21 優しい手
簡単な挨拶の練習から始まり、時々アレクにもツッコミを入れながら、ソフィアはサクサクと教えてくれた。聖女のお披露目会までは六日しかない。
ダンスも最初は曲を聴き、慣れることから始めた。
曲調は異世界でもあまり変わらないようで美しいワルツがなんだか懐かしかった。
二日目は簡単な足のステップを学んだ。
できるかなぁと不安だったが、ソフィアの教え方がうまいのか、しばらくするとできるようになった。
そして、三日目。
いよいよペアになって踊ることになった。
「実践あるのみ!すぐには踊れないでしょうから、何回も踊ってみましょう」
ソフィアはにっこり笑ってアレクとペアにした。
アレクと向かい合うと蒼い瞳が優しく見つめてくれた。
「そうです!何回足を踏まれても、大丈夫ですから、やってみましょう」
前向きな言葉を信じ、アレクの差し出した左手に右手をそっと差し伸べる。
「よ、よろしくお願いします……」
「はい!」
(ごつごつしてるけど、包容力があってあったかい手……)
戦ってきた男の手ではあるが、アレクの手を握ったとき優しい気持ちになった。
(アレク様って本当にいい人なんだろうなあ……)
とボーっと思っていると、
「さあ、もっと近づいて!幸子様、見とれてないでっ!
左手をアレク様の二の腕にそっと置いて~」
とソフィアの激が入った。
「見とれてるって!」
幸子は恥ずかしくなって何か言おうとしたが、
「さあ、どうぞ」
と、アレクが肩を差し出したので、もにょもにょしながら手を二の腕に置いた。
「ふふ、近いので恥ずかしいですね」
とアレクが囁いた。
「!!……で、ですね!」
(アレク様はなんも思ってないだろうけど、こっちはいろいろ経験ないんだぞ!!)
「ハイ!ワントゥスリー!ワントゥスリー!ワントゥスリー!」
ソフィアの手拍子と声が響き渡る。
(き、キツ……)
姿勢を保つのも足を動かすのも難しく、なんどもアレクの足を踏んだ。転びそうになるとアレクがそっと手を強く握ってくれた。
時々うまくいくと自分がまるでお姫様になったような気持ちになった。
くるくる回る中で、アレクの顔をそっと盗み見ると、にこりと温かな笑顔を見せてくれた。
ドキン……と幸子の胸が鳴る。
(なぁにときめいてるんじゃ私!)
と、自分に叱咤激励しつつ、一生懸命ステップを踏んだ。
「幸子様~肩の力を落として~」
気が付くと肩が上がってアレクをギュッと掴んでいた。
「はあぁぁ。すみません」
と言うと、
「お父上と踊っているようなものですから、緊張しないで」
とリラックスさせようとアレクは言った……と思う。
「ア、アレク様はカッコいいお兄さんです!ハゲデブの父とは違います!」
と、幸子は思わず言い返してしまった。
「す、すまない」
アレクはしょぼんとしてしまった。
「こら!幸子様アレク様!足元がおるすになってますわよ!」
と、ソフィアの指導が入り、その場はうやむやになった。
(……ふーん)
その後何事も無く練習は終わったが、なんとなく幸子は……モヤっとした。




