招かれざる客
「美味しかったのだ!」
「ああ、流石に高級ホテルは違うな」
ホテルにはトップクラスのレストランも入っている。
お腹が空いたのでサントリやディーニも引き連れてレストランで食事をとった。
何とレストランのお金もアメリカの覚醒者教会持ちで、個室まで使わせてもらってミヒャルやルビウスも料理を楽しんでいた。
「それじゃあ、明日の午後にフライトだから忘れないように頼むぞ」
「本当に別の部屋を使ってもよろしいのですか?」
「今更なんだよ? 使わなきゃもったいないだろ?」
ホテルのワンフロアすべてが貸し切られている。
一人でいろんな部屋を使うつもりはないが、せっかくならサントリとディーニには一部屋ずつ使ってもらっている。
ディーニは一部屋使うことに少しばかり遠慮があるようだ。
ただホテルにいて世話してもらうこともないし、守ってもらうようなこともない。
「ディーニもゆっくりしなよ」
「そーそー! トモナリがそう言ったんだからさ!」
一方でサントリの方は遠慮なんてしない。
ある意味で両極端な二人である。
「じゃあまた明日な」
たとえオートマタでもサントリとディーニは半分人であり、何より見た目は普通に女性である。
同じ部屋を使うことに、トモナリが気を使うところもあるのだ。
二人と別れて、トモナリはヒカリと一緒に部屋に入る。
「あれもう一皿食べればよかったかもしれないのだ……」
「‘随分と良いところに泊まっているな’」
「……なっ!?」
声が聞こえて振り返る。
部屋に置いてあるソファーに人が座っていて、トモナリは飛び退いて距離を取る。
全く気づかなかった。
多少気を抜いていたとはいっても、覚醒者としてレベルも上がって感覚が鋭敏になっているはずなのに声をかけられるまで分からなかったのである。
「仮面の男……」
足を組んで座る男は仮面をつけていた。
「‘サードナイト……’」
「‘ご明察’」
何の飾りもない真っ白な仮面で顔を隠した男は終末教の幹部であるサードナイトであった。
「‘やめておけ。俺に勝てる自信がない限りはな’」
トモナリは剣のルビウスをインベントリから呼び出して構える。
ヒカリも険しい顔をしてサードナイトのことを睨みつけている。
トモナリとヒカリは臨戦態勢となっているが、サードナイトの方は手を前に出して制止するのみ。
「‘…………’」
「‘それでいい。戦うつもりはないからな’」
トモナリは剣を再びインベントリにしまう。
怪しいものだが、戦うつもりがないということは本当だろう。
そもそも殺すつもりなら部屋に入った時点でやれるし、サードナイトほどの力があれば奇襲せずともトモナリを殺すことができる。
「‘……何の用ですか?’」
「‘冷静さを兼ね備えている。とてもいいな’」
仮面の向こうの目が笑うように細められる。
シルバーグレーの珍しい色をした瞳をしていると今気づいた。
「‘もう試練ゲートも六十番台に入ってしまった。時は確実に進み、終末は近づいている’」
「‘説教を聞かせに来たのか?’」
終末教の考えなど聞くつもりはない。
「‘……君は二番目のリストに名前が載っている。一番目は最重要……最も警戒するべき敵、そして二番目は一番目より少し警戒度が劣る’」
「‘あまり光栄じゃないですね’」
終末教の警戒リストに載せられていると聞いてトモナリは顔をしかめる。
どこまで終末教がトモナリのことを把握しているのか分からずにいたけれど、かなり警戒されていることが判明した。
「‘そのレベル、その若さにしてその強さ……一番目のリストでもおかしくない’」
サードナイトの目が真っ直ぐにトモナリのことを見つめる。
「‘だが君は二番目のリストの一番下に載せられている。なぜだか分かるか?’」
「‘……分からない’」
そんな配慮をされるような理由に心当たりはない。
「‘スラーサ……彼女が君を気に入っているんだ’」
「‘スラーサ……あの時の’」
スラーサという名前を聞いて、すぐには思い出せなかった。
少し考え込んでようやく思い出す。
一年の終わりに世界交流戦に出場した。
交流戦の最中に終末教に襲われ、逆に終末教を襲撃した。
その時にトモナリのことを誘拐した終末教の不思議な少女がスラーサであった。
アルビノとでもいうのか、髪から何から何まで真っ白な少女は思い出せるほどには記憶に残っている。
いまだにスラーサが何者なのかは不明である。
ただサードナイトが彼女と言ったり、リフトの掲載順に影響を及ぼすほどの存在であるようだ。
「‘君には手を出すなと言われている……だが、ここで殺してしまった方がいいとも思える力の持ち主だ’」
「‘戦わないんじゃなかったのか?’」
サードナイトからうっすらと殺気が漏れる。
一瞬で背中に悪寒が走り、鳥肌が立ってしまう。
「‘彼女のお願いなのだから手を出すことはない。しかしこれは警告だ。これ以上我々の邪魔をするならスラーサも君を守れなくなる’」
「‘……じゃあ自分の身を守れるように強くなるよ’」
「‘ふっ……この状況でも態度を崩さないか。まあいい’」
サードナイトはゆっくり立ち上がる。
そしてバルコニーにつながるガラスのドアを開ける。
「‘警告はした。心に刻んでおけ’」
サードナイトはそのまま柵に足をかけて飛び降りる。
ここはホテルの最上階近くである。
ただ無事だろうと思うし、確認する気にもなれなくてトモナリはドアを閉じて、鍵もしっかりと閉める。
「……しばらく大人しくしないとな」
トモナリは深いため息をついてしまう。
ひとまず今日は助かった。
しかし終末教の気まぐれでいつでも命を取ることができてしまう。
世界樹の成長も急がねばならない。
何だかまた疲れてしまった。
「ううむ……危ない奴なのだ」
「スラーサに助けられた……のかもな」
スラーサが何者で、サードナイトとどういう関係なのかは知らない。
ただトモナリを本気で引き込みたがっていることは間違いなさそう。
「寝るか……」
今から騒ぎ立ててもサードナイトが捕まることなどないだろう。
トモナリはベッドに倒れ込む。
スラーサは言っていた。
90番目のゲートが終末教に関わっていると。
本当かどうかは分からない。
だがそれが分かる時も、そう遠くはないのかもしれない。




