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PLS  作者: 城弾
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第5話「Maria Club」Part3

「さ…里見さんっ!?」

 綺麗な声が裏返るほど動揺する詩穂理。

 当の恵子は他の面々が怪訝な表情をするのにお構いなしで、笑顔で詩穂理に歩み寄る。

 そしていきなり詩穂理の胸に手を当てる。

「や…やめてくださいっ。里見さん」

 決定的に運動神経のない詩穂理は逃げることも出来ずに恵子に捕まる。

「いーじゃん。去年まで同じクラスだったし、久しぶりのスキンシップだニャン。うわー。相変わらず大きくて、そのくせ柔らかくて気持ちいいんだニャン」

 休むことなく手が動く。顔を赤らめて身をよじる詩穂理だが逃げ切れない。

「そ…そんなに触りたいなら自分のを触ったらどうなんですかっ?」

 とんでもないことを口走っているのに気がつかないほど、追い込まれている詩穂理だった。

「それじゃつまんないんだニャン。やっぱりDよりF…話じゃGになったんだっけ? より大きい方が触ってて楽しいし」

(つまり…この人Dカップなんだ…)

 女同士の危ないスキンシップにドキドキしながら美鈴はそこに考えがいたる。

 そして先刻やはり胸で屈辱を味わったまりあを見上げる。

「がんばろうね。まりあちゃん」

 がっしりと握手。

「何をよ!? それに止めないと」

 魅入っていたが二人を引き離しに。

「た…助かりました…」

 礼を言う詩穂理だが、髪と衣類が乱れて、上気した頬であえぎ声。これじゃ若い男じゃなくても変な気分になる。

「………」

 まりあは自分も優介と同じにならないように「諸悪の根源」たる恵子に抗議する。

「一体なんなの? あなた」

「いやぁー。失敬失敬。久しぶりに見たら詩穂ちゃんまた胸が大きくなってて。感動してつい」

 当たり前だが語尾の「ニャン」はキャラ付けに過ぎず、必ずつくわけではない。


「改めて自己紹介。アタシはA組の里見恵子。詩穂ちゃんとは一年のとき同じクラスだったのだ」

 一言で言うなら「アニメ声」で喋る恵子。これは演技というより地声らしい。

「それで。その同性愛少女が何の用かしら?」

 優介が同じく「同性愛」なこともあり、「同類」相手には自然と口調がきつくなるまりあ。

「さっき言ったニャン。協力したいって」

「なにが狙い?」

 支持者とも取れるが、打算を先に疑うのも無理はない。

「恭×優」

「は?」

 何を言ったか理解できない4人娘。一年では同じクラスだった詩穂理もだ。

「やっぱり美形二人は絵になるよねぇ~。でもワイルドな風見君との『裕×優』も捨てがたいなぁ」

「絶対ダメぇーっっっっっ」

 二つの例を挙げられて理解したとたんに拒絶の声を上げる少女たち。

「えー。いいじゃない。独占しないでアタシにも見せてほしいニャン。選挙戦に協力するから」

「あなた誤解してるわよ! 優介は…優介は…」

 断言したくとも否定しきれない優介の行動。声の小さくなるまりあ。

 代わりというわけではないがなぎさがまりあ…というより恭介の名誉のために怒鳴る。

「あるわけないでしょ! キョウ君はとっても女好きなんだから。いくら可愛い顔していても男の子にはなびかないわよ」

 自分でいっていて虚しくなってきた。

「あ…あの…里見さん。それでどうやって協力しようと?」

 また赤くなっている詩穂理だが「過激なスキンシップ」の残りではなく、自分の好きな少年が美少年相手に迫っている図をイメージしたからである。

 もちろん喜ぶはずはないが、禁断のものを想像した自分を恥じ入っていた為である。

「それなんだけど…よかったらまりあちゃんのお家にお邪魔したいな」

 どうやら男男交際以外にも目当てがあるらしい。ずうずうしく上がりこもうという形である。

 まりあとしては金銭的に痛くも痒くもないが、なにしろこの胡散臭さは警戒せずにいられない。

「作戦を相手陣営に聞かれたくないから」

 この一言が決め手で恵子。詩穂理。なぎさ。美鈴はまりあの家に立ち寄ることに。


 バスではなく自家用車を呼んでまとまって移動する。メイドの雪乃が運転して来た。

「なんで普段はバスなの?」

 この質問は恵子ならではである。他の三人は優介と登校する目的と知っている。

「社…社会勉強よ」

 同士ともいえるなぎさたちにはあかしても、この怪しい少女にはそんなところまで喋りたくなかった。


 まりあの家に着くと拍子抜けしたような少女たち。

「普通の家でビックリした?」

 可愛らしい声にちょっと毒気を混ぜて尋ねる美少女。

「う…うん…ちょっとね」

 美鈴が素直に言う。

「もともとは他の人の家だったのよ。引越しの時に売りに出していたから、他の倍で買い取らさせてもらったの」

 あっけらかんと言い放つ「お嬢様」に世界の違いを実感するなぎさたち。

「それならどうしてもっと学校の近くにしなかったの?」

 どうやら通学のための拠点と解釈したらしいネコミミ娘。

「決まってるじゃない。隣が優介の家だからよ」

 恋のために隣家に引っ越す娘も娘なら、家を買い与える親も親だなとまりあ以外の四人が考えた。

 運転手を務めた中川雪乃が玄関前に立つ。そして深々とお辞儀をする。

「お客様。ようこそいらっしゃいました。どうぞおあがりください」

 扉を開いて少女たちを招き入れる。


「うっわぁーっ。可愛いーっ」

 少女趣味全開のまりあの部屋でこんな反応をしたのは美鈴と恵子。

 外交辞令でないのははしゃぎっぷりでわかる。

「あー。このぬいぐるみ。限定版でしょ」

 その手の知識が豊富らしい恵子。

 一方、ドン引きだったなぎさと詩穂理。

 両親と兄三人の男の多い家で育ったせいか、どちらかというとこういうものには馴染めないなぎさ。

 詩穂理もその堅い性格ゆえか簡素な部屋である。

 両名とも女の子らしい部分がないわけではないことを、名誉のために付け加えておく。


 まりあが私服に着替えて「作戦会議」が始まる。だが…

「そんなこと出来るわけないでしょ!?」

 まりあが怒り、まだお茶も運ばれてこないうちに話が終わりかけていた。

「えー。まりあちゃん可愛いんだから活かさなきゃ損だよぉ」

 抵抗する恵子。

「イヤッたらいや! そんな恥ずかしいことを出来るわけないでしょ」

(校内で男の子を公然と追い掛け回すのは恥ずかしくないのかしら?)

 思うだけで口には出さない詩穂理。

「失礼いたします」

 人数分のお茶をメイドの雪乃が持ってきた。まくし立てていたまりあも、いくら「身内」の前でもおとなしくなる。

 丁寧に紅茶を淹れ、客と主に提供する。

 少女たちは礼を言ってそれを受け取る。

 それで終わりではなかった。

「失礼ですがお嬢様。やってみてはいかがでしょう?」

「……聞いてたの?」

「申し訳ありません」

 一応は頭を下げるが、全然悪びれたところのない雪乃。

「金品をばら撒けば選挙違反なのは当然ですが、それなら抵触はしないと思います」

「まあインパクトはあるよね」

「うん。美鈴もちょっと見て見たいな」

「あなたたちまで!」

 味方をすると思ったなぎさと美鈴まで恵子の支持をする。

「可愛い猫さん。ここまでいらしたのは持ち物を見たかったからでしょう?」

「あったりぃ」

 まさにわが意を得たり。そんな笑顔の恵子である。

 どうやら車中の会話で雪乃に事情がばれていたらしい。

「ご案内します。おいでください」

「はいはーい」

 嬉々としてメイドの後ろをついて行く恵子。さらに美鈴も同行する。

「ちょ…ちょっと。わたしやるなんて一言も…」

 その肩を詩穂理が叩く。振り向くとため息をつくながら首を横に振る。

「ああいう人なんです。観念した方がいいです」

 まるで自分が当事者であるかのように、絶望したように言う。


 翌日。最後の授業が行われている時に一台のトレーラーが、学校の外に停まる。

 広い学校のため曲がり角と曲がり角の間が広く、駐車違反にはならなかった。

 騒然となる生徒たち。

 その中で頭を抱えているまりあ。そして苦笑している詩穂理となぎさであった。


 放課後になると開き直ったかまりあは早足で下駄箱に。

 瑠美奈がいるのも無視してである。

「なによあいつ? アピールしないで帰る気?」

 放課後は選挙演説にもってこいだった。それなのに学校の外に。

 さすがに気になり後からついて行く。


 まりあは一目散に停められたトレーラーの方に。

 バス停とは反対だからバスに乗るつもりもない。

 そのトレーラーの運転席から金髪のメイド・高山陽香が顔を出す。

「お嬢! 急ぐんだろ」

「わかってるわよ」

 不機嫌そのものの声だ。

「お嬢様ぁ。スマイルスマイル」

 メガネのメイド。杉本八重香が見本のように笑いながら、トレーラーのキャリアから呼びかける。

 既に扉が開いている。

「さぁ。お嬢様」

 リフトアップではなく、タラップがかけられている。その方が早いからだ。

 急ぎ足でまりあが乗り込む。そして扉が閉じる。

 いつの間にか生徒たちが周りを取り囲んでいた。それも当然。こんな異常な事態で関心を持つなという方が無理だ。

 待つこと十分。扉が開くと「ギャラリー」からどよめき。そして歓声が上がる。

 まりあはピンクのワンピース。それもフリルとレースを多用したそれに身を包み、作っているとは言えど満開の笑顔を振りまいていたのだ。

 しかも頭には白いウサギの耳が。

 いわゆる『萌え』コスチュームだった。

 『不思議の国のアリス』をモチーフにしたコスチュームだった。

 その「属性」のものたちは「嬉しい不意打ち」に歓声を。

 そしてない者も正統派美少女のまりあの魅力を増幅させる愛らしい服装にKOされていた。


「ふっふっふーん。大成功。ミッションネーム。『まりあ・イン・ワンダーランド』ってとこかしら?」

 中庭から外を見てご満悦の恵子である。コスプレイヤーの彼女ならではの発案だった。

 そして常々まりあをおもちゃに…じゃなく愛してやまないメイドたちが乗ってきたのだ。

 恵子が近所の喫茶店でも出来そうな『作戦会議』をわざわざまりあの家に押しかけてしたのは『衣装』のチェックが目的だったのだ。

 ちなみに服自体はまりあの趣味に合致していたが、彼女が拒否したのは『ウサミミ』だった。

 ましてやそれで人前で愛想を、それも優介以外の男相手に振りまくなど我慢できなかったが押し切られた。

「うわぁ…あたしだったら(選挙戦を)ギブアップしてでもあれは着たくないなぁ…」

「そ…そうですね。ちょっとあれは…」

 同意する詩穂理。ただし服自体は自室で一人なら試着してみたい気持ちも。

「でもまりあちゃん可愛いねぇ。恵子さんの目は確かだったんだね」

「まぁまりあなら可愛い方向で行けばまず外さないだろうけど」

 確かに顔立ちのせいもありボーイッシュなものよりは「少女」を前面に出したものの方が合う。

 三人を他所に盛り上がるギャラリーであった。


 もちろん黙ってられない瑠美奈である。

「あの女。色仕掛けとは姑息な手を」

 歯噛みする。

「大丈夫ですよぉ~~~~瑠美奈様」

「何を根拠にそんなことを言うのよ。クレームつけて止めさせてやるわ」

「そんなことをしたら『敵』の思うつぼですよ。イメージダウンになります」

「くっ。そんなことまで考えているとは、相変わらず腹黒い女ね」

 勝手な解釈である。恵子はそんなことまで考えていない。

 ただ単に学園一の美少女を自在にコスプレさせたかったのが動機である。


「だったらどうしたら良いのよ? ここで地味な演説したって効果はたかが知れてるわよ」

 頭脳担当の土師に当たるように言い放つ瑠美奈。

「目には目を。歯には歯を。そして…コスプレにはコスプレを」

「ええっ?」

「実はこちらも考えてたんですが、やり過ぎを怖れて封印してました。しかし敵がやってくるならこちらも応じるだけ」

 言うなり彼は携帯電話を取り出してコールする。

 そしてくどくど説明しないでコードナンバー「3821」を声で。ちなみに英語の読み方だ。

 あらかじめ決めていたらしい。

 五分でトレーラーが到着した。

「なんで? 何でそんなに手際がいいのよ?」

「実は選挙戦初日から用意だけはしてました~~~」

「無駄にならなくてよかったですよ」

 土師が目で合図すると、荒事担当の辻がひょいと瑠美奈を「お姫様抱っこ」する。

「いーやぁーっっっっ」

 瑠美奈はコスプレを拒否して悲鳴を上げるが、辻はそれを軽く無視してそのままトレーラーのキャリアに飛び乗る。


 こちらも十分ほど待つと瑠美奈が現れた。

 どうやら開き直ったらしい。巻き返しもあり笑顔である。

 ボディにぴったりとフィットしたスーツは、ワンピースの水着のような構造。

 ブーツとグローブにも毛皮が。三色のカラーリング。

 スーツのヒップからは三色の「シッポ」が。

 頭にも同色の「ネコミミ」が。

 つまり猫をモチーフにしたスーツを着ていた。

「ウサギさんには猫さんで対抗です~~~」

「あちらが顔の可愛さを強調するなら、こちらは瑠美奈様のプロポーションを強調するまで」


「あいつぅ~~~~」

 ギャラリーの大半を持っていかれたまりあは、さすがに怒りの表情に。

「想定の範囲内ですよ。お嬢様」

 雪野は言うなりまりあのワンピースの襟首に手をかけて、力任せに下へと引っ張った。

 仕付け糸でとめられていたワンピースは、女の力で簡単に引き裂かれ『中身』をむき出しにする。

「きゃああああっ」

 その本気の悲鳴で注目がまりあのほうに。

 すると真紅のバニースーツをまとっている。

「こ…これ(体形補正用の)ボディスーツじゃなかったの?」

「世の中にはバニースーツというものもあるのですよ。勉強になりましたね。お嬢様」

 とは言えど胸が寄せて上げられ、いつもよりメリハリのあるボディに見える。

 別に珍しくもないバニースーツだか、それを現実に目の当たりにするケースはそんなにない。

 だから注目が集まる。

「みなさぁん。高嶺まりあに清き一票を」

 もうやけくそで叫ぶが、こんなに選挙活動に相応しくない格好も珍しい。


「破廉恥だわ。あんなに露出させて」

 自分のことを棚にあげて瑠美奈が叫ぶ。

「ふふ。予想通り。だから」

 まりあのとき同様に辻が猫スーツの背中のひもを引っ張る。

 胸と腰を残して布がはがれる。ビキニスタイルだ。

「いやぁぁぁぁっ」

 デコが広いとは言えど美少女。それが公衆の面前で「男」に服を引き裂かれる。

 メイドの雪乃がそれをしたまりあよりインパクトが上回った。

「さ…寒い。寒いわよっ。これ」

 五月である。まだビキニには早すぎる。

 しかし色仕掛けは的確に成功。再逆転。


「あ…あんなことまで」

 さすがに肌まで見せるのはこのスーツが限界。

「大丈夫ですよ。何のためにわざわざトレーラーまで用意したと思っているんです?」

「え? まさか…」

「当然です。衣装の替えはいくらでもあります。向こうが露出で来るならこちらは逆アプローチで」

 再び引っ込むまりあ。もはやギャラリーも次のコスプレを待っている。

 そして出てきたときには舞妓になっていた。

「み…皆さん。うちに投票しておくれやす」

 東京生まれの東京育ち。身内に西日本出身者すらいないまりあの「京都弁」はひたすら怪しかったが、それでも充分に通用した。


「和服には和服です」

 萌えの定番。巫女装束になる瑠美奈。


 魔法少女・リリカルまりあVS変身少女キューティー瑠美奈。

 メイド服対決はまりあが英国型。瑠美奈が米国型。

 ピン○ハ○○まりあVSゴスロリ瑠美奈。

 そんな感じで続いて行きもはや選挙戦の原形をとどめていない。

 両者共に意地で続けていた。だが

「学校の外だからと大目に見ていたが…もうガマンならん。関係者全員職員室に来い」

 生活指導。若元典生の堪忍袋の尾が切れた。竹刀を地面にたきつけて激怒する。


 逃亡は印象を悪くするので従った両陣営。さすがにメイドたち部外者は口頭注意で済んだが、職員室の前の廊下に正座をさせられる一同であった。

 何で自分が…そんな思いを抱く美鈴。なぎさ。詩穂理。


 だが、結果的にはこれが生徒たちの注目を集めて、選挙戦の盛り上がりをもたらすから何が幸いするかわからない。

 厳重注意もあり、普通の選挙戦を展開するが集まりがよかった。

 そして確実に支持者を増やす両陣営であった。

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