子の死体が吊るされ続ける事が彼女の心を蝕んた。
そして本当にそれは彼女だけなのか、のろいは伝播しているのではないか。皆何かに怯えている。
雨が降らず川の水量は目に見えて減ってきている。
長の家では次の生贄の相談が始まっていることを彼女は知る由もない。
今日も外は晴れていた。母はそれでも子にかかった大量の雨で長の持つ火を消す妄想に憑りつかれていた。
彼女の心の中に雨は降り続いていたのだ。
長の家には見張りがたっている。
女は取り押さえられ暴行を受ける。子のミイラが叫び声をあげるのを聞いた。これは妄想ではない。彼女以外のものも聞いたのだ。人間に出せる声ではない。
雷が鳴り響き、大雨が降り始める。皆が長の家に逃げ込む。
女は暴行によりもう死んでいたけれど、長の命たる彼の家の火は消えていなかった。
かわりに長が消えていた。長が消えたことにより。長の家の火を消す事になる。火を消す時に火が断末魔をあげたとも伝わるし、その雨はいつまでもやまなかったという話も伝わる。
”私”は子が黒く変色するまで吊るせば雨が降ること。
それでも振らない場合はその母を更に生贄に捧げれば良いことを他の村に伝える。
ようやく洞穴から抜け出した人類は、世界に広がっていく。川の氾濫から巻き込まれずにそれでいて水に近く、食べ物の豊富な土地を目指す。
冬の時代だ。そうしなければ元のほら穴には食べ物がたりなくなる。
こうあっさり書くと広がりはスムーズに行われたように感じるかもしれないが実際には数十年単位の移動である。背負子には毛皮、わずかな水をもつ。あらかじめ場所の目星をつけ、行くものと残るものをきめる。 完全に連絡を途絶えさせるわけでなく、同じ入れ墨や合言葉(挨拶)仲間の証を残し近くの集落は連絡を取り合いつつ生活圏を広げる。
ほら穴を探すだけではたりなければ、毛皮を編んだ寝袋をつくる。それはやがてテントに代わる。縫い物の技術は人類の進歩に欠かせなかっただろう。雨も風も水不足も容易に人々の命を蝕むのだ。
技術が本当に人の生き死に直結する時代。
特に貴重で、発展に寄与したものが火だった。
火があれば暖まれる。火があれば肉を早く食べられ、おなかを壊さない。食べられるものもふえる。木を切るさいの手助けになり、体力の回復もはやまる。獣も近寄らず、夜に教育を行い、計画を立てられた。
火を囲む事で村は形勢された。
だから”私”はその事を伝えなければならない。
火を起こすためには雨が必要だ
”私”はこれを他の村に伝えねばならない。
最後に出てくる”私”とは誰だったのでしょう
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