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星の姫、世界を渡る~王子の願いと虹色の奇跡  作者: 香名斗星南
第3章 少しずつ

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99 彼女のため

「……温かい……これは…光魔法か?」

「えぇ。何の慰めにもならないでしょうけど」


 リュアティスの手から生み出される光の玉がたくさんの小さな光の粒になり、辺りに降り注ぐ。

 右の手のひらに受けるとやわらかい温かさを残して弾み、ルオレアスは別の意味で泣きたくなった。

 慌てて左手でにじんだ涙をぬぐう。


「……いや……すごいな、これ。

 普通の光魔法には、温度なんてない……というか、感じる間がないというか……

 弱ければ辺りを照らすだけだし、強ければ一瞬で蒸発してしまう超高温だろ?」

「そうですね」


 この世界の光魔法は主に広範囲の敵を閃光で一瞬のうちに殲滅する攻撃魔法か、単なる明かり取りとして使われている。

 かなり熟練しないと攻撃範囲を絞れないので個別攻撃には向かないのだ。


 加減が難しく、広範囲魔法として使った場合、調節に失敗すると建物や草木も蒸発してしまうことから危険魔法の一種とされていて、魔導管理局の判断によっては修得者の日常生活に監視が付くこともある。

 いざという時には貴重な戦力となるのだが、その「いざという時」が滅多にないため、ほかにも取り柄がないと給金が安く、積極的に修得しようとする者はあまりいなかった。


 ということで、光魔法は小さな魔石でもかなり明るくなることを活かし、主に明かり用の魔道具に使われていた。

 小さくても魔石は高額なので貴族や金持ちの屋敷でしか使われていなかったが。


 その光魔法を、ある意味冗談のような使い方をしているリュアティスに、苦しかった過去に(とら)われていたルオレアスの意識が現在に戻ってきた。


「温度の調節が一番苦労したところです。

 魔力を少なくし過ぎると、暗くなってしまいますし。

 あとは……細かくするのも大変でした。

 16個くらいまでは簡単だったのですけど、そこから先はコントロールが難しくなり、粒状にするまでには3日掛かりました」


 ルオレアスが呆れた顔をした。


「………お前…何をやってるんだ……というか、何考えてんだ?」

「ですから、どうすれば光の玉をきれいな粒状にできるか、ですよ。

 粒になっても飛び散ってしまったら意味ないですし。

 授業の合間とかにもずっと練習し、やっとここまで操れるようになりました」

「いやいや、そうじゃなく、そんなことをして何になるんだってことだよ」


 ああ、そういうことか。


 リュアティスはうっすらと微笑んだ。


「彼女が笑顔になるんです」

「は!?」


 両手に一つずつ光の玉を出し、それを粒に変えていく。


「エリスレルア、こういうのが好きなのですよ」


 片手を上げると光の粒たちが天井付近に集まり、それが辺りにゆっくりと降り注いでいくのを見たルオレアスは、光魔法を何に使ってるんだ、と叫びたかったが言葉は出てこなかった。


(……恐ろしいほどの魔力の制御だ……)


 その時扉が開いて、レミアシウスがワゴンを押しながら入ってきた。


「わー! 何これ! きれいだねーー!」

「でしょ? 随分苦労しました」


 立ち止まって部屋じゅうに降る光の粒に手を伸ばすレミアシウス。


「エリスレルアにはもう見せたの?」

「はい。かなり疲れていたようで、すぐに寝ちゃいましたけど」

「そっか。この時間だと、普通はおやつ食べるまで寝ないんだけど。

 ルオレアスさん、目が覚めたのですね。

 ちょうどよかった。スープ、作ってきたんですよ」


 ニコニコ笑いながらスープボウルに取り分けているレミアシウスを見て、ルオレアスが小声でリュアティスを呼んだ。


「リュアティス!」

「はい?」


 手招きしているルオレアスのところへ行くと、腕を引っ張りながらルオレアスがささやいた。


「どうして彼はこんな時間にスープなんて作ってるんだ?」

「なんかエリスレルア、時々目を覚ましておやつを食べるらしく、その仕込みのためにいつも早起きをされているようです。

 まあ、今回のスープは彼女のおやつではなく、兄上のためのものでしょうが」

「俺のため?」


 真顔に戻るリュアティス。


「兄上、花壇のところで倒れていて、びしょ濡れで発熱していたんですよ。

 その身体を温めるためのスープだと思います」

「…………」


 うつむき加減になったルオレアスの前に、スープボウルとスプーンを置くレミアシウス。


「どうぞ。

 リュアティス君も、どうぞ」

「ありがとうございます」


 一口飲んだリュアティスは、この人、ホントに天才だな、と思った。

 優しい温かさが身体じゅうに広がっていく。


「ずっと思っていたのですが、レミアシウスさんの作った食べ物って、どれもものすごくおいしいですよね?

 よほどすごい料理人の方のもとで修業されたとか?」

『ああ、それはね』


 スープボウルを手に取って眺めていたルオレアスが驚いた顔をした。


「頭の中に声が!」

「兄上、それはレミアシウスさんたちが使う意思疎通のための魔法です。

 僕たちは普通にしゃべれば問題ありません。

 二人ともこの世界の言葉がだいぶ話せるようにはなったのですが、まだ少し不自由なところがあるから」

『そうなんです。こっちのほうがしゃべりやすいので。

 すみません』

「……いえ、こちらこそ……」


 じっとスープを見つめるルオレアス。

 彼の様子を気に掛けながら、レミアシウスはリュアティスとの会話を続けた。


『料理はね、向こうの世界に、いつも僕たちのご飯とかおやつとかを作ってくれる女性がいてさ。

 エリスレルア、彼女の料理が大好きなんだよ。

 で、ある時、その彼女が作る料理を僕も作れるようになれば世のため人のためになるんじゃないかと思いついて、弟子入りしたんだ。

 これでもまだ、師匠には及ばないんだよねー』

「確かに、それは世のため人のためかも……

 母上がおっしゃっていたように、あなたが一緒に渡ってこられたのには意味があったのかもしれませんね」

『うんうん。

 あいつ、突然、『あれが食べたくなった!』とか言って、あっちに戻ろうとするかもしれないからね。

 最初に出現した島なんて、毒入りの食べ物ばかりでかなりヤバかった』

「毒入り?」


 話を聞きながらおずおずとスープを口に運んだルオレアスは、スプーンを置いて一気に飲み干した。


「ホントに美味いな、これ!」

「おかわりもあります」

「おかわり!」

「……兄上……」

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