世界樹ゲート2
「良い人……とはなんだろうね?」
「何を良い人と定義するのか……それはゲート次第ですね」
時にこうしたふわっとした条件を突きつけてくることがある。
文字からはどう言ったものなのか読み取ることが難しいけれども、検証してみるとしっかりした基準があったということも過去にはあった。
良い人がどんな人なのか曖昧であるが、ゲートなりの基準はどこかにあるはずだ。
「俺は大丈夫そうですね」
トモナリはゲートに軽く手を伸ばしてみる。
防がれることもなく、手はゲートに飲み込まれていく。
少なくともトモナリはゲートに入れる良い人であるということだ。
「Bクラスなことはいいとして……問題は五階層なことだね」
多くのゲートが一階あるいは多くても三階ぐらいまでである。
しかしこのゲートは五階まである。
トモナリの記憶では最大十階だけど、間の六から九階までのゲートもほとんどない。
七階のゲートがあったかなという程度だ。
つまり五階も言ってしまえば例外的なゲートなのだった。
おそらく五階も攻略する難しさは、難易度Bクラスというところに影響を与えている。
だがやはり難易度だけでは分からない難しさが、多層階ゲートにはある。
「攻略条件そのものもふんわりしてんな」
ユウトはどでかいため息をつく。
モンスターを倒せなら分かりやすいのに、母を目覚めさせよとは何をしたらいいのか分からない条件である。
「十八人……決して少なくはないけど、多くもないね」
上限は少ないとも言い切れないが、Bクラスの難易度のゲートと考えた時には限られたメンバーで挑むしかない上限ではあった。
「……とりあえず攻略してみるしかないか」
ゲートは根に囲まれるようにして現れた。
どう見てもゲートは世界樹と関わっている。
母というのも世界樹のことなのではないか、とトモナリは予想していた。
回帰前の知識ではこんなものあったと見た覚えはない。
ただやらねばならない、そんな気がする。
「至急準備を整えて、攻略しましょうか」
なんだか少しユシルが大人しい。
トモナリはそのことに気づかず世界樹のゲート攻略の準備を進めるのだった。
ーーーーー
「意外と判定緩いな」
準備を整えることも必要だが、誰がゲートの攻略をするのかを確かめることもまず大事なことである。
レベルでの制限はない代わりに良い人という制限があるので、誰が入れるのか確かめてからメンバー編成を行い、それから準備を進めていく。
良い人かどうかのチェック方法は簡単で、ゲートに入ってみればいい。
もっといえば入ることもなく手を突っ込んでみるだけで入れるかどうか分かる。
良い人判定でなければゲートに入ることはできない。
「くっ……なぜだ!」
「はははははっ! きっと顔怖いからですよ!」
良い人と判定される基準は謎であるけれど、トモナリを含めてコウたちは普通に入れる。
イヌサワなんかも良い人判定なのだけど、イガラシは入ることができなかった。
トモナリからしてみればすごく良い人なのだけど、何かが引っ掛かるのだろう。
ショックを受けるイガラシに、イヌサワは大笑いしている。
「この!」
「いててて! そんなことするからですよ!」
イガラシがイヌサワの頭を腕で締め上げる。
「……まあでもハズレじゃないかもしれないですね」
「何?」
「顔怖いからっていう理由ですよ」
「…………なぜだ?」
トモナリはイヌサワがいう怖いから入れないのではないか、という予想もあながち遠くないのではないかと思っていた。
「この子ですよ」
トモナリは肩からイガラシの様子を覗くユシルのことをチラリと見る。
ユシルは警戒したような様子だ。
なぜなのか知らないが、ユシルはイガラシのことを警戒したようにあまり近づかない。
別にイガラシが何かしたわけでもないし、ユシルが敵対しているわけでもなくただ近づかないのである。
まるで小さい子供が顔のイカついおじさんを怖がっているようだと冗談を言ったことがある。
「そういえば……他のやつも顔怖いやつだな」
何人かゲート進入不可な人たちがいる。
そんな人たちに共通点などないと思っていたのだけど、トモナリの言葉を受けて頭の中で顔を並べてみると子供が苦手そうな怖い印象を受ける顔立ちの人が多い。
そしてそんな人たちはユシルが避けるような人でもあった。
「つまりやっぱり悪い人っていうのは顔がこわーい人ってことかな?」
イガラシのホールドから逃れたイヌサワがユシルに近づいて、指先で頭を撫でる。
ユシルはイヌサワに対しては割と心を開いている。
一方でイガラシが近づこうとすると、トモナリを盾にするように周りを飛んで逃げてしまう。
「……くぅ……ただちょっと顔が険しいだけではないか!」
「あははははっ!」
思いもよらない理由にイガラシは肩を落とし、イヌサワは再び爆笑する。
世界樹に怖いと思われているからゲートに入れない。
確かに変な理由であるとしか言いようがない。
「怖い人は苦手か?」
「うん、あのおじさん顔怖い」
「うぅ!」
「クフフ……フハハっ!」
「この……笑うな!」
イガラシがイヌサワを追いかける。
ギルドマスターであるイガラシを笑うなんて普通のギルドなら許されない。
だがこうしたゆるさもまた五十嵐ギルドの良いところである。
「……仮に本当に悪人だったらどうなんだろうな?」
顔が怖いことが拒絶の理由であることが分かった。
しかし仮に本当に悪人だった場合、ゲートの進入が拒否されるのか気になった。




