2 聖女異世界へ
聞き慣れない音が遠くの方で聞こえている。音だと思ったのはどうやら言葉のようだ。祝詞のようなお経のような心地の良い声。時々リーンとトライアングルみたいな耳に心地よい高音が響く。
(あー。これは夢か。仕事で疲れてるから変な夢見ちゃうんだ。うん。空飛んでる夢はそこから自由になりたいだとか、空から落ちてる夢だと精神不安定とか夢占い子供の頃やったなぁ。……ん、落ちてる……落ち……)
「ぎゃ!!」
不意にエレベーターが落ちたことを思い出し、ガッと目を覚ました。
「お、おお!!」
と、大きな声とともに眼の前に覗き込む金髪碧眼の美しいおじさまの顔が現れた。
「うわぁぁぁあ! 」
慌てて飛び起きる。そして周りを見ると何人か昔の西洋の貴族みたいな人々が幸子を囲んでいた。
幸子は魔法陣のようなところの真ん中に、スーツ姿のまま座り込んでいた。
「え、何ここ? どこ? 」
キョロキョロしていると、先程のおじさまが赤いマントを揺らして深々とお辞儀をした。
「聖女様、お呼び立てして申し訳ない。国が危機にに瀕しております。私はオルランド国の王、アレクサンドル・エレストリアム。魔王との戦いにぜひお力を貸していただこうとお呼びいたしました。」
「へ……。せいじょ……、まおう?? 」
頭の中には最近流行りの転生物やら悪役令嬢物やらが浮かぶ。で、でもさ、現実自分の身に起きるとか……。
「ええ、聖女様。王としての最後の魔力を使い、こちらの世界に来ていただきました。どうぞこの国をお救いください。」
(さ、最後の魔力……重い……。)
深々と頭を下げる自分より年上の王様に、何をどうしたらよいか分からず戸惑うしかできない。
「あ、あの……」
ぐぅぅぅぅぅぅー
と、場に似つかわしくないが、幸子のお腹が盛大に鳴った。
「聖女様が長旅でお疲れだ。皆の者料理を用意せよ。」
侍従と思われる壮年のスーツを着たおじさまがお辞儀をして、手配の為退出する。
王様はくすりと笑って「さぁこちらへ」と、サラリと美しい動作で手を差し伸べて、手を引こうとする。身長は185cmほどありそうだ。
「あ、あの……」
エスコートに慣れている日本人などいないが、美しい王様にスッと立ち上がらせてもらうと幸子は真っ赤になってしまった。
「父上、私が案内いたしましょう」
王様の横から、これもまた美しい金髪碧眼の若い男性がスッと現れた。
「あ、あの……」
「私はエリック・エレストリアム。オルランド王国の第一王子だ。遠いところお呼びだてして申し訳ない。食事をご用意してある。共に参りましょう」
美しい王様と王子に、どちらに従えばいいのか考えあぐねていると、
「それではまた後で」
と王様は手を引き、優しい笑顔を向け退出する。幸子はなんだか分からないままペコっとお辞儀をして、そのまま王子に連れて行かれる。