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PLS  作者: 城弾
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第16話「Nervous」Part1



 体育祭が終わり、しばらくしてから試験の期間に入る。

 だがそれがあけたらもう一つの行事。文化祭が待っている。

 それに備える準備も必要である。


「それでは、文化祭の出し物を決めたいと思います」

 現在2-Dはホームルーム中だった。

 この言葉からわかる通り、文化祭のクラスでの出し物を選定中だった。

「定番といえば喫茶店かお化け屋敷だな」

 挙手もせずに反町満が意見を口にするが、誰も咎めない。

 若干人数は多いが、ブレインストーミングという形式をとっている。

 とにかく意見を出させる。対抗する意見もありだが、別の意見の否定は許されない。

 出そろった意見から絞っていく。

 ブレインは「頭脳」。ストームは「嵐」で、まさに嵐のように意見が飛び交う。

「抽選に勝てたらな」

 定番すぎて希望が多い。だから抽選になる。

「それじゃ演劇は?」

「おう。スタントなら任せな」

「いやいや。芝居は芝居でも舞台で、映画にするわけじゃ」

「この町の歴史などを調べた展示ではどうでしょう」

 挙手不要にもかかわらず、手を上げてから詩穂理が意見を言う。

「うーん。それもありだと思うけど、まずは他の意見も聞きましょ」

 小悪魔という印象を抱かせる顔立ちの左右田亜美が他を促す。

 いうまでもなく本心では「そんな地味でつまらん出し物は嫌だ」である。


 さまざまな意見が出される。活発な会議だ。

「でもどれに決まってもなんだか横やりが入りそうだわ」

 学園のアイドル。まりあが言う。

 瞬間、空気がざわつく。偶像に対するそれではない。「突っ込み」を入れるタイミングを見計らっている。

「うちのクラス。どういうわけか生徒会に睨まれているのよね。なんでかしら?」

(間違いなくお前のせいだよ)

 まりあが言うとその場の大半が突っ込む。

 生徒会長。海老沢瑠美奈とまりあは犬猿の仲だった。

 だから何かと目の敵にされる。

 元々の仲の悪さに加えて、最近では優介を巡る攻防もある。

 関係は悪化。むしろ『激化』している。

 2-Dはその巻き添えを食っている。


「とりあえず『お化け屋敷』を第一希望。喫茶は第2希望くらいで出しとけば?」

「でもただの喫茶店じゃ面白くないわよね」

「それじゃあ『フットマン喫茶』なんてどう?」

 まりあの提案に一同首をかしげる。

「フットマン?」

「知らない? 男の使用人よ」

「それって…執事じゃない?」

「もう。まりあったら。いくら世間知らずでもそのくらいはちゃんとしてよ」

 文字通りの爆笑が起きる。しかし当人は怒らない。きょとんとしている。

「執事ってもっとおじいちゃんかおじさんよ」

 ここで見解の相違を感じ取ったクラスメイト。

 まりあの言うのは「本物」だ。

「うちにもいたけどフットマンをまとめ上げているのが執事よ。女の子に人気なのはこれだってうちのメイドが言うから言ってみたんだけど」

 本人にやり込める意図はない。ひけらかす意図もない。

 ただ単に「知ってることを告げた」だけである。

 一同黙り込む。

 気さくな性格だし、ここしばらくは優介相手になると人間臭い一面を前面に出していたのもあり、彼女が「お嬢様」であることを忘れていた。

 何のことはない。住む世界が違っていたのだ。

 もっともこれを言うと本当に怒るだろうから誰も言わない。


 空気を読んだクラスメイトの女子。出席番号44の水島あずさが言葉を発する。

「メイド喫茶じゃなくて?」

 アキバ系でサブカルに強い彼女はこういう話に強かった。

 ちなみに160センチ半ばだが、眼鏡とツインテールという見た目もそれに由来。

「うん」

 そこから発展するのではなく、いきなり『執事』たった。

「いいじゃない。お嬢様たちのおもてなしなら任せてよ」

 この女好きにやらせたら、どんな「おもてなし」をするかわかったものじゃない…これまた突っ込まれる恭兵の言葉。

 それはさておき話が転がりだした。だが

「ううん。執事はみんな女子が担当よ」

「「「「え!?」」」

 女子のほとんど『目が点』になる。せっかく転がりだした話を、またまりあが止めてしまう。


「……まったくもう……終わったことなのに、いつまでわたし『男の子』扱いなのかしら? こんな可愛いピアスだってしているのよ」

 ぶつぶつとつぶやきながら髪をどけると、そこには天使の羽をかたどったピアスが。

 物の見事に校則違反だが、なぜかスルーされていた。

 もっともピアスなら恭兵もしている。

 本来ならなぎさや美鈴。まりあのリボンもアウトだが大目に見られていた。

 詩穂理もこの長い髪はまとめないとダメなのだが、これも黙認されていた。

 下手にいじると「色気がましすぎて」むしろよくないという理由。


 まりあはピアスホールをあけたらピアス集めが趣味になり、気に入ったものは片っ端から買ってしまうようになった。

 これは前日に購入したものだ。


「だからみんな、わたしがやったみたいに男装ね」

 何のことはない。クラス全女子を巻き込んでのもみ消しである。みんな唖然としている。

「大丈夫よ。服なら用意してあげるから。そうねぇ。執事ばかりじゃなくて、男装ならなんでもありにしようかしら?」

 だんだん危ない表情になってきたまりあ。

「たとえばなぎささんは応援団スタイル」

 なきさは、オーソドックスな応援団スタイルを想像した。

 丈の長いいわゆる長ラン。下もズボン。

 ポニーテールではなくもっと下で髪をまとめ、白い手袋で手を振っている。

(あ。いいかも)

 もともと体育会系の上にスカート嫌いのなきざである。抵抗は少ない。


「詩穂理さんは教師ね。髪を切るのはかわいそうだから、わたしみたいにウィッグで。そしてスーツ姿」

 これも想像してみた詩穂理。

 グレーのスーツ。短い髪。眼鏡はそのままだが、短い髪と服のせいで男に見える。

(勉強教えるのはいいんですが、男装はちょっと…)


「美鈴さんは小学生の男の子。もちろん半ズボン」

「え!?」

 想像する。半ズボン姿。それを強調するため上は冬らしいジャンパーだ。

 小学生といえばランドセル。はじめから髪が短いので、リボンをはずしただけだ。

(美鈴がいくら小さいからって小学生はあんまりですぅ)


「だったらお前もやるんだろうな。まり太?」

「えっ?」

 優介に突っ込まれて思い出した。この状況では自分もやる羽目になる。

 自分からさらに『男子姿』を更新しては意味がない。

 だがちょっと意地になった。やり返す。

「ええ。いいわよ」

 意外! 彼女は肯定した。しかし当然だが「代わり」があるっ!

「その代り男子はみんなメイドになりなさい」

 ざわっ。どよめきが起きる。

「あのさ、高嶺。一応聞くけどメイドというのは本来は女の使用人を束ねる管理職で男がやるとかは……」

「ううん。こっちは普通に女の人よ。でもうちみたいに若いのは珍しいみたい」

 体育祭の時も来たのでみんな知っている。確かにあの三人は若く、そして美人だった。

 女子はよいが自分たちがメイド服は…逡巡する男子生徒たち。

「…いや…ちょっと無理が…」

「一部例外はいるが…」

 全員が優介を見る。男子の視線が集中して「いやん」と余ったる声を上げ、ほほを押さえて照れる優介。

 確かに似合いそうだ。見事な男の娘になるだろう。

 男子は軽く妄想してみた。

 オーソドックスな濃紺のメイド服。白いエプロンはひらひらフリル付き。

 化粧して明るい笑顔で「おかえりなさいませ。ご主人様」

 困った。並みの女子よりかわいい。

 道を踏み外しそうだと感じた。やばいからやめようとも。


「おいおいまりあ。勘弁してくれよ。僕に女装しろと?」

「そうよ」

 恭兵の言葉だけになおさら冷たくあしらうまりあ。

「やめてよ! まりあ」

 悲鳴を上げたのはなぎさ。恭兵のファンは多いが、こうしてまりあに突っ込めるのは少ない。

「キョウ君に女装なんてさせないで。スカートだったら代わりにあたしが穿くから」

「女の子がスカート穿いて何が面白いのよ?」

 とはいえどなぎさの制服以外のスカート姿はレアである。


「オレはやってみてもいいけどな。女怪人なんかもやるかもしれないから、スカートの足さばきをマスターするいい練習だ」

 スーツアクター志願の裕生が言う。

「ヒロくん…ヒロくんが女装なんて…それくらいなら私が水着姿で」

 好きな男子が「女装OK」という発言をしたことに完全に錯乱している詩穂理。

「文化祭は11月よ?」

 当然だが寒い。いや。真夏でも校内で水着姿は異様だ。

「俺もか?」

 低い声が高い位置から発せられる。2メーター近い巨漢。大地大樹だ。

「う……」

 物事には限度というものがある。

 よけばいいのに全員が脳内シミュレーション開始。

「……」

 軽く吐き気をもよおした。どんな格好…女装も個人の自由だが、これはさすがに許容範囲を超えている。

 まりあも引き際を察した。

「そうね…この案はひっこめるわ。執事も撤回」

 結局まとまらなかった。


 放課後。テストも近いため部活動は休止。

 学校の図書室で勉強するものもいれば、帰宅してからのものもいる。

 大樹。双葉の兄妹と美鈴は後者だった。

「えっ。お兄ちゃんが女装?」

 びっくりする双葉。

「あはは。それでさすがに無理だってなって、結論は次回に持ち越されたの」

 一つ下の幼馴染に楽しそうにしゃべる美鈴。

「……いいなぁ……」

「えっ? 大ちゃんのメイド姿見たかったのっ!?」

「それはちょっと……」

 兄に対する盲愛あれど…むしろそれゆえに女装はさせたくなかった。

「そうじゃなくて。美鈴ちゃんはこんな風にお兄ちゃんと一緒のクラスにもなれて、そんな楽しい時間を過ごせていいなって思ったの」

 こんな風に言われたらたいていは「仕方ないじゃないか」と諭す。

 だが人の良すぎる美鈴はバッサリと切るというまねができない。

「うーん。双葉ちゃんが双子の妹で同じ学年ならなんとか」

 つい「これならありかも」というケースを提案してしまう。

「それでも兄妹じゃ別のクラスだもん」

 区別の問題ゆえか双子は分けられる。

「……」

 言葉が出てこない。大樹はもともと無口だが、女子二人も口を閉ざしてしまった。

 駅までの道のりを重い雰囲気で歩いていく。


 美鈴は知っている。

 大樹と双葉。この二人に血の繋がりがないことを。

 だからこの「義妹」の「危険な愛情」が別の意味を持つことをわかっていた。

 もしも縛り付ける「血のつながり」がないと知れば。

 そしてひとつ屋根の下。いつでも会いに行ける。


 美鈴は誰かに相談したかったが、どこから「秘密」が漏れるか知れたものではない。

 ゆえにその小さな胸にしまいきれない思いを秘めていた。


 同じころ。とあるスタジオでは優介。まりあ。詩穂理。そして理子が集合していた。

 試験前で部活は休止なので学校の設備は使えない。

 そのためこうしてスタジオを借りていた。

 もちろん学園祭のための練習が目的だ。


 まりあはピアノを幼いころから習っていた。

 だから音楽的センスはあったが、キーボードとなると勝手が違う。

 詩穂理も中学でやっただけで「ブランク」がある。

 理子もたぶんそうだろう。

 そして何より、即席バンドなのだ。一番大事な「呼吸」の問題がある。

 だからこうして練習に来た。しかし時期が問題だ。


「試験前なのに……」

 ため息をつく詩穂理。制服姿。全員学校から直行した。

「あら? 日ごろから勉強を欠かさない詩穂理さんならあわてないと思ったけど? それとも一位死守したいの?」

「原因がわからないのに陥落したら確かにショックでしょうけど、こうして『原因』が分かってなら納得はできます。ただやはりきちんとしてはおきたいです」

「勉強のほうは日ごろからしているから何とかなるわ。でもこっちはちょっとやそっとじゃ無理よ。時間が惜しいのはこっち」

「相変わらず強引ね」

 いい加減まりあのキャラクターを理解してきた理子がつぶやく。

 皮肉とかではなく、率直な感想だ。


「始めよう。いろいろもったいない」

 これだけ美少女がいながらにこりともしない優介。

 彼の姉も妹も美少女ぞろい。それが女系家族ということで、あられもない姿でうろついてたりする。

 要するに『免疫』ができている。

 つまり女子に対して容易にはときめかない。

 むしろ自分以外の男子のほうが未知の存在。「ときめいた」。

 だから彼は男子相手にアプローチをかける。


 理子に対してだけはその正体ゆえ愛想がよかったが、現在の状況はまりあの思う壺でいささか癪であった。

 それが理子に対しても仏頂面だった理由。


「そうね。スタジオ代も時間ももったいないわ。ある程度は弾けるし、合わせることに念頭を置きましょ」

 さすがは「男同士」ということか。理子が優介に同調する。

「リーダーは軽音楽部正式メンバーの彼でいいとして、演奏の時は私に合わせて」

 オーケストラのように指揮者のいない「バンド」である。

 基準はドラムが奏でるリズムなのだ。

 音楽的知識は十分な一同なのでそれはすぐに理解する。確認という方が近い。

「特に槙原さん。あなたも大事よ」

「は、はい」

 もう一人のリズム担当はベースギター。

 中学の時に経験があるからと詩穂理は担ぎ出された。

 ご丁寧にまりあが用意させた左利き用のベースを使ってである。

 彼女のきっちりとした性格はリズムにも表れている。


 そしてメロディ担当ともいうべきキーボードのまりあとギター兼ボーカルの優介。

 どうも弾き語りとなると勝手が狂うけど、バンドでのボーカルになると普通にできるからわからない。


 正体が男だからでもあるまいが、理子のドラムはパワフルだった。

 リズムよりそのバワーに引っ張られる。

 むしろ詩穂理のベースのリズムが基準になっていた。

 それに合わせてキーボードとギターが奏でられる。


 帰宅した大地兄妹。部屋着に着替える。

 大樹はTシャツと相変わらずの迷彩ズボン。ミリタリー趣味はないのだが、この柄が一番似合うのである。

 双葉は七分丈のシャツとジャンパースカート。ゆったりとした楽な格好だが、だらけるというより家事のしやすい格好ということである。

「お兄ちゃん。今日体育じゃなかった?」

「ああ」

 大樹が何を持って登校したかはきちんと把握している。

 その上、窓から大樹のいた体育の授業を見ていた。

 2メーター近い巨躯は確かに目立つが、たとえ彼が平均的な体格でも双葉は見つけ出せる自信があった。

「それじゃいっしょに洗うから出して」

「そうか?」

 素直に体操着を差し出す。そのいかつい顔からはイメージできないが、きちんと折りたたまれて収納されていた。

「だが、いいのか?」

「何が?」

「お前のもだろう」

 男物と一緒に自分の衣類を洗うのを嫌がる女子も多い。

「もう。兄妹じゃない」

 双葉は笑顔で言う。それはどこかぎこちない。

「そうか。なら頼む」

「うん」

 今度は心からの笑顔だ。


 洗濯機に洗濯物を入れる。双葉も体育だったのだ。

 後は終わるのを待つだけなのだが、双葉は動かなかった。

(兄妹…か)

 自分で言ったその言葉が、さりげなくのしかかる。

(いつかはお兄ちゃんも他の女の人と結婚しちゃうんだよね。相手は美鈴ちゃん? 槙原先輩?)

 美鈴は自分にとっても大樹にとっても幼馴染。

 長い時間を共有してきた仲だ。

 そして偏見で見られることの多い大樹に、やはりちょっと偏見で見られるからか?

 優しく接した詩穂理に大樹が好意を抱いているのもわかる。

 どちらに対しても敬意はあれど蔑視はしてない。

 だが、少し「敵意」が芽生えてきた。

(お兄ちゃんのこと、こんなに好きなのにどうしてわたしはおにいちゃんは血が繋がっているんだろう?)

 ぼんやりと…心の奥底にしまっていた思いがにじみ出る。

(血がつながってさえいなけれれば、思いを伝えることもできるのに…)


 自宅に戻った美鈴は「女児服」とミニスカート姿になる。

「女性服」ではなく「女児服」。子供用である。

 小柄ゆえに着ることができるのである。

 また美鈴にはそういう方がやたら似合う。

 着替えて落ち着いたか、ちょっと別のことを考え出す。

(双葉ちゃんはああいうけど、代わりに一つ屋根の下なんだよね。いつも一緒。そっちの方がいい気がするけどな)

 あくまでそれは血のつながった家族だから平然としていられる。

 それがもし「他人」と知れば、そして思いを募らせていたら生殺し。

 下手な「告白」で「関係」が壊れる…それは普通のケースでもある。

 友人から他人になってしまうならまだいい。

 そんな気まずい相手と暮らし続けるのだ。

 そして口にしたら最後。もう普通の兄と妹には戻れない。


(だからこのままがいいんだよね。双葉ちゃんはあくまで大ちゃんの実の妹と思っていれば…)


 洗濯が終わって双葉はそれを干している。

 小さな一軒家だが物干しのスペースくらいはある。

 衣類を順次干していき、大樹の体操着の番になる。

 ふと彼女は遠い目になる。正気を失うという感じが近い。

(……お兄ちゃん……)

 まるで体操着が大樹本人であるかのように、愛しげに抱きしめた。

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