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星の姫、世界を渡る~王子の願いと虹色の奇跡  作者: 香名斗星南
第3章 少しずつ

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96 雨の夜に

 雨の音がする。


 レミアシウスと話したあと寝室でぐっすり眠っていたエリスレルアは、ふと目を覚ました。

 窓のところに行って開けると、サーッと音を立てて細かい雨が降っていた。

 ほとんど明かりのない暗い外に差し出した右手がしっとりと濡れて、心地いい。


 なんだかうれしくなって寝室を出たエリスレルアは、ネグリジェのままベランダへ出た。


 夜が明けるまでまだ3時間くらいあり、レミアシウスもまだ寝ている。

 こんな時間に起きているのは、夜間勤務の門番や警備の兵士くらいなので、辺りはしーんとしていた。


 夜の散歩は心が落ち着くのよねー。


 雨水が身体に当たる前にはじきながら庭に降りてみた。

 雨に打たれている花々がキラキラ光ってとてもきれいだ。


 胸の辺りに当てた左手をスッと広げると、虹色の光を浴びた水滴が輝きながら広がり、花たちが生き生きと揺れた。


 花壇の半分くらいに、エリスレルアがそうやって水を撒いた時、背後から声がした。


「何を……やってるんだ……」

「え?」


 振り返ると、花壇の端に誰か立っていた。


 えっと……あれは……


「ルオレアスさん?」

「こんな時間に……こんな雨の中……何をやっているんだ!」


 なんで怒ってるの?


 夕食の時に受けた印象とは別人のように感じ、エリスレルアは少し後ろに下がった。


「お花に、お水、あげてた」

「雨が降っているのに?」


 雨が降ってるからあげられる水があるの、と言おうとエリスレルアが口を開いた瞬間に地面を蹴ったルオレアスが、一瞬後、彼女の身体を抱きしめていた。


 えぇっ!?

 リュアティスさんより、速い!


「風邪をひいたらどうするんだ!

 こんなに濡れて……って……濡れてない?」

「濡れているのは、あなたのほうです。

 それで私も濡れてしなった…しまった、です」


 『力』の範囲をルオレアスまで広げて、雨をはじくことにする。


「風邪をひくのは、あなたのほう」


 服、乾かしたいけど、『力』加減が難しいから、この人、やけどするかも……

 やめとこ。


 自分にも雨が当たらなくなったことに気づいて驚いたルオレアスは、抱きしめていた手を緩めてエリスレルアの両腕を掴んだ。


「とにかく、雨の中、こんな時間にこんなところにいてはいけない。

 しかも、きみ……寝間着じゃないか!」


 少し優しくなったと思った彼から受ける印象がまた険しいものに変わっていく。


 この人、何か、変。


 ……何か……心に痛い傷が……


「私は、平気。

 もう少し、お花にお水を―――」


 エリスレルアは再び抱きしめられた。


「レフィナーサ! 水なんて、やらなくていい!

 あの夜、水なんてやりに行かなければあんなひどい目にあわずに済んだのに!」


 胸が痛くなるような叫びと共に、リュアティスの光とは違う激しく眩しい光がエリスレルアを直撃した。


 !!


『リュアティス!!』

『!? エリスレルア?』


 次の瞬間、リュアティスの寝室に出現したエリスレルアは、夢うつつの状態でうっすら目を開けたリュアティスの肌掛けの上にダイブした。


「わっ!」

「うわーーん!!」


 まったく状況把握のできないまま、とりあえず動く左手を肌掛けの外に出し、そっとエリスレルアの背中を叩く。

 しばらくそうしていると、エリスレルアが落ち着いてきた。


「どうしたの?」

「雨が降ってたから、花壇にお水をあげてたら、ルオレアスさんが来てね!

 ここで何やってるんだって、怒って、抱きしめて……ヒクッ

 風邪ひくって優しくなったのに、また急に怒って……グスン

 それで……」


 話しているうちになんとなく、リュアティスが怒ってきている気がして、エリスレルアは口ごもった。


「……それで?」

「……リュアティス、なんか、怒ってる。

 話すの、やめる」


 身体を起こそうとしたエリスレルアを、左手に力を入れて、リュアティスはギュッと押さえつけた。


「エリスレルアのことを怒ってるんじゃないから」

「そうなの?」


 とげとげしくなってきていたリュアティスの光が少し優しくなった。


「それで、どうしたの?」

「それで、突然、レフィナーサ、水なんてやらなくていいって叫んで……

 水やりに行ったからひどい目にあったって……

 それで、抱きしめられて眩しくなったから、逃げてきた」


 リュアティスの光に再び怒りの色が混ざる。


 やっぱり、怒ってる!


 エリスレルアがここからも逃げ出そうとした時、リュアティスが小声で叫んだ。


「兄上、何をやってるんだ!」

「兄上……ルオレアスさん?」

「うん。

 あ、エリスレルア、ちょっと降りてくれる?

 肌掛けの上だと、苦しい」

「あ、ごめんなさい」


 エリスレルアがベッドから降りたので、起き上がったリュアティスは、まじまじと彼女の姿を見て―――「そんな格好で、外に出ちゃダメ!!」という言葉が喉まで出かかって、必死で飲み込んだ。


(怒ったら負けだ!)


 同じ言葉でも怒りに任せて言わなければいいかもしれないと思い直し、心の中で深呼吸して、できるだけ優しく言葉にした。


「……そんな格好で、外に出ちゃダメだよ。

 悪い人に、さらわれるよ?」

「いい雨が降ってたから、お水をあげたくなったんだもん」

「そうかもしれないけど……それは、寝る時の服でしょ?

 外に出るなら、着替えないと」

「そうかな?

 ……何も着てないよりは、風邪ひかないと思うけど……」


 自分の寝間着を見つめているエリスレルアに、リュアティスは苦笑した。


「今は温かい季節だけど、夜はそれなりに気温が下がるし、しかも、今日は雨だ。

 だから、やはり、その服で外に出るのはやめた方がいいよ」

「わかった!」


 にっこり笑ってエリスレルアはリュアティスの横に座った。


「よかった!

 リュアティス、優しい光だけになった!

 さっきね!

 ルオレアスさんも眩しかったけど、でも、リュアティスの眩しいのほうがいいなって思ったの!

 なぜかは、わかりません、ですけど。

 リュアティスのほうが温かいかな~」

「……そっか」


 リュアティスは、肌掛けを引っ張ってエリスレルアの向こう側からその肩に掛けた。


「こうすると、もっと温かいよ?」

「ホントだ!

 温かいのはいいよねー!

 眩しいのは、眩しくないほうがいいけどー」


(……そっか……)


「それでね!

 なんで雨の時に水を撒くといいかっていうと~」


 温かい、というより、熱くなってきたリュアティスは、じっと我慢をしながらエリスレルアの話に耳を傾け続けた。

 この物語をお読みいただき、ありがとうございます!

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