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星の姫、世界を渡る~王子の願いと虹色の奇跡  作者: 香名斗星南
第3章 少しずつ

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93 もう一人の息子

「えー、リンシェルア、明日帰っちゃうの?」

「そうよ~。

 ずっとあなたの傍にいたいとは思うんだけど、ここは私のうちじゃないから。

 叔父様が、帰れ帰れってうるさいのよ」

「誰がそんなことを言った?」


 レミアシウスたちが食堂へ行くと、リンシェルアとレステラルスが向かい合って座っており、レステラルスの隣にリュアティスが座っていて、その向かい側、リンシェルアの隣にエリスレルアが座っていた。


 王妃様が一番上手側なのはいいとして、なんか席順がおかしくないか?

 王妃様の隣はリュアティス君が座るべきでは?


 確か礼儀作法の本にそんなことが書いてあったような気がするレミアシウスだが、リンシェルアたちの様子を見ていると、さして気にしているふうでもない。


「リルちゃん、こっちこっち!」

「レルたん!」


 エリスレルアが手招きして、リルテがトコトコと駆け寄った。


 お前たちー!

 ここは大衆食堂じゃないんだぞー!


 心の中で盛大に叫びつつも、リンシェルアたちが微笑んで見守っているのに自分が何か言うのはおかしいかなと胸に納め、レミアシウスはリルテに付いていった。


 少しして部屋に入ってきたカーテアスがレステラルスに話しかけた。


「旦那様、ルオレアス様がお越しです。

 ご一緒にお食事をなさりたいとおっしゃっておられますが、いかがいたしましょうか?」

「おお、やっと来られたか。ここへお通ししろ。

 お前たち、席をご用意しろ」


 それを聞いた侍女たちが、一番奥の上座に食器を並べ始めた。


 あの青年も……やっぱり、王族なんだろうな……

 僕たち、場違いでは?


 なんとなくソワソワしながらレミアシウスがスープを飲んでいると、さっき玄関にいた青年が食堂へ入って来ようとして入り口付近で立ち止まった。

 震えながら両手を握り締めている。


「……っ!

 本当に……本当に母上が……ここにいらっしゃる……母上が……」

「ルオレアス」

「兄上」


 兄上?

 ってことはやっぱり……


「ルオレアス?

 どっかで聞いたような……」


 小首を(かし)げたエリスレルアにリンシェルアが微笑みかけた。


「私のもう一人の息子よ」

「あ、呪われた毒の人?」

「えぇ」

「へー。あの人がリュアティスのおにいさんなのねー」

「レルたん、知ってる人?」

「ううん、今、知った人」


 エリスレルアとリルテが話している間に、リンシェルアのところまでルオレアスが足早にやってきた。

 片膝を突いて、右手を左肩の辺りに当てる。


「帝国に滞在中、父上から最上位の秘匿魔法がかけられた密書が届いたのですが、にわかには信じられませんでした。

 母上、本当にご病気はもうよいのですか?

 って、よくなければあの魔法陣から出ることなど、かなわなかったのでしょうけれど、私としては夢のようで、こうしてお目にかかっていても、幻ではないかと思ってしまうほどなのです」

「もうすっかり健康体よ。

 このお嬢さんのお陰でね」

「え? ……この方は……」

「エリスレルアさんと言って、リュアティスの―――」

「おお! なんと、愛らしい!!」


 は?


「兄上!」


 立ち上がったリュアティスを無視してササッとエリスレルアのほうに回り込んだルオレアスは、ジュースのグラスを持っていたエリスレルアの右手首を左手で取り、右手でグラスをそっと抜き取ってテーブルに置いた。


「え、ジュース……」


 きょとんとしているエリスレルアに、驚くレミアシウス。


 この世界の人たちって、みんなこんなに素早く動けるものなのか?

 身体能力が高過ぎるでしょ!


「母上のご病気を治してくださったのですか?」

「ううん。治したのは毒だよ」

「毒を治した?」

「違うわよ、ルオレアス。

 エリスレルアちゃんが毒に、私を治して消えるように頼んでくれたのよ」


 一瞬、いぶかしげな表情をしたルオレアスだったが、とにかく、この少女が母を治してくれたのだということは理解した。


「兄上、エリスレルアは!」

「あなたには、この先どれほど感謝しようと、し尽くすことはできないでしょう。

 せめて私の生涯をかけ、あなたに尽くしたいと思います。

 私の妃となっていただけませんか?」

「キサキ?」

「兄上ーー!!」


 ダッシュしてきたリュアティスが、椅子の背ごとエリスレルアを抱き寄せた。


「わっ!」

「この人は僕の大切な婚約者です!

 兄上には渡しません!!」

「え、リュアティスの?

 そんなの、聞いてないぞ?」

「僕の誕生会で彼女を披露した時、兄上は帝国をご訪問中でしたから」

「そうか……お前、そういうことは早く言えよ」


 名残り惜しそうな顔をしながらエリスレルアの手を離したルオレアスに、リンシェルアはため息をついた。


「言おうとしたのに、言わせてくれなかったじゃない。

 それにしても、あなたの可愛いもの好きはちっとも変っていないのね」

「可愛いのだから、仕方ないではありませんか。

 というか、リュアティス、しばらく見ないうちに大きくなったなー」


 抱き寄せていた手を離してエリスレルアとルオレアスの間に入ったリュアティスは、自分より8歳年上の第1王子を憮然として見上げた。


「……夏季休暇の前に、ご挨拶いたしましたよね?

 あの時からそれほど身長、伸びていませんよ」


 ルオレアスはクスッと笑った。


「身長のことじゃない。

 僕の大好きな可愛いリュアティスがどっかに行ってしまったようで、おにいちゃんは悲しいよ」

「……これから一生悲しんでいてください」


 ルオレアスは苦笑しながら用意された自分の席に行き、エリスレルアを立たせて椅子を戻したリュアティスをエリスレルアが見上げた。


「リュアティス、キサキって?」

「その話はまたあとで。

 早く食べないと、料理が冷めてしまうよ?」

「そうだった!」


 大急ぎで椅子に座り直し、料理を食べ出したエリスレルアに、ホッとしながらリュアティスも席に戻った。


 ……えーーーっと……


 展開に付いていけず、固まっていたレミアシウスの右肘をリルテが引っ張った。


「レミたんも、食べないと、しゃめるよ!」

「う…うん……」


 それからみんな普通に歓談しながら食事を続けていたが、リュアティスは妙にルオレアスを意識していたし、ルオレアスはエリスレルアやリルテをチラチラ見ているし、レステラルスは思い出し笑いでもしそうになっているのか時々吹き出しそうになっていて、心の底から普通に食事をしているのは、リンシェルア、エリスレルア、リルテの3人だけだった。


 ロドアルさんたちが来ないのは、まあ、当然なんだろうけど、貴族の令嬢のセフィテアさんが来ないのは気まずいからかなって思っていたけど……

 ゆっくり食事を楽しもうと思ったら、部屋で食べるか、時間をずらしたほうが絶対よかったな……


 自分の小者振りに、心の中でため息をつくレミアシウスであった。

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