生け贄1
「‘フライトは終わりだ。大人しく俺たちに従って降りてもらうぞ’」
日が暮れて、水平線が赤く染まってきた。
飛行機がようやくどこかについた。
窓から様子を確認する。
飛行機が出発したアメリカの国際空港でもなければ、日本に着いたわけでもなさそうだ。
見える滑走路はやや劣化が見られ、ターミナルの規模もさほど大きくない。
「ヒカリ、起きろ」
「にゅわ?」
呑気なもので、毛布に包まった切り札はいつの間にか寝ていた。
特に問題はなかったのだから、ヒカリが出る幕もなかった。
少し荒く飛行機は着陸する。
「‘大人しくしろ!’」
「‘さっさと立ち上がるんだ!’」
悲鳴が聞こえたと思ったら、外からさらに銃を持った連中が入ってきた。
今時あまり銃も使われない。
モンスターに対して効かないことも多いし、大きな音がするために逆にモンスターが集まってしまうこともある。
覚醒者に対しても、一定以上の強さがあれば対抗できてしまう。
ただいまだに一般人に対して銃火器は大きな脅威である。
覚醒者も対抗しうるというだけで、銃で撃たれれば大体の人は死んでしまう。
「ヒカリ、ここに隠れてろ」
トモナリはリュックをインベントリから取り出して、その中にヒカリを入れる。
リュックを前側に抱え、他の人と同じように手を上げてぞろぞろと飛行機から降りていく。
やや日焼けしたような肌色の男たちは、険しい目つきで乗客を監視している。
だがトモナリがリュックを持っていても気に留める様子はなかった。
「他に飛行機なんかはないな……」
ひっそりと周りの様子を確認する。
今トモナリたちが降りてきた飛行機の他に、飛行場に飛行機の姿はない。
普段から利用されている空港なら一機ぐらいあってもおかしくないものだが、飛行機だけじゃなく他の職員やなんかも何も見えないのだ。
今は使われていない空港なんじゃないか。
そんな考えがトモナリの脳裏をよぎる。
「‘早く乗れ!’」
飛行機に同乗しているはずの覚醒者の姿もない。
やはりどこかで処理されたのかもしれないとため息が漏れそうになる。
飛行機を降りた先はトラック。
古さの目立つトラックの荷台に乗客は詰め込まれていく。
ミチミチに詰め込まれると、荒々しくトラックの荷台が閉められる。
絶望的な状況に、荷台の中には誰かのすすり泣くような声が聞こえてくる。
「チッ!」
すすり泣きに誰かがイラついて舌打ちする。
もはや乗客たちもだいぶ追い詰められている。
「まだ待ちか?」
トモナリの隣に座るサントリはまだ冷静だ。
流石に戦いもせずに諦めるようなことはしない。
サントリとしては飛行機を降りたのだからもう暴れてもいいのではと思っている。
「人が多すぎる」
トモナリはため息をつく。
今の強さなら銃火器にも抵抗はできる。
しかし周りにいるのは一般の人ばかりだ。
銃弾一発が死活問題となる。
乗客全員を守りながら戦えるほどトモナリは圧倒的とは言い難い。
必要な犠牲、と割り切るのはまだ無理だった。
「いまだに彼らの目的は分かりませんね」
サントリの逆側に座るディーニも冷静さを保っている。
内心ではトモナリを誘拐なんてしたハイジャック犯全員を潰してやるべきだと非常にお怒りだが、恐怖に怯えているわけじゃない。
こんなに人を誘拐して何がしたいのか目的が不明である。
乗客の扱いは決して丁寧ではないものの、命を軽く殺そうとしている様子もない。
目的のために乗客を輸送している感じはあるものの、乗客は年齢も性別、国籍も様々だ。
共通点も見出せない。
「体痛くなりそうだな」
荷台はただの箱だ。
トラックの揺れが直にお尻に返ってきている。
時に体が浮き上がりそうなほどの衝撃もあって、快適とは程遠い状況だった。
「……トラックが止まったな」
長いこと走っていたトラックが完全に停車した。
「‘降りろ!’」
トラックの荷台が開いて、今度は降りるように命令される。
「あれはゲート……」
外はもう真っ暗になっている。
周りは何も見えないぐらいにぐらいが、野外で使う大きなライトに照らされた中心に青く光るゲートがあった。
「まさか……乗客をゲートに入れるつもりか?」
「んなことできんのか?」
「……できないはずだし、一般人を入れてどうなるっていうんだ」
基本的にゲートに覚醒者じゃない人は入れない。
ゲートの条件にそんなものはないのだけど言ってしまえば特別表示されなくとも覚醒者のレベル1以上、つまりは覚醒者であることが求められている。
ブレイクを起こしたゲートはその限りではなく、モンスターに連れ込まれるようなこともある。
ただ目の前にあるゲートはブレイクを起こしているように見えない。
それに仮に入れたとして、一般人をいくら集めたところでゲート攻略の役に立つとは思えない。
「ゲートが関わってることは確かだろうけど……」
非覚醒者の一般人をどうしたいのかまだ予想もつかない。
「…………いや、まさかな」
「何が分かったのだ?」
リュックの隙間からヒカリがトモナリのことを見ている。
嫌な予感がするとトモナリは思った。
そして、嫌な予感というやつは意外と当たってしまうものだ。




