欲に目が眩んだ者4
「……とりあえず声かけてみるか」
リスクはある。
だがすぐに脱出できるようにボス手前まではついてきてほしい。
「どうだかな……人間ってのは変なところで強情だから」
正直信じてもらえる自信はない。
トモナリは回帰前の記憶があるから先に進んでも脱出できるルートがあると知っているが、他の人にとってボスまでついてこいというのは難しいお願いだ。
「みなさん、これから俺はこれから先に進んでボスを倒します」
あと面倒なのは日本行きの飛行機だったので、日本人客と外国人客が半々なことである。
日本語と英語の両方でアナウンスしなきゃいけない。
「ボスを倒したあとすぐにゲートを抜け出さなきゃいけないので、ついてきてほしいんです」
「ついてきてほしい? そんなの危なくないのか?」
「……絶対はありません。できる限りのことはしますが、百パーセントの保証はないです」
「ここにいれば戦いに巻き込まれることはないんだろう?」
「ならいく必要なんてないじゃないか!」
だんだんと批判めいた雰囲気が高まる。
ボスのところまで行くのは危ないのはトモナリも分かっている。
これなら何も言わずについてこいと言った方がよかったかもしれない。
その場合でも騙されたとパニックになってしまう可能性もあって、判断が難しい。
「結構厳しい感じかな……」
英語でも同じように説明したが、リアクションは同じだった。
「……行こうか」
「いいのか?」
「俺は強制はしないさ。たとえ間に合わなくとも……それは彼らの判断だ」
これ以上説得してもトモナリが批判を浴びるだけのような状態になってきた。
ついてきてほしいというのはあくまでもトモナリのお願いであり、強制力はない。
力で従わせては銃で脅すのと変わらなくなる。
助けられる人を助けられない可能性は出てきてしまうが、流石に周りの状況が悪い。
間に合うことを期待してボスを倒してみるしかない。
「ぷぅ……何なのだ!」
ヒカリは批判的な乗客の態度にお怒りだ。
「いいってことさ。理解はできる」
トモナリはヒカリの頭を撫でる。
多少のリスクがある代わりに、という話は山ほどある。
しかしリスクばかり見て、その先にあるものを正しく理解できていない。
今ここにいる多くの人にとってトモナリは無名の覚醒者にすぎない。
説得できるほどの知名度も信頼もなかった。
「まあそんなに時間もないし行こう」
別に攻略するのに制限時間はない。
ただ今は食料も水もない。
現在は極度の緊張状態にあるが、落ち着いてくると疲労も出てくる。
何もしなくても長くは持たないだろう。
長々と説得して精神的に消耗するつもりもトモナリにはないのである。
「知らないのだ! ぶぅ!」
トモナリたちは大きな扉に向かう。
「…………」
「あっ、行くの?」
女性が一人、トモナリたちを追いかける。
「だってあの人たち、私たちを助けてくれたんだよ? わざわざ助けて……ただ危険に巻き込もうとしてるんじゃないと思う」
その女性はヒカリが処刑人から助けた人だった。
文句ばかりを言う乗客と違ってトモナリたちは何も言わずに助けてくれた。
危険はあるかもしれないが、ついてきてほしいというのならついていこうと思った。
一人動くとまた一人動く人が現れる。
批判的な空気が一変。
およそ半数ほどの人がトモナリたちを追いかけていく。
「……まあ結構きましたね」
ある程度ついてくるだろう。
トモナリはそんな言葉を呟いていた。
確かにその通りになってディーニは少し驚いていた。
留まって未来がないことなど考えればわかる。
扉は閉じていて引き換えしようもなく、その上ハイジャックの男たちがいるのにどうしようというのか。
進むよりも他に選択肢はない。
誰かがついてくれば冷静な人も動き、流れに押されるようにくる人もいるはずだと予想していた。
「わぁ……すげっ」
「成金趣味みたいだな」
「すごいのだ〜!」
扉をくぐって進んでいくと広い部屋に出た。
そこは黄金で作られた部屋だった。
部屋の真ん中には黄金で作られた鎧の騎士が立っている。
至る所がピカピカして過ごしにくそう。
トモナリとしてはそう感じるのだけど、ヒカリは目を輝かせている。
「みなさんは下がっていてください」
黄金の騎士は、これまた黄金で作られた剣を持ち上げて構える。
トモナリたちもボスを倒すべく前に出る。
「さてと、サクッと終わらせて、家に帰って風呂入るぞ!」
「私はコンビニのデザートが食べたいですね」
サントリとディーニの士気も高い。
二人は息を合わせたように黄金の騎士に迫る。
「ご主人様が出る幕もありませんね」
「そうだな、私たちで終わらせたろうぜ!」
ディーニは腕を金属化させて黄金の剣を受け止める。
見た目に黄金の剣は派手であるが、そもそも金は金属しては柔らかく武器としてはあまり向いていない。
ディーニの腕に当たった部分が軽く歪んでしまっている。
「オラァッ!」
ディーニが剣を防いだ隙をついて、サントリが黄金の騎士を殴り飛ばす。
ついてきた乗客たちはいいぞと手に汗を握って応援する。
トモナリはいつでも戦いに入れるようにしながらも、やる気を出している二人に任せて戦いを見守っていた。




