58 幸子の夢
「……おい!
斉藤!!!」
ボヤッとした頭をバフンと叩く音がする。
ハゲ頭の疲れたスーツを着た部長がイライラとした表情で幸子を見つめていた。
「ぐぇ……部長……」
今で何か美しいものを見ていたはずなのに、ドアップになったのが部長だったので思わず酷い声が出た。
「斉藤!!就業中に寝てるなんていい度胸だな!!昨日頼んでいた資料は作成できたのか!?」
「……あ」
パソコンを見ると、作成途中の資料がそのままになっていた。
「……すみません。あと少しでできるので……」
へらっと笑うと、
「明日朝の会議で使うからな!頼むぞ!!」
と、ブリブリ怒りながら帰って行った。
「……はぁ。今日も残業かな……」
モゾモゾと仕事を開始する。
よれたスーツ、ボサボサの髪の毛をポニーテールにして、メガネを掛けなおして、パチパチと資料を作成する。
今までとても大事なことをしていたような気がする……。
その違和感を感じながら、幸子は毎日のルーティーンをこなす。
「……帰ったら今週から始まる新しいアニメ見まくる……」
ボソッと呟き、とにかく急いで仕事を終わらせる。
「あーーー、やっぱり終電になっちゃった……」
ぐったりしながら、コンビニに寄る。
ピンポーン♪
なんだか、このコンビニの音も懐かしく感じて幸子は変な気分になる。
(お…!新しいポテチ出てる。買おう)
ダラダラ歩きながらいつもの道を通って、自分のアパートに着いた。
「ただいまーっ……と」
靴を脱ぎながら、一応声をかける。誰もいないのだが。防犯にいいと聞いてから、ただいまと言うようにしたが、なんとも切ない。
プシュっと炭酸飲料の缶を空けて、いつもの定位置に付く。
ベッドを背もたれにして、その前にある机にコンビニで買ってきた夕飯とお菓子を並べる。
ゴクゴクと音を立てて、炭酸飲料を飲む。
「ぷはーっ!残業にはやっぱり炭酸よね!」
とは言いつつ、酒は飲まない。高いし、弱いからだ。
テレビをつけて、ネトフリを検索し、今週から始まったアニメをチェックする。
「ふぅーん、異世界転生ものが多いねぇ。あ、これは?」
何気なく付けたアニメが始まる。
「……勇者として国を救ったけど、魔王に狙われて聖女に助けを求めてます……だって。なが!!ウ~ン最近のアニメって題名長いよねぇ」
オープニングはカッコいいけど、勇者は切なそうな表情。笑う魔王、そして、まだ姿を現さない聖女。
そして、どこか見たような景色。
男は荒れた国を救うため旅に出る。そこである美しい女性と出会う。
まだ話は1話で、男は勇者ですらない。でも、快活で人当たりが良く、仲間をどんどん増やしそうな雰囲気だ。
女性はヒーラーで、出会ったときから男は恋に落ち、ラブストーリー的な要素が垣間見える。
「こりゃ、この二人うまくいかないよ……だって1話目でいい感じってことはどっちかフラグ立ってるでしょ」
ポツリと危ないことを呟きつつ、新しいポテチを食べる。




