88 打ち明けられた秘密
「それで!
リルちゃんが転んでしまったけれど、一回転して立ったの~」
「すごいね」
「でしょー!」
レミアシウスさんがなかなか戻ってこない。
どこかで兄君と話されているのかな。
気になるリュアティスだが、気にしても仕方のないことだと切り替えてエリスレルアと話していると、彼女の動きが止まった。
『セルネシウスおにいさま!』
セルネシウスおにいさま?
それがもう一人の兄君?
『うん! リュアティスさんだよ~
……………えっとね~
最初は何を言ってるのかよく聞こえないくらいだったけど、次の時は、来てくれてありがとうって言ってくれて、それからいろいろしゃべれるようになってねー』
僕のこと、聞かれたのかな?
『レステラルスさんのところまで、馬車で来たのよ!
馬車って、すっごく遅いの。
歩いてるのとあんまり変わらなくて。
でも、馬はとてもかわいいのよー。
レストとミレトナなんて、エサの桶を取り合ったりして!』
何の話?
『………リュアティスさんは、ニコニコ見てた!
それから桶をもう一つ持ってきてくれて、中身を半分個したの。
それでねー』
とても楽しそうに話しているエリスレルアを微笑みながら見ていたリュアティスの胸に、『声』が響いた。
『きみがリュアティス君だよね?
はじめまして。セルネシウスと言います』
!!
返事をしようとしたリュアティスは、どこに向かって発信すればいいのかわからないことに気づいた。
こっちの世界にいる二人と違って、セルネシウスは向こうの世界にいるからだ。
どうしようかと思っていると、レミアシウスが戻ってきた。
『レミアシウスさん、セルネシウスという方から話しかけられたのですが、僕の通信方法だと通信先が特定できなくて話しかけられません』
『あ、そうだよね。
にいさん、彼はテレパシー使えないんだよ。
自分の思ったことをこの世界の『力』の魔力で増幅して送っているだけでさ。
………確かにそうなんだけど、テレパシーは相手の居場所に関係なく存在が感じ取れたら送れるじゃない。
彼がやってるのは、思いを目標に向かって魔力で発信してて、そっちの世界がどこにあるかわからない今の状況じゃ、送り先がさ』
セルネシウスが世界の壁に空けた穴は、召喚魔法が使えるリュアティスにさえ感じ取れないほどの小さなものだった。そのため、リュアティスに向かって来ているセルネシウスの『声』もかなり弱く、捉え辛い。
どうやって彼らは話しているんだろう?
『それで~レイテリアスとカルファレスも王子様なの!』
レイテリアス兄上だけでなく、カルファレス兄上も呼び捨て!?
マイペースで話し続けているエリスレルアの話に気を取られ、リュアティスは思わず彼女の話に参加した。
『エリスレルア、カルファレス兄上も呼び捨てなのは、どうして?』
『え?
だって、レイテリアスが、敬称を付けなくていいって言って、レイテリアスって呼んでっておにいさまに言った時に、彼にも付けなくていいよって言ってて。
おにいさまが、カルファレスって呼んでたから!』
あーー!!
レイテリアス兄上、これを狙ってレミアシウスさんに言ったんじゃ……
それは、エリスレルアに呼び捨てにしてもらうため!
『レミアシウスさん………僕のことも呼び捨てにして……』
『えっ!?
そんなこと言われても、僕も「リュアティス君」で慣れちゃって、呼び捨てにするのはかなりやり辛いっていうか~』
そういえば、おにいさまといたら、リュアティス君って呼びたくなるかもって言ってたな……
エリスレルアはこっちの言葉で話す時だけ、僕のことをリュアティスと呼ぶ。
言葉を教える際に、まず最初に「さん」はいらないと教えたからだ。
つまり、最初が肝心だったんだ……
『ってことは、僕だけずっと、リュアティスさんなのか……』
『そ、そんなに落ち込まなくても……エリスレルア!
リュアティスって呼んであげろよ!』
『えーー! なんでー?』
『『……「なんで」?』』
がっくりと肩を落とすリュアティス。
これは……何かの新しいきっかけとか、切り替えのタイミングじゃないと、もう変えられそうにない。
『……リュアティス君……』
『この件については、しばらく諦めることにします……』
『……そうだね……』
リュアティスとレミアシウスが揃ってため息をついた時、セルネシウスが二人だけに向けて『声』を発した。
『エリスレルア経由だときみの『声』もよく聞こえるんだけど、レミアシウス経由だと少しだけ聞き辛くなる。
でも、言ってることはわかるから、これなら会話できるかな』
え?
『リュアティス君は、僕に答える時もレミアシウスに向かって話しかけてくれればいい。
これからする話は、レミアシウスは聞いていてもいいけど、エリスレルアには聞かれたくないんだ』
!!
なんとなくその先を聞きたくなくて、リュアティスの心がざわめく。
すると、どこからともなく、リス型妖精が何体も現れた。
「あ! リスだ! こんにちはー!」
エリスレルアが駆け寄って、そのうちの1体を手のひらに乗せた。
『セルネシウスおにいさま!
これ、かわいいでしょ~。私の友達なの~』
そう言うとエリスレルアは彼らと遊び始め、それまでやわらかい雰囲気だったセルネシウスの『声』の調子がピンと張りつめたものに変わった。
『大体のことは、エリスレルアとレミアシウスから聞いた。
きみがあの子のことを本気で想ってくれていることもわかった。
エリスレルアが、既にきみのことをかなり大切に思っていることもね。
だから、本当はこんなこと、言いたくないんだ。
でも、やっぱり、言うなら早いほうがいいと思った』
『にいさん……』
もう、連れてっちゃう、とか?
『僕たちが地球人とよく似ているのには理由があってさ。
ずっと昔、ルイエルト星がまだ星の形をとる前だった頃、今より約4000年くらい未来の地球から一人の女性が過去に飛ばされて来て、彼女がルイエルト星を作ったんだ。
だから僕らは、地球人と同じ人型の生命体で、男女いる」
……え?
『それは『力』を安定させるのに必要なことで、同性でも異性でも、同じルイエルト星人同士でも他星人とでもいいから、恋人っていうか……この人とずっと生きていきたいと思えるような大切な人と巡り合って愛し合えれば精神的に安定するから『力』も安定する。
エリスレルアの『力』が不安定なのは、彼女の性格もあるけれど、まだそういう精神状態に至っていないっていうのが今は一番大きな理由なんだ』
ほかの星の人とでもいいのなら……僕でも……
そう思いながらも、リュアティスは胸の奥からよくわからない不安が湧き上がってくるのを感じた。
―――どうしてこの人はこんな話をしているのだろう?
『普通のルイエルト星人が暴走したのなら周囲にいる者たちで充分フォローできるんだ。
でも、彼女の『力』はとても強くて、幼少期を一人で過ごさせるのは危険過ぎたから、なるべく暴走させないように僕たちが兄妹になった。『力』の相性のいい兄弟姉妹は、制御の仕方を少しずつでも教えることができるからね。
僕とレミアシウスは元は一人だからホントに双子なんだけど』
兄妹になったって……じゃあ…………………親は?
ギュッと心臓を握られたように苦しくなってきたが、少し離れたところではエリスレルアがリス型妖精と戯れていて、リュアティスはなんとか平静を保った。
『昨日、エリスレルアが言っていた。
ハグをそっちの言葉で書こうとして先生に聞いた時、自分より背が高かったって。
それから、最初に会った時と今のきみが違ってて、泣きたくなったって』
確かに彼女はそんなことを言っていた……
冷たくなった指先が震えないようにギュッとこぶしを握り、想いを発信する。
『鍛練を積んだからだと言ったら、運動して速くなったのならいいか、って言っていました。
僕においていかれると思った、と』
『……やっぱりね』
セルネシウスは、少しだけ躊躇した。
が、エリスレルアたちを、今いる世界にしばらくいさせるか、可能な限り早く自分のいる世界に戻すか、それはリュアティスの返答に掛かっている気がして、告げなければならないと判断した。
『エリスレルアも、レミアシウスも、僕も……全てのルイエルト星人が、生まれた時から現在の姿をしている』
…………っ!?
『内面的、精神的な成長や、身体能力とか、そういう成長はするけれど、姿形は変わらない。
このまま永遠の時を生きていく』
…………それって…………
『僕たちは、不老不死の生命体なんだ』




