スカウトしましょ1
課外活動部に何人勧誘するか、という数は決まっていない。
目をつけた人が多く、全員が課外活動部に入りたいというのならそれでもいい。
ただしこれぐらいの人数は勧誘したいという下限はうっすらとある。
ゲートの攻略なんかも行うので、やっぱりある程度の人数は確保しておきたい思惑はあるのだ。
一人二人でゲート攻略するのは流石に厳しいだろう。
三日かけてそれぞれ良さそうだと思った一年生にマークして投票した。
印のある一年生を改めてリストアップして確認し、勧誘作業に入った。
勧誘作業は二年生が行う。
トモナリはマサヨシから誘われたので知らなかったが、ミズキたちは現三年生たちが二年生の時に声をかけられていた。
「宮前慶太、職業双剣魔師。ステータスは力と魔力が高めで、ファーストスキルは属性変化か」
昼休み、トモナリは他の課外活動部の二年生と一緒にスカウトする一年生のところに向かっていた。
トモナリが声をかける予定なのは宮前慶太という生徒である。
タブレットで改めてミヤマエの能力を確認する。
双剣魔師という職業で、双剣を使う前衛職でありながら魔法もよく伸びる。
初期の能力値も高めでスキルも悪くない。
トモナリも一票入れていて、スカウトの優先度は高い相手だ。
「ただちょっと人相悪いよな」
「やんきーってやつなのだ?」
「さあな……それは話してみないと分からないな」
ステータス的なところでミヤマエに文句はない。
しかしステータスと同時に入学時の顔写真もタブレットには表示されている。
人を見た目で判断することは良くない。
ただ顔写真一枚しかないのでは、今のところそれで判断するしかない。
ミヤマエは目つきの鋭い顔つきをしている。
元よりそうした目つきなのか、やや睨みつけるようにしているのか分からない。
つんけんとした髪型も相まって写真の上では人を威圧するような印象がある。
会ってみれば良い子の可能性はあるが、ヒカリも写真から受ける印象はトモナリとそんなに変わらなかった。
「うちのクラス、こんな感じの子いないもんね」
トモナリたち二年生の特進クラスに不良やヤンキーといった雰囲気の子はいない。
性格はそれぞれだが、全体的に大人しくて良い人が多い。
他のクラスは知らないが、特進クラスに関してはイジメの兆候もないような平和さである。
「中学もそんな感じのいなかったな」
「あはは……そう、だね」
「僕も良い私立だったからそういう人はいなかったね」
イジメはあった。
今でも覚えているが、いじめっ子であってもヤンキーという感じではなかったなとは思う。
ミズキも何があったのかは知っているので気まずそうに笑う。
コウの方も特に荒れた学校ではなかった。
むしろかなり良いところの私立学校だったのでヤンキーなんかとは無縁である。
「下級生のクラスとはいっても知らないところに入るのはちょっと緊張するね」
自分のクラス以外のクラスに入ることは多くない。
たとえ下級生相手でもドキドキするものだとミズキは思った。
「まあ僕の可愛さがみんなに知れ渡ってしまうのは確かに緊張するのだ」
「そういう緊張とは違うんだけどね」
日々みんなに可愛がられるので、ヒカリの自己肯定感は非常に高い。
ミズキも注目されるのはヒカリだろうなと思うと気が少しだけ軽くなった。
「あれって……」
「噂のドラゴン……ってことは二年の先輩?」
一年の特進クラスの教室に入ると一気に注目がヒカリに集まる。
ヒカリはドヤ顔でポーズをとる。
可愛いだろ、言わんばかりである。
「可愛い……」
「本当にいるんだな」
「お菓子捧げると触れるんだっけ?」
実際可愛いという声が漏れ聞こえている。
一年生の間でもヒカリのことは噂になっているようだ。
「じゃあそれぞれ声をかけるか」
ゾロゾロと来たのはヒカリを自慢するためではない。
目的はスカウトなのでそれぞれ目的の生徒に声をかける。
トモナリはコウと一緒にミヤマエを探す。
「あそこなのだ」
教室の隅の席がミヤマエの座席だった。
机に足をかけて椅子の後ろ足だけでバランスをとって、目を閉じている。
「ミヤマエケイタ、少し話いいか?」
コウは態度の悪さにちょっと引いているけれど、トモナリは平然とミヤマエに声をかける。
「あっ? 人が寝てんの分かんねえのかよ?」
「起きてるじゃないか」
ミヤマエは目を開けるとトモナリのことを睨みつける。
トモナリを睨みつけたのでヒカリもミヤマエのことを睨む。
「……誰だあんた?」
「俺はアイゼントモナリ。こいつはヒカリだ」
「よろしくな!」
机に足を乗せままの体勢を変えることもない。
荒い態度だなとため息をつきそうになる。
ヒカリもミヤマエがその態度なら、可愛い感じにはしてやらないと反抗を見せる。
「うちのクラスじゃないな。何の用だ?」
「あんたをスカウトに来た」
「スカウト? ギルドがなんかかよ?」
「ちげーよ」
だんだんとイラッとしてきた。
別に先輩として敬えとは言わないが、知らぬ相手に対する丁寧な態度というものはあるだろう。
今のところ第一印象は最悪だった。