異世界に来たきっかけ
僕は、日高和幸。何よりもおいしい料理を食べることが好きな、どこにでもいる青年だ。
幼少期は貧しく、ひもじい思いをしていたその反動からか、何でも食べるようになった。
特に、カレーライス、ハンバーグ、カップラーメン、パスタ、ピザが好きで、週5日、毎食このローテーションだ。
カレーライスは、そば屋のカレーから、レトルトパック入りのカレーから、牛丼屋のカレーメニューに至るまで食べた。
牛丼屋にわざわざ行って、牛丼を頼まないでカレーを頼んだ、それに対して何のためらいも遠慮も無かった。
それから、僕は『せっかくグルメ』というグルメ番組を見るのが好きで、タレントが飲食店に行って、その飲食店のオススメのメニューを食べるのを見るのも好きだった。
しかし僕は、ある時、軽トラックにひかれた。
軽トラックなら、大したことはないなどと、たかをくくっていた。
しかしそれが、とんでもない結果を招いた。みんなも気をつけよう。
「こんな形で死ぬなんて、無念だ。もっともっと、世界中のいろんな食べ物を食べたかったのに・・・。」
薄れゆく意識の中で、そう思いながら、僕は死んだ。死んだと思った。
ところが、再び意識を取り戻すと、見たこともない景色が広がっていた。
僕が今までに見てきた景色をいろいろ思い浮かべたが、全く思い当たらない。
「いったい、ここはどこなんだ?」
あてもなく、さまよい歩いた。どうやら近くには、農場らしきものがあるようだ。
そこに、農場を経営しているという家族が現れる。
「やあ、君がアルベルト君だね。」
農場の主人らしき人物が、話しかけてきた。どうやら僕の名前は、アルベルトというそうだ。
農場の主人らしき人物の他に、主人の妻らしき女性と、息子と娘らしき男の子と女の子がいる。
そして、彼らは僕に、こう言った。
「せっかく異世界に来たのだから、異世界の名物料理を食べていきませんか?」
キツネにつままれたような気分だったが、かといって他にどうすることもできなかったので、誘いに乗ることにした。
そして、これがまさか、この先ずっと続いていくことになるスローライフの始まりになるなどとは、この時はまだ思いもしなかった。
草原が広がる。どこまでも草原が広がる中に、建物がポツンとある。
看板がある。そこには『ファミール牧場』と書かれてある。
別の看板には、『ようこそ!ファミール牧場へ!』と書かれてある。